05 一人
寝ようと思って瞼を閉じてみても、全然眠くならない。
このベッド、こんなに広かったっけ。
いつも隣で寝ているはずのペンギンがいないことが、堪らなく寂しく感じた。
「ぺんぎん…」
ため息まじりに恋人の名を呼ぶ自分に気付いて吐き気がする。
つい2週間ほど前まではひとりで眠るのが当たり前だったのに、
おれはいつからこんなに女々しくなったんだろう。
それでも、やっぱり頭の中に浮かぶのはペンギンのことばっかり。
あいつのきれいな髪、真っ直ぐおれを見る瞳。
抱きしめてくれる力強い腕の力。すべてが、好きだ。
今日は、今日こそは、おれから誘ってセックスする筈だったのに。
あいつの唇と手がおれの体中に触れて、
あのなめらかな暖かい肌で気温の低さも忘れるくらいにあっためられて。
たくさん名前を呼ばれながら、気が遠くなるくらいにキモチよくしてもらって――…
ダメだ、我慢できない。そろりと下肢に手を伸ばし、
さっきのキスで中途半端に勃ち上がっていたそれに指先で触れると、
途端にぞくりと背筋に快感が走った。
「…っん、ぁ」
たまらず片手で包み込み、数回扱く。
ここ数日おあずけをくらっていたそれは、簡単に大きくなった。
先端から零れる雫が指を濡らして、手を動かす度に
くちゅくちゅという微かな水音を立てる。
「あ、く、…っん、ぺん、ぎん…っ」
思わず自分の口から漏れた名前が、ひどくはっきりと耳に届いた。
そうだ、おれ、一人でやりたいわけじゃない。ペンギンと繋がりたい、のに。
自分の手をペンギンの手だと思うと、また背筋がぞくりとした。
ペンギンが、おれのを握って扱いてくれている。
自慰をしながらそんなことを考えてしまう事への後ろめたさはもちろんあるけど、
でもそれよりもキモチよくなりたい思いの方が強くて、上下に動く手を止めることができない。
恋人の手の動きを思い出して、全体を擦り上げながら先端に緩く爪を立てると、
予想していた以上の快感に、びくりと腰が跳ねた。
まるで本当に、自分の手じゃなくてペンギンの手、みたいだ。
「――〜!…は、ぁ」
手の中でびくびくと脈打つように震えるそれから、大量の精液が吐き出される。
指に絡みついたその白濁は、程なくしてまるでおれを責めるかのように腹の上に零れ落ちた。
久しぶりの射精の後に残ったのは、ほんの少しの高揚感と、
ペンギンのことを思って自慰に耽ってしまったというひどい罪悪感。
船長室に備え付けのバスルームまで歩くどころか、それを拭うのすらも気だるくて、
息が整うまでの間ベッドに身を沈めて目を瞑った。
今思えばこのとき、さっさとバスルームに行っておけばよかったんだ。
改定履歴*
20100418 新規作成
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