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first contact -4-

―――やっぱ、怒ってるかな。
キッドは月明かりの中、ローの船長室の前で考えた。

「一旦戻るだけだ、心配すんな。また、夜に来るから」
昨日の朝、不安そうに見上げる瞳に、そう言ったのに。
船に戻ると、血の気の多い部下が他船の者と揉め事を起こしていた。
船長という立場上、無視することなどできず、ひと騒動あったのだがー。
意外にも処理に時間がかかり、さらにはその後
前の晩にほとんど寝ずにいたこともあり、倒れこむように寝入ってしまい、
約束は結局、守られることはなかった。


とりあえず反応見てから考えよう。
そう思い扉を開けると、ローはベッドの上に座って本を読んでいて、
入ってきた人物がキッドだと解るとふいと反対を向いてしまった。
少しだけ見えた表情から察するに、…不機嫌だ。
キッドはとりあえず、ベッドの空いているスペースに座る。

文句を言われるかと思ったが、それはなかった。
その代わり、まるで追い詰められた野良猫のように
寄るな、と背中が言っている。
あまりにも予想通りの反応に、気付かれないように苦笑いし、
さて、どうするかと長期戦の覚悟を決める。


長い沈黙の後、先に口を開いたのはローだった。

「なにしにきたんだよ」
「…昨日、来れなかったこと怒ってんの?」
「っ、なんで、そんなこと…っちげーよ!」
「おれのこと待ってて、寂しかった?」

キッドは背中を向けたままのローの体を反転させて抱き寄せ、
じっと質問の答えを待つ。
顔色、悪いな。コイツもしかして寝てねェのか。
体を硬くしてぴくりとも動かないローの背中を、
まるで子供をあやす様に、ぽんぽんと叩く。
しばらくそうしていると、絞り出すような声でぽつりぽつりと文句を言ってきた。

「オマエが、来るって言った癖に来ねぇから、…っ」
「うん」
「おれ、夢かなんか見たんじゃねぇかって…」
「…うん」
「全部、夢だったのかって…考えて」
「ゴメンな。悪かった。」

キッドの体の温かさと少し早めの鼓動はローの耳に心地よく響き、
ローの強張った心と体は、ゆっくりと溶けてゆく。
瞳には、その証の様にすこしずつ、涙が溜まっていくのが、自分でも解った。

『夢なんかじゃねぇよ』
『ちゃんと好きだ』
『好きだから来たんだ』
『…遅くなっても、必ず来るから』
『変な心配すんな』

ローを腕に抱いたまま、キッドが、ゆっくりと少しずつ囁く言葉。
それはふわふわと雪の様に降ってきて、耳に届くと体中に広がっていく。
あまりの甘さに、また幸せな不安が訪れる。
果たしてこれは現実なのか、夢の中の出来事なのか―――


暫く後、返事がない事に気付いたキッドがお互いの顔がやっと見える程度まで体を離すと、
先程までの警戒した猫の様な雰囲気はすっかり消えていて、
すこし恥ずかしそうな、でも甘えたくてたまらない、そんな表情が見て取れた。

キッドはふと思い立ち、自身の指にいくつも光っている指輪をひとつ外すと、
ローの手を取りその指にそっと嵌めた。

「今度夢かと思ったら、これ見ろ。」
「…あれ?結構緩いな、お前の指って、意外とほそ―――」

言いながらローの顔に目線を移すと、今までに見たことのない、真っ赤な顔。
深い藍の瞳に溜まった涙は、今にも零れ落ちそうだった。

「っな、オマエ、泣くことねーだろ!!」

キッドは予想以上の反応に少し驚きながらも、
改めて、今度は左手の小指にあった指輪をローの右手中指に嵌める。
ローの細い指に不釣合いな幅広のそれは、まだ、少し大きそうだがこれ以上はどうしようもできない。

「泣いてねーよ…バカスタス…」

―――ボロボロ涙零しながら言うセリフかよ。
ほんとにこいつは素直じゃない。

キッドは、ローの頬に流れる涙を唇で拭うと、
とりあえずローを寝かせることにした。
自分のせいで体調を崩されるなんて耐え切れない。
なんとなく、自分の腕の中でなら、コイツは寝るんじゃないかと思った。
その予感は正解で、ローは横になるとすうっと寝てしまい、
安心しきったような寝顔を見て、キッドはますますこの男が愛しくなった。


明日になったら、街に行ってみようか。
ここは大きな島だから、コイツの指にちょうど合う指輪があるかも知れない。
規則正しい寝息を聞きながらそんなことを思って、自らも瞼を閉じるのだった。





end

改定履歴*
20090823 新規作成
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