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Love Cubes 2

目を閉じていてもわかる部屋を満たす光が、朝の訪れを告げる。
ふわふわのベッドと、おれのからだを包むあたたかい毛布がひどく心地いい。
事務所にはこんな寝心地のいいベッドないから、きっとどっかのホテルだ。
チェックアウトまであとどれくらいだろう、さっさと起きないと。
…ああでも、あともう少し、このまま何も考えずに眠っていたい――

「!!」

そこまで考えて思い出した。ここはホテルなんかじゃない。
おれは昨日ユースタス屋に拾われて家に泊めてもらったんだ。

そっと上体を起こし、隣で静かな寝息を立てる寝顔をそっと見てみる。
思わず見惚れてしまうような整った顔立ちは目を伏せていても変わらない。
長い睫毛が目元に影を作って、…ただ、きれいだと思った。

「…はよ」
「お、おはようゴザイマス」
「――っおまえ、朝から笑わせんなよ」

ゆっくりと開いてゆく瞼と、それに隠されていた赤い瞳に見惚れていて、
朝の挨拶が思わずカタコトになってしまった。
そんなおれの失態にくしゃりと顔を崩してわらうユースタス屋のその笑顔がなんだかくすぐったくて、
胸の奥がきゅうっとなる。ああもう、本当おれきのうからおかしい。
いや、おかしいのは昨日まで名前もしらなかった男のベッドで
静かな朝を迎えたこと自体が既におかしいんだけど。

「メシでもつくるかー」

ユースタス屋はおおきな欠伸ついでにそう言ってベッドから出て行くものだから、
おれもなんとなくそれに続いた。
そうすれば、ふと振り返ったユースタス屋がまた笑う。
「ひよこみてぇ」と頭をぽんぽんと撫でられて、その完璧なこども扱いに戸惑いはするものの、
不思議と嫌な気はしなかった。



「よし、いっぱい食え」
「……甘い」
「すきじゃねえの」
「いや…ていうか、なんで朝からホットケーキだよ」
「おまえ向けにつくってやったのに」

ユースタス屋がキッチンに立って程なく、目の前に並べられたのはふわふわのホットケーキだった。
二枚重ねにされたそれにとろりとかかったシロップがたてるあまいにおいが、
今おれをとりまくこの状況とひどくミスマッチに思える。
朝っぱらから男二人で食卓を囲んで、あまつさえ目の前には手作りのホットケーキ。
なんだか頭が痛くなりそうだ。

「おれは男だぞ」
「見ればわかるだろそんなこと。キライなのか、甘いもの」
「きらい…じゃない」
「じゃあいいじゃねぇか。ほら食え」

気付けばコイツの皿にはもう欠片しかのこってなくて、対しておれのはまだほぼ原型のまま残ってる。
ご丁寧に切り分けられているそれを慌ててひと切れ口に含めば、なんだか懐かしい味がした。

「うまい?おれ、実はこれしか作れねぇんだよ」
「あまい」

最後のひときれをぱくりと口に放り込んで頬杖をつき、にこにことおれを見守る
ユースタス屋と目線も合わせられず一言そう呟けば、
ユースタス屋は素直においしいって言えないおれを見透かしているようにまたふわりと笑った。

…あ、ありがとうって言うのわすれた。
ユースタス屋のせいだからな。こいつが、甘い甘いホットケーキなんか作るから。




****
「…おかえり」
「た だいま」
「あの、これ借りた。エプロン」
「あ ああ、うん」

朝から仕事に出かけたユースタス屋と、特に出かける予定もないおれ。
もっと言えば、ホットケーキしか作れないユースタス屋と、それなりに自炊ができるおれ。
夜遅くに帰ってくるユースタス屋に夕食を作っておくのは、自然の流れだと思うんだ。
だからそんなに目に見えて戸惑うことないと思うんだけど…。

「晩メシ作ってくれたのか?」
「うん…何がいいか分からなかったから、オムライスだけどおまえ食える?」
「食える、つーかおれこれ好き」

ネクタイを緩めながら嬉しそうにテーブルに並べられたオムライスを覗き込む姿が
なんだか急に可愛らしく思えて、おれは笑顔になるのを止めることができなかった。
よかった、暇潰しとはいえ喜んでもらえて。
明日も暇だったら何か作っといてやろう、タダで泊めてもらうのも申し訳ないしな…
なんて思いながらキッチンに飲み物を取りに行こうとした、ら。

「え、ちょ…ユースタス屋、待…っあ!」
「…かわいい」
「ひぁっ、あ、ん!」
「トラファルガー、嫌じゃないならじっとしてて」

急に手を引かれて、そのままぎゅうっと後ろから抱きすくめられる。
なんだ何がおこったんだ、なんて考える暇もなく首筋に顔を埋められて可愛いなんて言われて。
そのまま首筋をぺろりと舐め上げられて思わず声が出てしまった。
くすりと耳の傍で笑うユースタス屋の吐息がくすぐったくて、おれはぎゅうっと目を瞑る。
いつのまにか壁を背にして向かい合わせに閉じ込められ、耳に、頬に、唇に落とされていくキスが
あたたかくて優しくて、こんなに性急な行為だというのに嫌な気分にはならなかった。

――でも、だめだ。おれは泊まらせてもらう立場なのに、されるばっかりじゃダメだろ?
そう思ったおれは、次々に降ってくるキスの合間に意を決して口を開く。

「ゆーすたすや、おれ、あの」
「ん?」
「…そういうのすきなら、おれいっぱいサービスするよ」

そう、今のおれにできるのはそれだけ。
ユースタス屋が相手なら、キスもリップサービスも、おれはきっと今までで一番上手にできる。
そう思ったのに、返ってきた返事はとても冷たいもので…

「…んだよ、それ。客扱いか?」
「――違う、おれ」
「おれとアイツら一緒にしてんのか」

どうしよう、怒らせてしまった。
ユースタス屋と、おれがいままで相手してきた客が一緒なわけない。
おれは、ユースタス屋が好きだから、ユースタス屋が喜んでくれるならなんでもしたくて、
それがキスとかセックスとかならおれがんばれると思ったから…
否定の言葉も言い訳も頭の中でぐるぐる回るだけで、なにも言葉がでてこない。

…好き?そうか、おれはユースタス屋がすきなのか。
だから抱きしめられるとドキドキして、キスされても嫌な気持ちにならないんだ。
それにしても助けられて一目惚れなんておれもベタなことするな――…

ぼんやり頭をそんな考えが巡って、でもいまさら好きだなんて気付いても意味ない。
だっておれはもう怒らせてしまって、うまい言い訳のひとつもいえてない。
初恋は実らないっていうのはホントだったんだな。

相変わらず喉からは言葉が出てこなくて、仕方ないからユースタス屋の目をじっと見る。
いつのまにか好きになっていた赤い瞳には今はおれだけが映っていて、そのことがすごく嬉しい。
そんなことを考えながら、おそらくおれに『出て行け』と告げるであろうユースタス屋の口がゆっくり動くのを、
おれはスローモーションのように見ていた。



「おまえは何もしなくていい。…おれはおまえがいてくれるだけでいいんだよ」

――いま、ユースタス屋はなんて言った?
なにも なにも考えられない。
なぁ、おまえもおれのことすきってことか…?

「ごめん」

やっと出た言葉は、ユースタス屋にちゃんと聞こえただろうか。
ゆっくりおれの背中を撫でてくれるおおきな暖かい手の感覚に、一粒だけ涙が零れた。





end

改定履歴*
20110119 新規作成
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