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leave port

はじめてのキスは、涙の味がした―――



「よう、トラファルガー」

キッドの所へ暇潰しにやってきたローの目に入ったのは、慌しく作業をしている船員達。
食料らしき荷物を運び込む者、帆を広げて点検をする者、
各々が忙しそうに働いている中、船長であるキッドは船全体が見渡せる木陰に居た。
キッドは自分の方へ歩いてくる人影がローだと判ると、いつものように声を掛けた。

「…出航か?」
「まあな、明日にでも出ようかと思ってる」



その後、どんな話をしたのか、
どうやって帰ってきたのか、ローは覚えていない。
ただ、自分の船に帰ってきたとき、船員たちが自分の表情を見て、遠巻きにしているのはわかった。
相当機嫌の悪そうな顔をしているのだろう。

無言で自分の部屋に戻ったローは、がたん、と椅子を退けベッドに座るとそのまま寝転がった。
体がひどく重い。頭の中はぐちゃぐちゃだ。
こんなに感情を乱されたのはいつぶりだろう。或いは、初めてか。
別に馴れ合うつもりなど毛頭ない。でも、明日出航だなんて。
毎日の様に顔を合わせていたのに、そんなこと一言も――

「くそっ、どうしちまったんだ、おれ」

こんなことを考えるなんてまるで自分らしくない。
感情を乱されることに慣れていないローは、慌てて思考を遮断した。


****

夜が明けると、珍しく早く目が覚めたローは甲板に出て空を仰いだ。
空は綺麗に晴れており、ふわりと清々しい風が頬を撫でる。
出航には申し分のない天気だった。

ローの足は勝手にキッドの船に向かっていた。
絶対にそんなことはありえないのだが、とりあえずそう思うことにした。

船に着くとキッドは昨日と同じ位置で船員に指示をとばしている。
どうやら、もう出航間近のようだ。
キッドの声を聞いた途端に心臓がきゅっとなり、鼓動が早まるのに気付き、
これから感情がどう動くか、自分でもわからなくて
ローは帽子をいつもよりぐっと深く被りキッドに声を掛けた。


「なんだ、見送りかよ」

よほど海に出れるのが嬉しいのだろう、キッドはもう待ちきれない様子で、少し笑ってローに声を掛けた。
この男がふとした時に見せる少し子供っぽい笑顔は、嫌いではないが今となっては憎々しい。


【おれと来るか?】

今まで気に入った者には、お決まりの台詞を言って仲間にしてきた。
でも―――

「…言えねェよなあ」

呟いた言葉は、ようやく聞き取れるくらい。
ローにだって判っている。
この男は、人に従うような性質ではない。
かと言って自分がこの男の船に乗るのも考えられない。上下関係に縛られるのは御免だ。

お互い船長、一度海に出れば敵の海賊同士。今はただの気紛れで休戦中なだけだ。
そんなこと、初めからわかっていた。
この気持ちは一時的なものだ。そう思い込もうと懸命だった。
キッドは、そんなローの気持ちなんてお構いなしに顔を覗き込んでくる。

「…?何だって?」
「何でもねェよ!せいぜい海に落ちないように気を付けるんだな」
「んだぁ?急に。んな事、オマエも同じだろうが」
「…」

キッドの顔がまともに見れない。
次々に湧いてくる感情はローの顔を赤く染め、目にはうっすらと涙が溜まってくるのが自分でもわかる。
赤い、ふわふわのコートの袖をいつの間にか掴んでいた手は、すこし震えていた。



繋がりたい。
一緒にいたい。
離れたくない。
この男が目の前からいなくなるのは、嫌だ。

どれも言葉にはできず、コートを握る手に力が入るだけ。
帽子を深く被っていて、本当によかった。
こんな表情を見られたら死んでしまう。


【ありがとう。さよなら。】
ちゃんと言わないと、もう会えないかもしれない。
お互い海賊なのだから明日どうなっているかなんて誰にもわからない。
だから、今言わないと。
今だけでいい、勇気を出して。

意を決して、一言―――

「ユースタス屋」

絞り出すように言葉を紡ぎかけた唇は、
目の前の人のそれで塞がれて、それ以上言葉にはならなかった。
まるで慰めるような、優しい唇。
抑えていた感情が堰を切ったにように溢れ出し、
涙が頬を伝うのが自分でもわかる。

もう明日はいらない、
このまま時間が止まればいいのに。

そう、思ってしまうほど。


「またな、新世界で会おう」

キッドはそう言うと、ローが好きないつもの笑顔で頭を少しだけ撫で、船に向かって歩いていった。





end

改定履歴*
20090813 新規作成
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