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なにか甘いものが食べたい、パフェ的な

トラファルガー家の執事の一日は忙しい。
朝は誰よりも早起きをして身なりを整え、使用人に仕事を指示し、ご主人様の朝食の準備。
時間になれば寝起きの悪いローをあの手この手で宥め賺して着替えさせ、一杯の紅茶と朝食を摂らせる。
とは言え、この偏食で小食なご主人に一日分の栄養素をしっかり摂らせるのはなかなか難儀なことで、
四季折々の食材や旬のものを取り入れ趣向を凝らした食事すらも気に入らなければ
頑として口に運ぼうとしないのだから困ったものだ。

ローはというと一食や二食抜いてもどうってことないようで(むしろそっちの方が調子が良さそうだ)
普段どおりに勉強や仕事をこなす。
だが、そういう時は決まって――

「ぺん!おやつはまだか!」
「いけません、坊ちゃん今おやつ食べたら昼食残すでしょう」

そう、甘いものが好きなローは、食事を抜いた日には決まって午前10時頃におやつを要求するのだ。
だがペンギンの心情は当然よろしくない。
朝も早くから精魂込めて作った料理に口もつけず、そのくせこうやっておやつを要求するのだから当然だ。
わがままなご主人さまをぴしゃりと窘めるペンギンの言葉に、ローはそれ以上なにも言えなかった。
むぅっと頬を膨らませるその可愛らしい表情に、気付かれないよう苦笑いをひとつ。

「坊ちゃん。そう臍を曲げないでください」
「臍など曲げてはいない」
「それ以外のことなら、何でもして差し上げますから」
「……ほんとか?じゃあ遊べ」
「イエス、マイロード」

その要求はもっともローに似合い、…そして、似合わないものだった。
普段どんなに大人ぶっていても、やはり子供――ふとした時に見え隠れする子供らしさを
自分だけが見れることを嬉しく思い、ペンギンはローを膝に抱えてソファに座って甘やかす。

「さて坊ちゃん、何をしましょう。チェスかダーツ?それとも昼食を持ってどこかへお出かけしますか?」

自らの背をペンギンに預けて、すっぽりとその腕の中に埋もれていたローはまだどこか不満気で、
次々に与えられる選択肢に頷こうとはしない。
ただ、自分を抱きとめている大きな手を覆う少しの汚れもない手袋を
いたずらに引っ張っては首を横に振るだけ。

「絵本でも読みましょうか」
「…!そうだ、それでいいんだ」
「配慮が足りず失礼いたしました、ご主人様」

奥の手とばかりに提案した言葉に、ぱぁっと嬉しそうな顔をして振り返り抱きついてくるご主人様の頬を
ゆっくりと撫でてやれば、ローは目を瞑って猫のようにそのやわらかな頬を大きな手に擦り付けてくる。

「ではどの本を?」
「…あれがいい、動物図鑑。ペンギン、あれとって」

ローを片手で抱き上げたまま本棚へと歩いて、好きな本を選ばせて。
そうしてまたソファに戻って、好きな本を見ながら他愛もないことを話す。
おやつの代わりに用意させた紅茶がすっかり冷め切ってしまうまで、
二人はくっついたまま同じ時間を過ごした。

「坊ちゃん、もうあと半時ほどでご昼食ですよ」
「そんなことわかってる、なんだいまさら」
「放っておけば眠ってしまわれそうでしたので」
「む…ねないぞ、おれはもうおとななんだから……」
「……そうですか」

寝ないぞ、そう言い残してその長い睫毛を湛えた瞼が閉じるまで、そう時間は掛からなかった。
先程抱き上げた時よりも明らかに体温の高くなった熟睡中のご主人様の体を
そっとソファに寝かせて毛布を掛け、その深い藍の髪を撫でて額にキスをひとつ。

「おやすみなさいませ、ご主人様」

ペンギンは静かな寝息を立てるローに恭しく一礼すると、重厚な扉を閉めてキッチンへ向かう。
もちろん、ローの昼食を準備するために。



****

「おや、坊ちゃん。よく眠れましたか?
絵本の読み聞かせでおねんねするとは、坊ちゃんにもまだまだ可愛いところがおありですね」
「……!!おれをからかってるのか、ペンギン!」
「坊ちゃんをからかうなんてまさかそんな」
「〜〜〜!!ペンギン!!主人はおれだぞ!!」
「はい…わかっています」

当然ながらローはこのほんの少し後に食事の世話をするペンギンにからかわれることとなり、
その悪魔のような笑顔を前に、絶対にうたた寝をしないと固く心に誓うのであった。





end

改定履歴*
20110115 新規作成

書きたかったセリフ
『いけません、坊ちゃん今おやつ食べたら昼食残すでしょう』
みたいなやつ。もうこんなことまで管理しちゃうような主従が大好きでどうしようもない
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