髪
赤。
初対面では誰しも第一印象というものがあるが、
それが”色”というのは珍しかった。
少なくともローにとっては。
だが、それほどにその男はその色に包まれていた。
髪、瞳、それから、コート。
いかにも賞金首な風貌と相まって、その男の印象は深くローの脳裏に焼きついた。
まさかそんなことにはならないだろうという大方の予想を裏切り、
キッドとローは出逢ったその日に関係をもつようになっていた。
お互い、戸惑っているのは十分過ぎるほどにわかった。
だが、二人の間に細く張り詰めた一本の線、
それを軽々と飛び越えてきたのはキッドだった。
視界いっぱいに広がる赤。
その色は一晩のうちにすっかりその男の色になってしまい、
今では赤いものを見るといちいちユースタス屋のことを考える自分がいる。
ローはそんな自分をどうかしてると自嘲するものの、
嫌な気分にはならなかった。
むしろ、自分の中に刻み付けられた新しい記憶―――
赤をみるとユースタス屋のことを思い出す自分、
それを愛しくすら思ってしまう。
行為の後、先に眠ってしまうのは自分だった。
尤もそれは、眠るというより気を失うと言ったほうが正しいが。
しかし、先に目を醒ますのも大概は自分であり、
その度に隣で寝息を立てる男が誰なのか一瞬わからなくなる。
それは、あの赤い髪が下りているから。
―――勿論、寝ぼけているせいもあるのだろうが。
起きているときにはしっかり立たせている赤い髪。
その硬そうな印象とは正反対で、見るからに柔らかそうなそれに
そっと指を差し込むと、期待通りのふわふわの手触りだった。
起きているときもこっちの方がいいのに。
そう思った直後、寝てるときだけの方がこのふわふわを独占できる事に気付いたローは
やっぱりこのままでいいや、と思い直した。
自分だけが知っている秘密がひとつくらいあっても悪くない。
そんなことを考えながら、ふわふわの髪を触っていると気持ちよくて、
うとうとと再び夢の世界に戻ってしまうのだった。
次に目を醒ますのは、決まってキッドのキスのせい。
何度目かの甘いキスで現実に戻った後、
朝の身支度で一番にキッドは髪を立たせる。
普段「おれに命令するな」が口癖なローもこのときばかりは進んで手伝う。
もちろん、赤いふわふわを独り占めするために。
end
改定履歴*
20090817 新規作成
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