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それは、まるで夢のような

『キャプテン、ごきげんだね』

愛熊にそう声を掛けられたのは、クリスマスパーティとなったダイニングでのことだった。
今日はクリスマスイブ、特別な日なのだ。
クルーたちはまだダイニングで宴会を行っていて、そのにぎやかな声はこの船長室まで聞こえてくる。
船長であるローがどうしてひとりでここにいるかというと、もちろん理由があるわけで。
ローは先程から船長室の中をうろうろと行ったりきたり、待ち人が来るのを今か今かと待っていた。



「よう、邪魔するぞ」
「…」
「久しぶりだな、トラファルガー」

ようやく訪れた待ち人の声に、鼓動がどくんと音を立てて早まる。
声は、出なかった。

どうしてだろう、もしもまた出逢えたならば言いたいことがたくさんあったのに。
シャボンディ諸島で別れてからいままでの冒険の話、出逢った人や生き物の話、
巡った島の空気や色やにおい、――それから、やっぱりおまえが好きだってこと。
今ようやく願いが叶ったというのに本人を目の前にすると用意していた言葉はひとつも出てこなくて、
代わりにローのさくら色に色づいた頬をつうっと涙が伝った。

「…泣き虫」
「うるせぇ…」
「ロー、ひさしぶり」
「――ゆ……」

ようやく搾り出したひともじ分の名前は掠れていて、
キッドはそんなローの様子に笑顔を零して唇を塞ぐ。
自分の名を紡ごうとする恋人の唇はひどく甘く、とろけるよう。
そのいとしい果実を啄ばむような口付けはすぐに深いものに変わり、
ふたりのからだはゆっくりとベッドへ倒れこんだ。



****
窓の外ではゆっくりと降り積もる大粒の雪が聖夜を彩る。
とおくに見える街の灯りが、一面の白い世界をほんのりと照らしていた。
ここは冬島だから、きっと外は驚くほど寒いのだろう。
それでも今のローには服の一枚も必要なかった。
目の前の恋人が、暑いくらいに暖めてくれるから。

「ぁっ、ん、ユースタス屋、ま 待て…っ」
「?…何で?ここ、こんなんなってるのに」
「ちょ、みるな、待って待って!」
「……おまえもしかして恥ずかしがってんの」

もともと赤く染まっていたローの頬は、キッドの言葉でさらに真っ赤になってしまった。
服を全て脱がされ全身に手と唇での愛撫を受けていたローは、
その愛撫が下半身に及ぼうとした瞬間あまりの恥ずかしさにシーツを蹴って
ベッドの上に逃げようとしたが、キッドの大きな手がそれを許さなかった。
「こら」と軽く窘められて、覆いかぶさられてまた口付けられる。
もちろん、今後は腰と後頭部に手を回して逃げられないようにして。

「だ、だっておれ…こんなん久しぶりすぎて」
「久しぶりでいてもらわねぇとおれが困る」
「とにかくはずかしくてしにそうだ、から、口でされるのはむり!」
「んなこと言われてハイそうですかって言うと思うか?」
「!!むり、むりだってば、ゆーすたすや!」
「かわいいからおとなしくはずかしがってろよ」

ぱくん、と先端を咥えられて細い腰が跳ねた。
正確には、跳ねようとしたところを押さえられていたのでびくんと痙攣するに留まったのだが。
一年間触れることのなかった入り口と内側を、キッドの男らしい長い指がゆっくりと解してゆく。
ローの細い白い喉は無防備にさらけ出されて、大きく見開いた瞳は隠しきれない快楽で染まっていった。

「あ…あ、ゆ、ゆーすたすやぁ…っ」

つたない声で恋人の名前を呼んで、思わず伸ばした腕の先、細い指で恋人の髪をかき混ぜる。
そのやわらかな感触は、一瞬でふたりを一年前に連れていってくれた。
はじめて恋をして、はじめてキスをして、はじめて体を重ねた。
そのしあわせな記憶は途絶えることなくあふれ出てきて、せっかく止まっていた涙がまた零れ落ちる。

ローはそのままゆっくりと、キッドの頬に手を滑らせた。もちろん、キスをねだるために。
口と手で自身を愛撫されるのはもちろん気持ちよくて好きだが、ローはそれよりもキスが好きだった。
キスの合間に大好きな燃えるような赤い瞳に自分だけが映っているのが、この上なく嬉しいのだ。
限られた時間しか一緒にいられないのだから、一秒だって長くそこに映していて欲しい。
だってそうすれば、離れ離れの時間に思い出してもらえる回数が増えるかもしれないだろう?
自分のことを想っていろだなんて女々しいことはいえないから、
こうやって少しでも記憶に残るようにしたいんだ。

「ゆーすたすやぁ、きもちいい…ぁん」
「あんまり可愛いこと言うな、抑え効かなくなるだろ」
「効かなくていい、…すき、すきだ、はやく繋がりたい」
「…おれも好き。繋がりたいのは、おれだってそうだ」
「じゃあはやく、なぁユー…」
「『キッド』だろ。わすれたのか?おれはおまえの何だ」
「……コイビト…」

ふにゃりとわらって照れくさそうにそういうローを、キッドはぎゅうっとだきしめた。
一年分の『すき』をこめて。

「…痛かったら言えよ」
「う…だいじょうぶだ」
「無理すんな、一人でもやってねぇんだろ」
「うるさい、いうなそういうこと!」
「おこるなって、っつーかおこっても効果ねぇぞ、余計可愛いだけだから」
「何言って…――ひぁ、ゃ!ああっ」

キッドの熱が、ローの内側を擦る。
久々に受け入れたその熱は硬くて熱くて、火傷してしまいそうだとローは思った。
ぎゅうっと目を瞑って目の前の男の首に腕を回し、
息を止めて受け入れる途中で自分の名を呼ぶ声が耳元で優しく響く。
痛みはなくて、ただ、痺れそうな快感がローの内側に強く残った。

「ロー、ロー、大丈夫か…?いたくねぇか?」
「だ、いじょうぶ、だから…うごいて」
「…あいたかった、ずっとこうしたかった、ロー、あいしてる」

ちゅ、と額にひとつキスを落とし、キッドは律動を開始させる。
必死でしがみついてくる恋人が時折見せる深い藍の瞳、キッドはこれよりきれいなものを見たことがない。
一年前とちっとも変わらないそれと、自分の名をうわごとのように呼ぶ声を
愛しく思いながら内側に全てを吐き出した。
同時に下腹に感じるローの欲。ぎゅうっと抱きしめると、涙をいっぱいためた瞳が自分を見上げる。
こつんと額をあわせると、どちらからともなく笑顔が零れた。

自分で選んだ道とはいえ離れ離れの日々は一日一日が長く、
まるでもう1年どころか10年くらい会っていないような気分だった。
久々に連絡をとって声を聞いたが最後、逢いたくなる気持ちを止められずに
わがままだと思いながらも今日この日に、この島で逢うことを決めたのだ。

「おれたちって我侭かな」
「毎日船長としてがんばってんだ、これくらいのご褒美いいだろ」

一年ぶりに恋人を抱きしめ、抱きしめられて眠るこの夜は、まるで夢のようなしあわせな時間。
長い航海で零れないように、なくさないように、消えてしまわないように
大切に宝箱にしまっておこう。





end

改定履歴*
20101224 新規作成
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