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strawberry cake

キッチンから漂う甘い香り。こんな時間にめずらしい、
そう思って中を覗いてみると、そこにはきっちりとエプロンをつけたペンギンがひとり。
ペンギンが料理を作るのは特別珍しいことではない。
むしろその腕前は船のコックも一目置く程で、
とりわけ、元々小食で偏食気味なローの好きなものを作れるのはペンギンだけだった。

「ペン、何作ってるんだ?」
「船長」
「あまいニオイがする」

急に扉を開け入ってきた人物に、ペンギンは一瞬だけ目線を向け、
それがローだと解ると、ふわりと柔らかく微笑む。

「甲板で栽培していた苺がいくつか実ったんだ」
「ああ、キャスが世話してたやつ…」
「そう、クリスマスにはまだ早いけど、練習ついでにね」

クリスマスにはいつも、ペンギンが手作りケーキを作っていた。
もちろんそれは、甘さ控えめなロー専用のもの。

白いクリームでコーティングされて、苺だけが載っているそれは、
ローが唯一好んで食べる”甘いもの”だった。

「おれ、おまえの作るケーキ好き」
「それは光栄です、船長」
「ふたりきりなのに」
「はは、ごめん。――うれしいよ、ありがとう。ロー」

ローの船長としての立場を尊重するペンギンは、
普段からふたりきりの時しかローのことを名前で呼ばない。
だから、キッチンで名前を呼ばれたのは久しぶりだった。
話をしながら、ローはカウンターキッチンの向かいに座る。
既にスポンジケーキは焼き上がっており、熱を冷ますために傍らに置いてあった。

甘い香りの元はこれだったのか、そう思いながら手のひらをかざして熱さを確かめる。
興味深々のその仕草はとても可愛らしいもので、ペンギンは少しだけ笑って、
もう後はデコレーションだけだよ、と言ってクリームを泡立て続けた。
泡立て器とボウルが奏でる、かしゃかしゃという規則正しい音が耳に心地よい。

ローは両手で頬杖をつき、ペンギンの手元をじっと覗き込む。
汚れないようにと腕捲りをしているから、普段は見えない腕のタトゥーが見える。
それは、ローが選んだデザインで、ペンギンの男らしい腕によく似合っていた。

戦闘の時とも抱き合う時とも全く違う動きをするそれに、
キレイだな、と暫く見惚れていると、その手は不意にボウルから離れ、
いつの間にか手鍋で温められていたミルクに紅茶の葉を入れさっと混ぜる。
そのまま3、4分蒸らせばローの大好きなミルクティーの完成だ。

他愛のない話をテンポよくしながら、ティーカップに注いだそれを目の前に差し出されたので、
ありがとう、と礼を言って受けとった。

――なんでこいつは、おれの望むことを全て与えてくれるのだろう。

暖かい部屋に、大好きなミルクティー。そして、目の前には愛しい恋人。
二人の間にゆったりと流れる、心地よい時間。
何とも言えない幸福感がローを包み、知らず知らずのうちに笑顔になる。
ペンギンはそんなローを見て、先程よりも一層優しい目線で微笑うのだった。

「ロー、こっちにおいで」
「え…」
「飾りつけ、手伝ってくれると助かるんだが」

仕方ないな、そう嬉しそうに言うローを手招きして抱き寄せ、
一度だけ軽くキスをするとくるりと後ろを向かせる。
汚れないようにいつものパーカーの上からエプロンをつけてやり、
ローのお気に入りの帽子を、今だけはテーブルの上へ。

「よし、じゃあおれ苺のっける係な!」
「了解」

自分だけに向けられる笑顔に心が満たされるのを感じながら、
ペンギンは白いクリームでケーキを手際よく彩っていった。

――ローのために行う全ての行動の意味なんていらない。ただ、笑っていて欲しいのだ。





end

改定履歴*
20091126 新規作成
ペンロでクリスマス準備編です。このお話で書きたかったものは、ペンさんの腕捲りエプロン姿と、ローたんのパーカーの上からエプロンのアンバランスさ。ふたりのエプロン姿想像するだけで鼻血がでそうです。しあわせ!(*´▽`*)
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