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桜、ひとつぶ

東の空が、ようやく明るくなる頃。本来はふたり分の寝息が聞こえるはずの寝室には、
広めのベッドの半分だけを使って眠る人影があった。
暖かそうな毛布と羽毛布団に包まれて、赤い髪だけが微かに見える。

「ユースタス屋!大変だ!」

その心地よい静寂を破ったのは、このベッドのもう半分を使う筈だった人物――ローだった。
勢い良く玄関を開け、靴を脱ぎ、その勢いのまま寝室に突入してベッドにダイブする。
今の今まで寝ていたキッドは、寝ぼけながらも自分の上にいるのがローだとわかると、
しっかりとその体を抱き締めた。

「…んだよトラファルガー、いま何時だと…うわ、まだ6時じゃねぇか」
「いつまでも寝てるお前が悪い」
「おまえが朝帰りしただけだろうが!」
「だって気付いたら終電逃したし」
「そういう時は迎えに行くから電話しろっつってんだろ。何回言えば解るんだこのアホ」
「わかったわかった気をつけるから!それよりも」
「お前ちょっとは反省するフリ上手くなれよ」
「あのな!咲いてるんだ」
「何が」
「桜!」



***
朝焼けの中、ふたつの影が川沿いの道をゆっくりと歩く。
数日前に見たときにはまだ固く閉じていた蕾は、もう綻び始めていた。
他愛のない話をしながら、目的の木に辿りついたローが嬉しそうに指差す先には、
ひとつの桜が咲いていた。

「なっ、言ったとおりだろ?」
「おー、よく見つけたな」
「すげーだろ?きっともう、すぐに満開になるぞ」

もこもこマフラーを巻いて、楽しそうに自分を見上げて話しかけるローの笑顔は本当に嬉しそうで、
キッドは思わず繋いだ手を引き寄せて頬にキスをした。
たったそれだけで頬を赤くするローがとてもとても、愛しい。

「ばっか、何すんだよ!人がいる…」
「大丈夫、誰も見てねーって。それより」
「なに?」

もう一度、今度は唇に。ローは驚いて離れようとするが、
腰と後頭部に回されたキッドの大きな手はそれを許してくれなかった。
酸素が足りなくなって息継ぎをしようとすれば、進入してくる舌に自身のそれを絡めとられる。
与えられる刺激に思わず膝の力が抜けそうになった瞬間、
口内に甘いものを残してやっと解放された。

「声、枯れてる。それでも舐めとけ」
「―――〜〜、飴玉なら口移しじゃなくて手でもいーだろ!」
「はは、照れんな。医者のタマゴの癖して風邪引くぞ」
「…風邪じゃなくて、朝方までキャス達と朝方までカラオケ居たからだ」
「はいはい。まぁ、満開になったら今度は昼間に来よーぜ。そいつらも誘って」

真っ赤な顔で文句を言うローの手が、それでもけして自分の手を離さないことに気付いたキッドは、
柔らかな笑顔のまま来た道をゆっくりと引き返すのだった。





end

改定履歴*
20100327 新規作成
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