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stay by my side

「誰か、おれの帽子を知らないか?」

ハートの海賊団のダイニングの扉を開けたペンギンは、開口一番にそう言った。
彼のトレードマークである防寒帽を被っていないその姿に違和感を覚える者も少なくない。
しかし、その違和感を一番強く感じているのは彼自身のようで、
傍目にもすこし感情が苛立っているのがわかる。

「ペンギンさんの帽子?」
「知ってるか?」
「見てないですね」

居合わせたクルーたちは口々に疑問符をつけたセリフを口にして顔を見合わせる。
その様子を見る限り、探し物の在り処を知っている者はここにはいなさそうだ。
ペンギンは、騒がせたな、とだけ告げるとダイニングの扉を閉め、
気持ちを落ち着かせるために甲板でひとり考えを巡らす。

自分の部屋は隅から隅まで探した。
間違って洗濯に出したかと思い洗濯係を掴まえたが、知らないと言う。
操舵室も書庫も見たし、ダイニングにもないとすれば、あと考えられるのは――…

『わぁ!え、船長???』
『似合うだろ?』
『え、あ、似合いますけど。びっくりした、驚かせないでくださいよー!』
『ふふふ』

そう遠くない甲板から聞こえてくる聴きなれた声に導かれるように足を進めるペンギンの頭の中には、
あるひとつの確信めいた予感がうまれていた。

「でも船長、ほんとそうしてると後ろから見たら誰かわかんない――…」
「そんな事で船長を守れるのか?キャスケット」

背後から聴こえる怒気を含んだ声に、キャスケットの表情が青ざめる。
かわいそうに、完全にとばっちりを受ける形になったキャスケットは
へらりと愛想笑いを浮かべながらそそくさとその場を後にした。

「何だよペンギン、せっかくキャスで遊んでたのに」
「……で?船長はなんでこんなことしてるんですか」
「こんなことって?」
「それはクルー用の制服でしょう。脱いでください」

そこに居たのは、自分たちとお揃いのつなぎに身を包み、予想通り、探していた防寒帽を被ったローだった。
ノリのいいクルーを掴まえては驚かせ、彼曰く『遊んでいた』らしい。

船長であり、最愛の恋人でもあるローの笑顔に絆されてしまわないよう気をつけながら、
慎重に言葉を紡いで窘める。ところが、彼の返答は不機嫌そうなものだった。

「おれに命令するな」
「あなたには目立つ格好をしておいてもらわないと、何かあったときに困るでしょう」
「い や だ」

堂々とそう宣言するローを前に、言葉が出ない。
もうこうなってしまうと、いかにペンギンと言えどもローを操るのは一筋縄ではいかない。
気付かれないようにちいさなため息をひとつ。ためしに、できるだけ優しい声で声を掛けてみる。

「船長、我儘言わないで」
「ワガママなのはおまえだろ」
「…は?」
「ワガママっつーか、自分勝手」

ローは、何を言っているんだろうか。おれが自分勝手?
確かに、色々とクルーに指示を飛ばしたりはする。
でもそれは、自分勝手というか、一海賊団を纏めるのには仕方のないことで…。
わからないが、とりあえず、ローがおれに対してなにか気に入らないことがあるのだろう。
だからいつもは着ないつなぎを着て、おれの帽子を奪って気を引こうとしてる。
それだけはわかった。だけどその原因は一体何なんだ。

ペンギンがそこまで考えている間に、ローの機嫌はますます急降下してしまったらしい。

「もういい」

ペンギンは、ぷいと後ろを向いてしまったローの肩を慌てて抱き締め、
もういちど、機嫌をなおしてくれという思いを込めて耳の傍で囁いた。

「船長、何が気に入らないんですか。おしえて」
「…その、船長っていう呼び方、あとさっきため息ついた」
「はい?」
「それから、夜じゃないとおれに構ってくれないとこ。
キスもハグも、おまえ夜しかしてくれねーじゃんか。昼間はずっと、おれのことほっとくくせに!」

予想だにしていなかった答えに、今度は別の意味で言葉がでない。
表情が緩むのを抑えきれないけれど、後ろを向いたローには見えないから構わないだろう。

「それで、帽子とったのか?」
「帽子だけじゃない、つなぎもおまえの部屋にあったやつだ」
「なんで、そんなこと」
「…こうしてると、なんとなく、おまえに包まれてる気がする から」

ペンギンの大きな手のひらが、薄い肩から離れる。そのままそっと帽子を脱がせて、
目の前にある真っ赤な耳たぶにキスをした。
ぴくりと震える体をきゅっと一度だけ抱き締めなおすと、細い顎をこちらに向かせて唇を塞ぐ。

「寂しかったのか?」
「…」
「ねぇ、ロー」
「…朝になったら、お前ベッドに居なかった」
「ごめん」
「起こしてくれてよかったのに」
「うん、そうだな」
「寂しかったんだぞ!」
「明日は一緒に起きようか」

いつもはもっと傍若無人な振る舞いをする船長の、可愛いわがままに顔が綻ぶ。
昨日はふたりともセックスに夢中になってしまって、寝付いたのは朝方に近かったのだ。
起床時間になっても穏やかに眠っているローを起こすのは忍びなく、
ペンギンはそのまま寝かせておいたのだが――
どうやらその判断が、ご機嫌を損ねてしまったらしい。

「ロー、つなぎ自分で脱げる?」
「…脱げねぇ」
「じゃあ、船長室で脱がせてあげるから」

ペンギンは、その言葉にこくんと頷くローを抱き上げると、そのまま船長室へと向かう。

――今晩ゆっくり寝かせてあげる為にも、今のうちに抱いておくのも悪くないかもしれないな。
そう思ったことは、ローには内緒だ。






改定履歴*
20100521 新規作成
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