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一緒におでかけ

シャボンディ諸島は、ハートの海賊団が立ち寄った数多の島の中でも規模の大きな島だった。
立派な港にはたくさんの船が出入りし、人口も多く、街にはたくさんの店が軒を連ねる。
新世界に向かうのに必要不可欠なコーティングを施すため、
やっと見つけた腕のいい職人によれば、作業にかかるのは約2週間。
その間、数日は船を離れて自由行動というわけだ。
副船長であり優秀な航海士、そして戦闘員もこなすペンギンは、この数日の間に
新しい武器や海図や便利で目新しい道具を少しでも多く手にいれようと決めていた。

「船長」
「ぺんぎん」
「おれはちょっと街へ出かけますけど、一緒に…」

さあ出発しようかという直前にふと思い立ち、暇そうにしていたローに一緒に行くかと声を掛ければ、
随分暇だったのだろう、ローは嬉しそうに頷いていつもの帽子と刀を手にペンギンについてきた。

「一緒にいきましょうね、船長」
「ん!」
「何かほしいものありますか?」
「んー…薬品と、本」
「了解しました。途中で寄りましょうね」

ローの好きなものは昔から変わらなくて、薬品と本と、それから、触り心地がふわふわのもの。
どれだけ大人になっても、賞金が上がっても、これといった物欲もない船長がかわいくて、
ペンギンはローのまぁるい頭をひとなでしてゆっくりと街への道をあるくのだった。



「そろそろ買う本選び終えましたか?」
「あ!ぺんぎん、ぺん、こっち、この本見て」
「はい、なにか?」
「ほら、ベポが載ってるだろ!かわいいなぁ」
「……そうですね」

重そうな動物図鑑のページを広げ、白熊を指差してにこにこと笑う船長に、
ペンギンはお説教をしたいのを我慢して相槌をうつ。
今日はせっかくの休日なのだ、ご機嫌な船長を急かしてまで先を急ぐ必要もない。
それに、ローが機嫌のよいときに見せるこどもっぽい仕草や表情は、ペンギンのお気に入りでもあった。
だが、こういうローの寄り道に全て付き合っていたら時間がいくらあっても足りない。
現に時計の長針はこの本屋に入ってからそろそろ一周しそうである。

「船長、ちょっとおれは向かいの店に行ってきます」
「んー?うん……はぁ、ベポかわいいなぁ」
「ちゃんと、ここにいていくださいね?」

キャスケットや他の船員を連れず、あえてローと二人きりで街に来たのは、
シャボンディ諸島にいくつかある街の中でも比較的治安のいいこの街では、
ローのための護衛も自分ひとりの方が悪目立ちせず安全だろうと思ったからだ。
それなのに当の本人はそんなことを全く気にせず、自由気ままに行動する。
少し目を離せばあっちの店、次はこっちの店、そして気に入ったものがあればそこから頑として動かない。
ならばとその間にペンギンが船の備品を品定めしているとふらりと姿を消してしまう。
それは今日も同様で、ペンギンが用事を済ませて本屋に戻ってきた頃にはローの姿は見あたらなかった。

「あれ…船長?」

――まったく、気まぐれな船長だ。

ペンギンはちいさなため息をついて、今しがたまでそこの本屋に居たはずのローを探す。
程なく耳に届いたかすかな悲鳴、それにペンギンはある確信を持って声が聞こえた路地に足を向けた。



「船長、こんなとこにいたんですか」

ローの足元には、先程まで人だったモノがひとつふたつ転がっていた。
その風貌から察するに、命知らずの賞金稼ぎといったところか。
2億という大金をその首に掛けられているローにとって、命を狙われるのはなにもめずらしいことではない。
だがそんな時大抵はローの傍に控えているペンギンを筆頭にクルーたちが始末するから、
こうやってローが自ら相手を殺すのは久しぶりだった。

「うるさいやつがいたんだ」
「だからって、こんな民家の近くで…騒ぎになりますよ」
「あんなゴロツキいなくなっても誰もこまらねェよ、むしろ邪魔者を掃除してやったんだ」

気まぐれなローは、相手を始末する手法ひとつとっても機嫌が表に出た。
死の外科医の通り名にならって、相手の急所だけを狙い鮮やかに殺してみたり、
機嫌がいいときは悪魔の実の能力を使ってそこらのものとくっつけてみたり。
そして、こうやって足元が血の海になる時は、決まって――

「…ご機嫌ななめ?」

そう、思わず目を逸らしたくなるような殺し方をするのは、決まってローの機嫌が最高に悪い時だ。
ローの手から血の滴るお気に入りの長刀を受け取り、返り血で汚れた細い手を
持っていたハンカチで拭ってやりながら目線を合わせてみると、
案の定ローはばつの悪そうな顔をして、小さな声で理由を口にした。

「だってぺんぎんがおれのことおいてった…」
「何度呼んでも船長が本屋から動かないからでしょ」
「……だって、だって…」

――本当に、この人がこの凄惨な現場を作り出したのだろうか。
気まぐれで残酷な性格も、細い体に似合わない戦闘能力も全て知り尽くしていてもなお疑いたくなるような
こどもっぽい表情を浮かべて、舌足らずに言い訳を口にするローの頭をなでてやる。
そうすれば、ローは安心したように手に頬を擦り付けて、
「もうおれから離れたらダメだぞ」と我侭な注文を口にした。

「ほら船長、ちゃんとおれの前か横歩いてください、また迷子になりますよ」

幸い目撃者もおらず、騒ぎにもなっていない幸運に乗じて、何事も無かったかのようにその場を後にする。
大通りに出た途端に視線を店先に移すローの手を引いて引き戻し、窘めるようにそう促すと、
ローはこくんとひとつ頷いて大人しく歩きだした。
時折不安そうな瞳で後ろを振り返る仕草が可愛らしい。

「ちゃんといる?」
「はいはい、いますよ。…あ、そうだ、ハイこれ」
「?」

先程ローが本屋に張り付いている間に買った飴玉をひとつ差し出せば、ローは大人しくぱくりと口に含んだ。
ローはお気に入りのミルク味のそれにすっかり満足したようで、ふにゃりと笑って嬉しそうだ。
これで少しは寄り道も減るだろうか、そんな淡い期待を浮かべたペンギンをよそに
ローはまた道の端に視線を移す。嬉しそうなその目線を追ってみれば、
そこには一匹の真っ白のふわふわの毛並みの仔猫がいて…
そのまぁるい愛らしい瞳はじっとローを見上げていた。
ああもうだめだ、ここから動けるようになるのは何分後か、はたまた何十分後か。

「ぺん、ぺん、ねこ」
「…猫ですね」
「かわいーなぁおまえ、ふわふわだ」

みゃあみゃあと可愛らしい声で鳴いて足元にすり寄ってくるその毛玉をひょいと抱き上げ、
ローはひとしきり喉元や耳の辺りを撫でていた。
そうしてじっとペンギンを見上げるのだ。まるで甘えるように。

「…連れて帰っちゃダメです」
「んー…ぺん、お願い」
「だめです」
「どうして」
「ベポとおれがやきもちやきます」
「……じゃあいいや、ベポとペンギンかわいがるから」
「いつもと逆ですね、たのしみにしてます」

残念だなぁ、おまえ連れて帰っちゃだめなんだって、ローはそう仔猫に話しかけながら
ばいばいと手を振って、ペンギンと肩を並べ歩き出した。
それでもやはり気になるのか、名残惜しそうにちらちらと振り返る。
仔猫がそれに応えるように、みゃあとひとつ鳴いた。

「…やっぱりねこかっちゃだめ?」
「おれとねこどっちがいいですか?」
「………ずるい」

こういうときのローは、知ってか知らずかひどく可愛い仕草をする。
手を繋いで、小首を傾げて15センチ程身長の高いペンギンの顔を覗き込むのだ。
思わず絆されてしまわぬよう目線を合わせずに卑怯な問いかけで自分を選ばせて、
繋いだ手にきゅっと力を篭める船長を愛しく思いながら、宿屋への帰り道を歩くのだった。





end

改定履歴*
20110114 新規作成
ペンギンにべったり甘えるろーたんがすきなのです。
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