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I think of U -4-

あの夏祭りの日に自分の気持ちを認めてしまってから、
おれの毎日はユースタス屋のことを考えるので忙しくなってしまった。

夏休みが終わって授業が始まると必然的にユースタス屋と一緒に過ごす時間が増える。
授業を意外にもマジメに聴いてる姿、体育の時の異常なくらいのかっこよさ、
たまに一緒になる下校時の寄り道でするいろんな話。
どれだけ一緒にいても新たな発見は尽きなくて、そのたびおれは、こいつのことが好きなんだと再認識するんだ。

最近では考える時間が起きている時間だけじゃ足りなくなったみたいで、
夢にもあいつが出てくる始末。
特にここ数日間は毎晩のように同じ夢を見る日々が続いていた。


おれがユースタス屋に後ろから目隠しして、『お前の好きなやつ、だれだ?』って聞く。
そうしたらユースタス屋は、振り向いて笑顔でおれをぎゅっと抱きしめてくれるんだ。
息遣いが感じられる程の耳の傍で紡がれる名前は、もちろん……

「おれ、だったらいいのにな」

誰もいない廊下で、ため息と一緒に呟く。
そう、何度も繰り返し見た夢は、決まってユースタス屋がおれの名前(だと思う)を
言う直前で終わってしまうんだ。まるで神さまがおれに意地悪してるみたいに。

あと10秒、いや5秒でもいい。
目覚めるのが遅ければ、どれだけ幸せな気分になれるだろうか。想像もつかない。

…というか、夢の中にもあいつが出てきて、その上内容に一喜一憂するなんておれも大概ヤバいな。うん。
ああでも、一度でいいから、あの続きを聞きたい――そう思ってたのが原因だろうか。
偶然見つけたあの背中に思わず駆け寄って、あろうことか夢と同じ行動をしてしまうだなんて。

「お前の好きなやつ、だーれだ?」

しまった、そう思った時にはもう遅くて、目元を隠していたおれの手に、
ユースタス屋の大きなあたたかい手が添えられてゆっくりと退けられた。
それだって心臓に悪いのに、あきれたように返事をして振り向くユースタス屋には
こんなことする相手がおれだってことくらいバレバレだったみたいだ。

「…またお前か、トラファルガー」

まさか、あれほど望んだことが、こんなに簡単に叶ってしまうだなんて。

ただひとつ残念なのは、夢と違って振り向いたユースタス屋がおれを抱き締めてくれないところだけだけど、
実際にそんなことされたら心臓が爆発するからそれはいいとする。

さっきまでは『どうしよう』って心配してたのに、そんなのはあっという間にどこかに消えてしまった。
名前を呼ばれただけでこんなに幸せな気持ちになれるなんて今までなかったことだ。
ユースタス屋が構ってくれるのがどうしようもなく嬉しくて、おれは笑顔になったまま返事をした。

「あは、バレたぁー」
「ったく、こんなことすんのどっかのアホくらいだろ」
「アホって誰だよ?まさかおれ?」
「うん、お前の事な」

――あ、笑った。おれ、やっぱりユースタス屋の笑顔すきだな。
こいつはかっこいいけど、男らしい顔立ちのせいか黙ってると怖いくらいなのに、
笑ってるときはなんだか子どもっぽくて、それが可愛い。

だから、欲が出てしまったんだ。
片想いでいいって決めてたのに、ほんの少しの望みを捨てきれなくて。
あるはずのないことを聞いてしまった。

「なぁユースタス屋、それよりさ」
「?」
「あのタイミングでおれの名を呼んだってことは――」
「なんだよ」
「ユースタス屋の好きなやつって…」
「…」
「おれ?」

ユースタス屋の赤い瞳が、驚いたように揺れる。しまった、今度こそ失敗だ。
いやだ、嫌われたくない。嘘だよ、冗談だよ、本気にとってんじゃねぇよって言わないと。

「…なんてな」

震える声で返事をして、くるりと背を向ける。これ以上ここになんていられない。
思わず逃げ出しそうになったおれの足を止めたのは、ユースタス屋の声だった。

「っ待てよ、トラファルガー!」
「…っ、」

名前呼ばれて無視なんてできないだろ。でも、怖い。
この場から逃げさせてくれよ、頼むから。
背を向けたまま、気付かれないように深呼吸をひとつ。
おれは精一杯冷静を装って後ろを振り向いた。

「――びっくりした?」
「トラファルガー」
「冗談だよっ」

おれ、今、うまく笑えただろうか。
冗談だよって言葉を、ユースタス屋は信じてくれるかな。

「…ごめん」
「待っ…!」

これ以上ここに居れなくて、おれは逃げるように廊下を走った。
ばかだおれは。きっと変に思われた。
片想いでもよかったのに、あいつがいつも優しいからってあんなこと――


後ろでユースタス屋の声が聞こえた気がするけどもう立ち止まる勇気がない。
そのままいつもみたいに階段を駆け上がって、立ち入り禁止の扉を開ける。
おれの、お気に入りの場所はおかしいほどいつも通りで、眩しい太陽とやわらかな風がおれを迎えてくれた。


振り返っても、ユースタス屋の姿はなくて。
汗と一緒に、我慢していた涙が溢れた。


――おれは、なにを期待してたんだろう。


振り返ったってそこにいるはずなんかないのに。なんで、涙なんか出るんだよ。本当に、ばかだ。

「…う、っく、ひ…」

拭っても拭っても止まらない涙は、おれのカーディガンの袖をどんどん濡らしていった。
こんなに辛いなら、ユースタス屋を『好き』って気持ちもこの涙と一緒に流れて消えてしまえばいいのに。
そうしたら、普通の友達みたいになれるんだろうか。
ただのクラスメイトとして、一緒に授業受けたり遊んだり、
どっちかに彼女ができたら喜んだり、そんな普通の友達に。

――いやだ。嫌だよユースタス屋。おまえがおれ以外の誰かと付き合うなんて嫌だ。
そんなのを見ていつも通り笑うよりも、辛くてもおまえを好きでいたい…。

「〜〜っ、ゆー…す、や、」

自分の想像でさらに泣いてしまうおれは本当におかしいのかもしれない。
でも、涙腺が壊れたみたいに涙がとまらない。
頭の中にあるのは、だいすきなユースタス屋の事、だけ。


だから気付かなかったんだ。おれの後ろに、待ち望んでいたひとが来てくれたってことに。

ふわり、おれのからだをあたたかな感覚が包んだ。
振り向かなくてもわかる。
気配だけで嬉しくてどうしようもなくて胸が苦しくなるなんて、あいつだけ、だ。
びっくりしすぎて、涙も止まってしまった。

「……ユ、」
「『お前の好きなやつ、だーれだ』」
「そ、れは…」

聞きなれた大好きな声が、先程のおれの言葉を繰り返す。
『ユースタス屋』って言ってしまいたい。そう言えたらどんなにいいか。

言葉にできない想いは、口から出る直前に熱になってしまったみたいだ。おかしいくらい顔があつい。
おれ、今きっと、すごい顔真っ赤なんだろうな、なんてぼんやり考えてたら、
くるりと体を反転させられてしまった。

「言えよ」

目線の先10センチのところに、ユースタス屋の赤い瞳がある。
大好きなその色には、今はおれしか映っていなくて、

――おれの唇はそれに導かれるように言葉を紡いだ。

「…おれは、 ユースタス屋が…」

言い終わらないうちに触れたくちびるが、おれの思考を奪う。
一瞬だけふわりと触れて、目が合って、もう一度。今度は、深く。
長いキスで息ができなくてくらくらする。頭の後ろに回された手が熱い。
ぐっと抱き寄せられて行き場を失ったおれの手は、勝手にユースタス屋の服を掴んでいた。

…ユースタス屋も、おれのこと少しは好きって思っていいんだろうか。
だって、これってそういうことだよな?なぁ、ユースタス屋…

「…、泣くなよ」

どれだけ時間が経ったんだろう。
はじめてのキスの後のユースタス屋の言葉は、ひどくやさしくおれの耳に響いた。

色々考えているうちに、また感情が溢れて涙になる。
頬をつたっておちていくそれを慌てて袖口で拭くおれの頭を、ゆっくりと撫でてくれる大きな手。
あったかくて、うれしくて、涙が止まらない。

「嫌だったか…?」
「ち、ちがう!!」

そうだ、おれまだ何も言っていない。いつもは自信に満ちている、
目の前にある赤い瞳が、少しだけ不安そうに翳っていた。

――だめだ、泣いてばかりいないで、おれもちゃんと伝えないと。

震える唇を開いて、一言ずつ言葉を紡ぐ。声、ちゃんと出ているだろうか。自信がない。

「だって、おれ、ずっと ユースタス屋がすきだったんだ」


胸が、苦しい。今度こそ好きだって言ってしまった。もう誤魔化せないと思うと足が震えそうで…
不意におれの腕を引くユースタス屋の胸にすっぽり収まってしまった。



「おれもお前が好きだ」

しっかり抱き締められて、耳の傍で聞こえる言葉は、緊張のせいでうまく脳に伝わらない。

今、ユースタス屋は、何て言った?おれのこと好きって、言ってくれた気がする。
でも、素直にそれを受け入れられない。
だってもし聞き間違いだったら、もうおれは立ち直れない――…

「…嘘だ」
「嘘じゃねぇよ」



「ロー、好きだ」

こつんと額を合わせられて、繰り返し告げられる言葉は、確かに甘い響きをしていて…
これは現実なのだ、と思わせてくれるのに十分な力を持っていた。









「何、泣いてんだよ」
「だって」
「だって、ずっと、好きだったんだ」




「ったく…泣き虫。」
「…うるせぇ…」

きゅっとおれを包む力強い腕に誘われるまま、おれよりも背の高いユースタス屋の肩口に顔を埋めた。
あたまの上から聴こえる、やさしい声がやわらかくおれの耳に響いた。


ユースタス屋を好きなおれと、
おれを好きなユースタス屋。

好きなひとに、好きになってもらえたしあわせ。


夢みたいだ、と言ったらおまえは笑うだろうか。

でもこれは、きっと醒めない夢だ。

――今までもこれからも、ずっとずっと、きみのことだけが好き。






改定履歴*
20100615 新規作成
霧ちゃんの学パロ設定お借りしました!
この告白編は、手ブロで霧ちゃんが素敵漫画を描かれていらっしゃるので、
小説を書いていいものかどうかすごく悩んだのですが、
ワガママ言ってすごく可愛い絵を描いていただけたので
それを飾りたくて思い切って書かせていただきました。
告白編の漫画とてもとても可愛かった…!
何度も読み返したので、セリフとかはわりとそのまま使わせていただいています。
なのでこれ書いてる間中しあわせでした。ありがとうございました!
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