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不機嫌の理由

かちかちかち。

授業中に隣の席から響いてくる、携帯の操作音。
最近いらいらするのは、きっとそのせい。

単純に、一生懸命勉強してるおれの隣でメールばっかりしてるやつがうざいから。
ただそれだけで、ほかに意味なんて絶対にないと思っていたんだ。



****
夏休みが終わって最初の金曜日。
休みボケもそろそろ治って、今日は部活も休みだしクラスのやつらとカラオケに行こうって話になった。
休み明けに実施されたテストがまだ返却されていない今のうちに、
久々に大人数であそんでしまおうということだ。

朝イチで決まったその話をすごく楽しみにしてたのに、おれは早速放課後職員室に呼び出された。
理由は、遅刻しそうになってバイク通学したのがバレてしまったから。
新学期早々ついていないが、まあこれはおれが悪いから仕方ない。

待つと言うキラーを制して先に向かわせたから、教室にはもう誰もいないはず。
そう思って鞄を取りに教室のドアを開けると、そこには一人でぼーっと音楽を聴いてる男がいた。

隣の席の、トラファルガー・ロー。
授業中にメールばかりしておれをいらいらさせてる張本人だった。
これで成績は学年トップというから不思議なものだ。

「ユースタス屋なにしてんの?もうみんなカラオケ行ったぞ」
「おれはちょっと…それより、おまえは行かなかったのか?」
「行こうと思ったけど予定はいっちゃって。わりぃな、また誘って」
「また?…おまえいつ誘ってもそう言うだろ」
「そーだっけ?」

心配するおれの気持ちなどお構いなしにへらりと笑うこの男は、高校に入ってからの友達だった。
身長はおれより低いものの、すらりとよく伸びた手足に整った顔立ち。
深い藍の髪と、それとおそろいの瞳。
どこにでもある普通の制服をどこぞのブランドもののようにキレイに着こなすそのスタイルのよさは、
その辺のファッション誌のモデルにもひけをとらないと思えるほどのものだった。

さらには、このつかず離れずの人当たりのよさで、どこに行ってもとりあえずモテる。

入学時に騒がれたのはもちろんのこと、体育祭に文化祭、バスケ部の遠征先、バイト先、
それこそ後輩から大学生、さらにはどこからみつけてきたのか社会人まで関係なしだ。

「…その『約束』ってやつには行かなくていいのか」
「んー…もうちょいしたら迎えに来てくれるっていうから」
「またこないだの男?」
「こないだのって?」
「…正門まで迎えにきてた大学生」
「あ、今日はそれじゃない。バイト先で会った社会人。うまいもんくわせてくれるって」

そう、こいつはいわゆるゲイだった。
それも、相手はとっかえひっかえでかなりの浮気症。
…いや、特定の『彼氏』がいないから遊び人といったほうがいいんだろうか。

おれはトラファルガーのことは友達として好きなんだけど、そこだけは理解できない。
カラダだけの関係ってなにがいいんだ。だって、好きだからそういうことするんだろ。

とにかく、性別はともかく相手は一人に絞ったほうがいいと思うんだ。
見るからにケンカ慣れしてなさそうなこいつのこと、何かトラブルが起きてからじゃ遅い。
友達を心配するのは当然だ。

「おまえさぁほどほどにしとけよ」
「なにユースタス屋、心配してくれてんの」
「当たり前。そんだけめちゃくちゃやってて、いつか刺されでもしたらどーすんだよ」
「大丈夫、うまくやるって」
「だけど」
「――あ、メール…もうすぐ来るってさ」

机の上に置きっぱなしだった携帯のライトが点滅して、メールがきたことを知らせる。
同時に、おれから逸らされる瞳。

かちかちと音をさせてそれに返信するトラファルガーを見た途端に、
おれのなかでよくわからない感情が首をもたげた。
それは、最近よく感じる、あのいらいら感。

気付けばおれは、その手を携帯ごと握っていた。

「なに、ユースタス屋」
「いいか、今日はちゃんと家に帰れよ」
「…いやだ、あんなとこ帰る気しねェよ」
「なんで」
「あんなとこに帰ってもどうせひとりじゃねェか」

トラファルガーの家は、資産家だった。
ただ、物心ついたときには既に母親はおらず祖母に育てられたのだという。
その祖母も亡くなり、父親は手ごろなマンションにコイツを放り込んだまま仕事に夢中なのだとか。

「トラファルガー、いいから帰れって。昨日もろくに寝てねぇんだろ?隈がひどい」
「ほっとけよ、べつにおれが遊びまわってもおまえには関係ねぇじゃん」
「関係なくねぇよ」
「ない!もうユースタス屋うるさい、なんでおれにばっかり構うんだよ!」

――なんで?
何でトラファルガーに構うのか。何でトラファルガーが携帯を触るたびに、
…おれの知らない男と連絡をとる度にいらいらするのか。

改めて考えてみれば、答えはこんなにも簡単なものだった。



「おまえのことが好きだからに決まってんだろ」
「―――はぁ!?」
「好きなんだって。じゃなゃこんなに気になるか」
「嘘つけ、だっておまえ男がすきなんていままで一度も」
「男が、じゃなくて おまえが好きなの。わかる?」

混乱したトラファルガーは、何言ってんのオマエとか、
バカじゃねぇのとかそういうことを言っていた気がする。
でもおれは、やっと胸の奥に仕えていたもやもやがなくなってやけに清々しい気分だった。

「おまえがひとりが嫌だって言うんならおれが一緒にいてやる」
「なにバカなこと…」
「本気だ」
「本気って、――っ、暑さで頭おかしくなったんじゃねぇの…」
「それでも構わねぇよ」

握ったままだったトラファルガーの手から携帯がすべり落ちて、かたんと音を立てる。
おれの好きな深い藍のキレイな瞳は、おれに向けられたままだった。

「なぁトラファルガー、そいつにメールするんなら今日の約束ダメになったって言えよ」
「……」
「ついでにもう会えない、メールもしねぇって」
「だからなんで…」
「ほかの男に会う暇なんてないくらいにおれが一緒にいるから」
「ユースタス屋、冗談やめ 、――ん!」
「――…、ちょっとは本気だってわかった?」

言い訳ばかりでおれの言うことを否定してばかりの唇をふさいでやる。
薄く開いていた唇から舌を進入させると、ほんのりとあまい味がする。
てっきりキスなんて慣れてるんだろうと思えば、なんてことない、目の前の顔は真っ赤に染まっていた。

なんだカワイイとこあんじゃん、と言いかけたのをなんとかこらえた瞬間に、
その言葉がおれの中で愛しさへと変わってゆく。



――とりあえずは、おれの片想い。

だけどこれはこれで楽しそうだ。
そのうち、授業中にかちかちと聞こえる音はなくなるだろう。
携帯に向かってる暇なんてないくらいに惚れさせてやるよ。





end

改定履歴*
20100828 新規作成
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