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つま先立ちのキス -3-

唇が触れていた時間は一瞬だったように思う。
だいすきな紅茶色の瞳がどんどん近づいてきて、
ぎゅうっと目を瞑って、息を止めて。
唇に触れるやわらかな感触は、いつもと同じような、違うような。
ただ、とくとくと規則正しい鼓動だけがやけに耳に響いた。

「……っ、はぁ」
「坊ちゃんからキスとはめずらしいですね」
「うるさい、…いうな、そういうこと」
「嬉しいんですよ」
「ばか」

セバスチャンはそんな可愛らしい『ご主人様』のさわり心地のよい頬をひと撫でして
ひょいと抱き上げると、今度は自分からキスをする。
左手一本で細身のからだを支え、右手を細い顎に添えて自分の方へと導いて。
ちゅ、ちゅうっとわざと可愛らしい音を立ててみれば、
恥ずかしいのだろう、シエルの瞳にはあっという間に涙の薄い膜が張った。

「…ずるいぞ、セバスチャン」
「なぜ?」
「僕は一回するので精一杯だったのに…」
「………」
「わ、笑うな!失礼なやつめ」
「申し訳ありません、マイロード」

自分の首に甘えるように腕をまわして、小さな声で拗ねるご主人様の文句に、
セバスチャンは思わず頬が緩んでしまうのを抑えることができなかった。
手始めに、照れ隠しのようにぺちぺちと自分の肩を叩くシエルの
すっかりさくら色に染まった頬へキスをひとつ。

――さてこのご主人様のご機嫌をどうやって直して差し上げようか。

セバスチャンはそんなことを考えながら、シエルの部屋へと向かうのだった。





更新履歴*
20110120 新規作成
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