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欲しいものは、ひとつだけ

「あっ、ユースタスやっ」
「ロー」
「…んっ、 おねが、もっとして」

最近、ローはセックスの最中にそうねだることが多い。
キッドとは全然違う細身のしなやかな体は、あまり乱暴に抱くと壊れてしまいそうで、
それでも「もっと」と快感を求めるローを、初めは単純にヤるのが好きなんだと思っていた。
お望みどおりにと全力で抱くと、今度は深い藍の睫毛を涙で濡らす。

それは今日も同様で。
折角、偶然にも今日は一緒に過ごせるクリスマスイブだというのに、
ローは、ぽろぽろと涙を零しながらその言葉を言う。

つうっと頬を伝うそれはぞくりとする程綺麗だけど、
でも、何となくその言葉の中に寂しさがあるような気がして――
何か嫌なことから逃れるために、頭の中をそのことだけでいっぱいにしたい、
そんな風に思っているのではないか、と気付いてしまったのだ。



****
「悪ぃ、痛かったか?」
「え」
「だってオマエ、泣いてるし」

言いながら、ローの目の端に残った涙を指で拭うと、
瞳を伏せてきゅっとキッドに抱きついてきた。
きっと、涙を見られるのが嫌なのだろう。
そう思ったキッドは大人しくその背を抱いてやり、代わりに言葉で甘やかす。

「…なあ、クリスマスプレゼントとか買いに行こうぜ」
「いいよそんなの」
「でも、なにかほしいものとか」
「いいんだ。それより」

ああもう、これ以上そんなことを言わないでくれ。

キッドの言葉はローにとってはひたすらに甘い毒のようなもの。
その作用は驚く程強くて、自分や相手の立場とか、
煩わしいことを全て忘れてずっとこの腕の中に居たくなる。
そんなのは、考えちゃいけない。そう、自分たちはお互いに船長で、これはただの暇潰しなのだから。
ローは心の中でそう自分に言い聞かせて、これ以上その毒を聞かなくて済むようにキッドの唇を塞いだ。


「――それより、もう一度、抱いてくれよ」

去り際にキッドの唇の端をぺろ、と舐めて呟く。
その声は消え入りそうなくらい小さくて、すこし震えていた。

「好きなだけ抱いてやるよ」

少しの間の後、キッドはそう言うと、ローに覆いかぶさってキスをする。
大きな手のひらで頬を包んで慰めるように触れる、その優しい感覚にまた涙が零れた。

「だからもう泣くな」
「…泣いてねぇよ」
「じゃあおれのことだけ見てろ。余計なこと、考えんな」

オマエのことだけ考えてるよ。だから涙が出るんだよ。
こうやって抱かれている時間がしあわせ過ぎて、失うのが怖いだなんて。
ローはとにかく自分の気持ちを伝えるのが苦手で、そんな大事なことも言葉にできない。
何も言わないローの涙に濡れた瞳をじっと見つめていたキッドは、小さなため息をついて行為を再開する。

熱い舌が体の上を滑る。瞼に、頬に、首筋にキスを落として。
目の前からゆっくりと下におりていく赤い髪。
今は手を伸ばせばそこにある、そのやわらかな感触。
大好きなそれに触れることができるのは、あと何回?



もしも、本当になにか一つだけプレゼントをくれるのだとしたら。
来年もまた、この季節を一緒に過ごしたい。
この、泣いてしまうくらいにしあわせな時間をおれにくれよ。
他に欲しいものなんてないんだ。

――でも、それは叶わないことだから。
今だけは何もかも忘れてこうやって甘えていたい。
最初で最後の、クリスマス。





end

改定履歴*
20091210 新規作成
キドロでクリスマス当日編です。
シャボンディ諸島にいる時期がちょうどクリスマスだった!という無理矢理設定でスミマセン。
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