たったひとつの、
夕食時のダイニング、ローはめずらしくここで船員達と夕食を摂っていた。
食後の紅茶に手を伸ばそうとした時、隣に座っていたペンギンに声を掛けられる。
「ロー、それで食事終わりなのか?」
「おう」
「…せめてパン半分くらい食べ切ってくれないか」
「えー…」
「えー、じゃない。ホラ」
言いながら、ローに向けられるペンギンの目線が痛い。
こんなことならダイニングじゃなくて、キャスにでもいつもどおり船長室に持ってこさせればよかった…
なんて、今さら思ってみてもどうしようもない。
残念ながら、こうなったら食べるまで解放してくれないことは、ローもよくわかっていた。
正直もう満腹だけど、ペンギンだって自分のことを思って言ってくれている、
それが解っているから、ローは仕方なしに半分にちぎったパンをまた持ち上げた。
なんとかひとくち齧って、飲み込む。
――ペンギンだって暇じゃないんだから、おれのことなんか見張ってないで仕事に戻っていいのに…
そう思いながら右隣に座るペンギンにちらりと目線を向けたローの視界に、
ふと、皿に残った赤い物体が映った。
「ペン、」
「何だ?」
「それ、食べないのか?」
「―いや、落としてしまって…」
「……」
「いや、あの」
普段は努めて冷静なペンギンの一瞬の動揺をローが見逃す筈もなく、
下手な嘘はすぐさまばれてしまった。途端に、ローの口角が上がる。
「ペンは、おれには好き嫌いダメだって言っておいて、自分はそうなんだ、ふーん」
「いや、船長…っ」
「…」
ペンギンの必死に取り繕う言葉も空しく、ローはにやにやと笑って見るだけ。
これ以上弄られては堪らない、そう思ったペンギンはそれをぱくりと口に含む。
…だが、飲み込めない。どうしても。
しばらくそのまま固まっていたペンギンの様子を面白そうに見ていたローは、
突然ペンギンの頬を勢いよく両手で包んで、顔を至近距離まで近付けてイタズラっぽく笑ってみせた。
「飲み込め!」
「―――〜〜っ!!! っ、はぁ」
いつも完璧に見えるきみの、たったひとつの、苦手なもの。
驚きのあまりソレをこくりと飲み込んでしまい、うっすらと涙を浮かべるペンギンの隣で、
ローはパンの残りを食べながら今日一番の満足そうな笑顔でクスクスと笑うのだった。
改定履歴*
20091123 blogにネタ投下
20100329 修正して公開
ペンさんの苦手なものは?→プチトマトですよ^^完璧に見えるペンにも、意外に好き嫌いあったら萌える(*´`*) ちなみにこれが非常に恥ずかしかったペンさんは、見事プチトマト嫌いを克服しまして、ローたんとしてはオモチャが減ってしまって残念がるのです^^
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