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I think of U -3-

「――だから、他のヤツと行ってきて。ごめんな」
『わかったから寝とけ』
「…ん。じゃあ」

ベッドの上、寝転んだまま携帯の電源ボタンを押して、ため息をひとつ。
傍らに置きっぱなしの体温計は到底平常時とは言えない数値を示していた。
喉が渇いて仕方ないけど、冷蔵庫まで行く気力はない。おれは、そのまま枕に顔を埋めた。

今日は、前から楽しみにしてた夏祭りの日だったのに。
ユースタス屋と一緒に祭にいく『他のヤツ』が羨ましくて仕方ない。
自分でそう言ったくせに、おれはほんとに我儘だな。
そして運悪すぎ。なんでよりによってこんな日に風邪なんかひくんだ。

夏祭りと言ったら夏休みの最大イベントだろ。せっかく、一緒に行こうって約束してたのに。
あいつと一緒に夜店を回ってかき氷とかたべて、花火を見て。
ああ、ユースタス屋は射的も上手そうだな。見てみたかったな。絶対かっこいいんだろうな。

――ダメだ、なんか涙でそう。

かっこ悪い。もう子どもじゃないのに。もう余計なこと考えずに寝てしまおう。
朝になったらきっと熱も引いてるはずだ。
そしたらユースタス屋にメールして、『昨日はごめんな』って…

そこまで考えたところで、玄関のチャイムが鳴る。
何だろう、宅配は何も頼んでないし、郵便か?
悪いけど居留守を使わせてもらおう、そう思ったときだった。

握ったままだった携帯から着信音が響く。
ぼんやりと画面に目線をやると、
そこに表示されているのはおれが今の今まで考えていた相手の名で。

…え?まさか。

通話ボタンを押すのも忘れてふらつく足で玄関へ向かう。
扉の向こうには、ユースタス屋が心配そうに立っていた。

「な、んで」
「…おまえ、親が海外行ってて、ひとり暮らしだって言ってただろ」
「そうじゃなくて、夏祭りは」
「あ?ガキじゃねぇし、めんどくなってやめた」

ほら、と押し付けられるように手渡されたコンビニの袋には、
ポカリの大きなペットボトルとプリンとゼリーがひとつずつ。
それから、もうひとつの袋には花火が入っていた。

ユースタス屋の大きな手に、指先が触れて心臓が高鳴る。

「うわ、なんだお前熱すげぇあるじゃねぇか」
「…へーき、これくらい」
「そういうのヤセ我慢っていうんだよ。どっちかなら食えるか?」
「え、あ、うん」
「そか、よかった」
「――…」
「明日とかさ、熱が下がったら、花火しようぜ。近くに公園あったよな」
「ユースタス、屋」

言葉が出ない。どうしよう、うれしい。
おれのこと心配して、おれのこと想って、わざわざ来てくれたのか…?

約束をキャンセルしてしまったのに、会いに来てくれたこと。
今日、夜空に咲く大輪の花を一緒に見ることは叶わなくなってしまったけど、
手元で小さく咲く花を一緒に見れる約束をユースタス屋がくれたこと。
一緒に居ない間でも、ユースタス屋の意識のなかにおれがすこしでも存在してるってこと。
そのひとつひとつがあわさって、おれの幸せ許容量を遥かに超えてしまった。

「なぁ、泣くなよ」
「…泣いてねぇ」

頬を伝う涙を拭うユースタス屋の冷たい手を、あったかいと感じるなんて。

どうしよう、もう本当に好きになってしまった。






改定履歴*
20100513 新規作成
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