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遊園地にいこう

気持ちのいい朝だった。
真っ青な空から降り注ぐ眩しいくらいの陽の光は、
シャボン玉に反射してその輝きを何倍にも増幅させる。
シャボンディ諸島特有の、幻想的な朝。

ローは、船長室から甲板に出ると空に向かって大きく伸びをする。
めずらしく寝起きのいい船長は、傍からみてもご機嫌のようだ。

「おはようございます、船長。今日は早いですね?」

振り向くと、不思議そうに挨拶をするキャスケットがいた。
無理もない。睡眠を摂る時間が不規則な上、寝起きの悪いローが
一般的な"朝"の時間に、しっかり身支度を整えているのだ。
しかも、心なしか笑顔のような。

「おう、用事があるんだ。もう行くから、ペンギンには宜しく言っといて」
「あ、はい…はい?え??」

そう言うと、ローは剣も持たずに船を降りた。
キャスケットの声は耳に届かない振りをして。



****
キッドの部屋に着くと、ローは歩きながら考えたとおりに静かにドアを開ける。
そのままそっとベッドに近づくと、大柄な男がすうすうと寝息を立てていた。
白いシーツから覗く、赤い髪。
ローは、それが目に入るだけで嬉しくなる自分に少し驚いた。

さて、どうやって起こしてみようか。
おはようと声を掛けるのもいいが、抱きついてみるのも悪くない。
そんなことを考えていると今まで背を向けて寝ていた男が、ごろりと寝返りを打つ。
仰向けになった顔を見ると、ついついキスしてしまう自分がいた。

最初は啄むように。それでも起きないので徐々に深くしていく。
唇を割り舌を絡める寸前で、ローは自分の体を抱き寄せる腕に気付いた。
―――起きるの、遅せーよ。
引き寄せられるままにベッドに転がり、暫く甘い時間を堪能する。
目が合うとキッドはふわりと笑いかけるので、ローもそれに応えて笑った。

「…おはよう」
「おはよう」
「どーしたの、オマエ、来るの早いね」

うん、と言いながらローはベッドに座りなおす。
キッドは目を醒ますために寝起きは必ずシャワーを浴びるのを知っていたから。
予想通り、ちょっと待ってろな、というと浴室へと歩いていった。


「遊園地?」
「そう、あるんだ。おれ、そこに行きたい」

暫く後、浴室から出てきて椅子に座ったキッドが
身支度を整えながらローの早起きの訳を聞くと、
キッドの赤い濡れた髪の雫をバスタオルで拭きながら、すこし甘えたような声で答えた。
ローがこんな風にどこかへ行きたいと要求するのは始めてのことで、
キッドは、オマエは子供かよと少し笑いながら了承した。



****
目的地に着くと、すでに客は沢山いるようで楽しげな声が敷地の外まで聞こえてくる。
キッドは、始めこそ仕方ない付き合ってやるかという気持ちだったが、
幼い頃楽しかった思い出は大人になっても残っているもので、
実際に到着するとローよりも気分が高揚していた。

「よし、どれから乗る?」

キッドが声を掛けるとローは少し考えたあと、一際高い乗り物を指差した。
それは、ゆっくりと回る観覧車。

「ばか、あれは、最後って決まってんの」
「そうなのか?」
「普通そうだろ!一日の思い出を振り返るんだよ」
「…っはは、そうか。初めてだから解らなかったな」
「は?お前来たことねぇの?」
「一年中雪に包まれてる国だからなぁ。こういうのは、なかったな。」

初めてだなんて。絶対に楽しませてやらなければ!!
キッドは、俄然やる気が出るのがわかった。単純な男だ。

それから大の男は二人して存分に遊園地を楽しんだ。
景気付けのために乗ったジェットコースターでは、
ローの元々いいとは言えない顔色がさらに悪くなり、いきなり休憩となるハプニングもあったが、
お化け屋敷では事ある毎に繋いだキッドの手がビクっとなるのを観察するという
斬新な楽しみ方も考案し、ローは完璧に満足した。
キッドはというと、最後の、観覧車で夜景を見ながら頂上でキスという
お約束を果たしたところでようやく満足した。
心配して後を着いてきたキラーたちがいくつか後ろのゴンドラでこっそり見ていたとも知らずに。



****
宿に帰ると、一日中歩き回った体には思っていたよりも疲労が溜まっており、
二人でバスルームに入った後、ローは吸い込まれるように眠りについた。

初めて見る子供のような寝顔に、キッドは、また行こうな、と静かに呟く。
ローは聞こえているのかいないのか、うん…と寝言のように返す。
ずっと、こんな毎日が続けばいい、そう思いながら明かりを消すキッドの顔は、
終始優しい笑顔のままだった。





end

改定履歴*
20090825 新規作成
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