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surprise

―――きみの、よろこぶ顔が見たいんだ。



季節の変わり目、秋の入り口。
駅からの帰り道、風が冷たいこんな日は、早く家に帰りたくなる。
だが、心なしか早足になってしまうのは、それだけが理由ではなかった。
今日は、大事な記念日だったから。

仕事を終えるとまっすぐ帰宅して、玄関のインターホンを押す。
嬉しそうな返事の後に聞こえるのはリビングのドアから玄関へと歩いてくる足音。
がちゃ、と玄関が開けられて一番に見るものは、ローの笑顔。
そんなささやかな幸せのある生活が、ちょうど一年前に一緒に暮らし始めてからのキッドの日常だった。

今日は、その時にコレを渡そう。
手に持った大きな紙袋の中、ローへのプレゼントを見ながら
キッドの頭の中には、そんな想像が出来上がっていた。



****
家へ辿りつくと、心の準備をしてインターホンを押す。
ところが、今日に限って何の反応もない。
ただいまと声をかけ、自分で玄関のドアを開けてみると、電気も消えていた。
折角なら、笑顔でおかえりと出迎えてくれるあいつに、これを渡したかったのに――。
そう、すこしだけ残念に思いながらリビングのドアを開けた次の瞬間。

「おかえりっ!」

鳴り響くクラッカーの音と共に電気が点き、ローが現れた。
仕事の疲れも、外の寒さも吹き飛ばすような笑顔。
そのまま抱き付きキスをねだるかわいい仕草に頬が緩む。

「見て見て、おれ、今日頑張ったんだ」
「ん?なに―って、すげぇ!!パーティじゃん」
「そうだよ、だって今日は――…」

テーブルの上には綺麗に盛り付けられた沢山の料理とワイングラス。
それから、真ん中には苺だけがたくさん載った生クリームのホールケーキ。
思わずそれに見惚れていると、その視線に気付いたローが声をかける。

「色が、オマエみたいだろう」

そう言って得意げに笑うローは、幸せそうで。
もっともっと、この笑顔を見たいと思った。
腰に手を回してそっと抱き寄せ、キスをする。

「ロー、ありがとう」
「うん」

ちゅ、と音をさせて離れると、ゆっくりと開く瞼。
目と目が合うと、それだけで嬉しい。
首に回されたローの腕に応えるように、きゅっと抱き締めると、
髪からふわりと甘いクリームの香りがした。

「おれからは、これ。一緒に飾って」
「え? …あっ」

そう言うと、その手に持ったままだった紙袋の中のプレゼントを差し出す。
花が、テーブルの上に飾られていなくてよかった。
プレゼントが無駄にならずに済んだから。

「これもオマエみたいだなっ」

赤い髪に、赤い瞳。
そして、手には真っ赤な花束。
どんな顔をして花屋でこれを買ったのだろう。
それはそれは、目立っただろうに。

その姿を想像するだけで、自分の為に外見に似合わないことをするキッドのことが
無性に愛しくなってきて、キレイな薔薇の赤が涙で滲んだ。


―――きみの、よろこぶ顔がみたいから。
何が一番嬉しくなってもらえるかって考えて。
ワクワクしながら、準備して。
そんな幸せな時間を、お互いの知らない間に共有できていたんだね。



****
テーブルの上には、キッドが選んだ真っ赤な薔薇の花束とロー手作りのごちそう。
そして、甘党のキッドのための丸い苺のケーキ。
グラスの中には、スパークリングワインの細かい泡が踊る。

「じゃー、とりあえず乾杯すっか」
「だな!」


「「一周年、おめでとう!」」






end

改定履歴*
20091013 新規作成
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