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休憩時間

今日は、特別な日。おれは珍しく、コーヒーの湯気の立つマグをふたつ持って船長室の扉の前にいた。

いつもはマイペースな船長のおかげで仕事という名の雑務に追われているおれが、
昼間にこうやって休憩するのはめったにない。
でも今日は、なんとなくいつもと違うことをしたいと思って―…
ローの真似をすることにしたんだ。

ローの真似。つまりそれは、仕事(ローの場合は読書だ)の邪魔…といっては身も蓋もないのだが。
まぁなんというか、昼間いつも暇そうにしているローがおれに構ってほしくて邪魔をするように、
おれからローに構ってもらいに(何か違和感があるが)いこうと思うのだ。

船長室の扉を開けても気付かないくらいに本に集中しているローの背中は、
これでも2億の首なのかと思うほどに無防備だった。

いや、本当は気付いているのだろう。それでも微動だにしないのは、
ここが周りにひとつの島もない海の上で、自分の部屋で、
…ついでに、侵入者の気配がおれのものだから。
それほどまでにこの空間がローにとって居心地がいいのかと思うと、単純にうれしい気持ちになる。

おれは、ローの分のコーヒーをテーブルにおくと、
そのまま後ろから本を覗くようにしてローに寄りかかった。同時にぴくんと震える、うすい肩。

「船長、何してるんですか」
「…ペン?何って、本読んで…」
「本読んでばっかりじゃ疲れますよ。休憩しましょう」
「は…?お前、そのセリフめずらしすぎねぇ?」
「いいじゃないですか。構ってくださいよ」

試しに、ローのいつものセリフを言ってみる。
途端に、おれの好きな深い藍の瞳が驚いたように丸くなるのがわかった。
もっとその表情を見たくて、そのちいさい頭をすっぽりと覆っている大きなふわふわの帽子を取った。
朱をさしたように赤く染まるその頬に、キスをひとつ。

「なんでそんなに驚くの?」
「え…あ、驚いてなんか」
「船長、顔、赤くなってる」
「…っだって、おまえがなんかいつもと違うから…っ」
「いつもと違う?だって今日は特別な日でしょう?」
「特別な日って…何…」
「覚えてない?一年前の今日のこと。あんなに、好きって言ってくれたのに」
「――あれは…んっペンギン、手が擽ったい…」

あまりの素直な反応に思わず顔がにやけそうになるのを必死で隠す。
本当に可愛い。いつもは頼りになる船長なのに、こんなときだけは特別。
まっかになっておれの腕に収まったまま、ぴくりとも動かない。
かわいいかわいい、おれの恋人だ。

「…覚えてなくてもいいよ。後で思い出させてあげるから。
それより、ねぇ、構ってくれるの、くれないの?船長ってば」
「――〜うう、ペンギンなんか今日、意地悪だ…」
「そう?おれはただ、船長と一緒に居たいなぁって」
「…じゃあ」
「ん?」
「じゃあ、名前で呼べ。」
「…」
「二人のときは名前で呼べって、約束しただろ…?」

恥ずかしさのせいか、涙で潤んだ瞳がおれをじっと見上げる。
おれは、ローのこの表情には弱いんだ。
胸の奥がきゅうっと絞られたみたいに苦しくなって、
…目の前にいるローのことがひどく愛しくて、抱きしめたくなる。

――もっと、ゆっくり苛めてあげたかったのにな。甘やかしたくなるから困るんだよ。

「そうだな。ごめん」
「ペンギンのばか」
「ロー、ごめんって」
「足りない。好きって言え」
「スキだよ、ロー」
「…足りない。なぁ、もっと…」

甘えたような拗ねた視線と、おれの首に回されてくる細い腕に抗える訳もなく、
そのからだを抱き締める。

「ベッドにいく?」
「ん。」



ああ、休憩だけって、思ってたのにな。

まぁいいか。去年の今日はおれが始めてローを抱いた日。
あの頃は、こうやって恋人として甘い時間を過ごせるようになるとは思ってもいなかった。
こんなに幸せな気持ちで、ローを抱きしめることができる日が来るとは
思っていなかったんだ。

――おれに抱き上げられたままのローが耳元で紡ぐ「すき」の言葉。
このやわらかな響きを、来年もその次の年も、あなたのいちばん傍で聴けますように。






改定履歴*
20100817 新規作成
サイト一周年企画『うちの左側たちがこぞってローたんを愛でる』という
一人ロー受け祭りペンロver。
- 10/17 -
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