top * 1st * karneval * 刀剣 * utapri * BlackButler * OP * memo * Records

お気に入りの色 -1-

――朝から、最低な気分。


まだまだ睡眠を欲していた体を無理やり起こしてなんとか予定の電車に滑り込む。
満員電車は世界で一番嫌いな乗り物だ。

講義なんかバカ正直に聞かなくても、試験はなんとでもなる自信はあったが、
だからといって休みすぎると出席がヤバい。
年度末になってそんなことで焦るのはごめんだ。
だから、今日は久々に朝イチの講義から出席するべく頑張った、のに。

先程から腰辺りでさわさわと不自然に動いていた手が、意志をもって臀部へと伸びていくのが解る。
身動きできない程の混み様だというのに朝っぱらから御苦労様なこった…
というか、おれは男なのにどこの変態だ。

面倒だからと気付かない振りをしていたのだが、そのことに気を良くしたのか、
手は下腹部へと移動してくる。
暫く開かないままのドアに押し付けられて、
服の上から自身を柔らかく掴まれて思わず腰が揺れた。

ふざけんな何調子に乗ってんだ、その指思い切り逆方向に折ってやろうか。
そう決心して腕を伸ばすが、寸でのところで邪魔な手は黒く彩られた爪の大きな手に捕まれた。
そのまま腕を捻り上げられたらしい痴漢は、
タイミングよく着いた駅で逃げるように降りて行ったらしい。

"らしい"、というのは、おれの目が痴漢ではなくて
捕まえた男の方に釘付けになっていたからだ。

赤い瞳に赤い髪。オマケに爪は黒く塗られていて、人相ははっきり言って悪い。
なんつーか、これ、コドモだったら泣き出すんじゃねーの?ってくらいに。
とにかくその風貌のせいもあってか、目が離せない。

「お前、何ボーっとしてんだよ」
「…身動きとれねぇし面倒くさかったからほっといただけだ」
「だから変態が増長すんだろが。次は自分でなんとかしろよ」
「おれに命令するな。別に助けてくれなんて頼んだ覚えはねぇし」

自分の性格が嫌になる。助けくれてありがとう、本心ではそう、思っているのに。
口から出てくるのは我ながらムカつくセリフばかりだ。

それでも、声が心なしか震えているのは、痴漢に遭ったからか、
はたまた、目の前の男に喋りかけられているのが嬉しいからなのか。

お互い男同士だしおれは今のところそんな趣味はねぇのに、
こんなことを考えるだなんてどうかしている。

「……お前を助けたおれがバカだったぜ」
「どうやらそうみたいだな、…うわ」

今日の電車の混み具合はひどかった。駅に停まるたびにたくさんの人が乗り降りし、
主要駅に近づいていくにつれて車内はどんどんと混雑してくる。
次に停まった駅でのドアの向こうにはずらりと人が並んでいるのが見えた。

今でも十分なくらいの乗車率なのに、これ以上人が乗ってくるのか。
さっきの痴漢が居なくなって少しは安心できたのも束の間、
このままでは人の波に潰されんじゃねぇか。やっぱり朝の電車は嫌いだ。

そう思った瞬間、目の前の男が面倒くさそうに舌打ちをする音が聞こえた。
同時に、体にかかっていた圧力がふいと軽くなる。
目の前には、赤い髪とピアスも何もついていない綺麗な耳たぶ。
両耳に2つずつ穴の空いている自分とは違ってきれいなそれは、驚く程至近距離にあった。

微かに香るどこぞの有名ブランドものの香水のニオイが自分をふわりと包む。
ぎゅうぎゅうの車内とは対照的に、自分の所だけにできた少しだけ余裕のある空間。
守られているのだと理解するのに、そう時間は掛からなかった。

その瞬間、赤い髪と白い肌のコントラストはおれのお気に入りになった。
すこし横を向けばドアについた太い腕が目に入り、
守られている感覚と自分を包むニオイに眩暈がする。

あまりの心地よさに目を瞑ってしまいたいけれど時間が勿体無い。
今目のすぐ前にあるそのお気に入りをずっとずっと、見ていたいんだ。

自分の降りる駅名を機械的に告げるアナウンスを鬱陶しく思ったのは初めてだった。

「ありがとう」

短く一言だけ告げると人の波に乗って電車を降りる。
何か呼ばれているような気はするけど振り向けない。
マフラーをしてきてよかった。顔は多分真っ赤だ。

くい、とマフラーをあげて口元まで隠し、ipodの音量を上げてさっきのことを忘れようと努力する。
お気に入りの曲が鼓膜に直接響いているのに、あの男の声が耳から離れないなんて
自分は本当におかしくなってしまったんじゃないか。

さらに音量を上げてホームの階段を上ろうとした瞬間にくい、とマフラーを引かれた。

振り向くと、そこには。






改定履歴*
20100211 新規作成
- 1/4 -
[前] | []



←main
←INDEX

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -