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おかえり

海軍大将にローが狙われたとき、血の気が引いた。
今までの航海で、何度だって危ないと思ったことはある。
いつもなら、いちばん傍にいて守っていたのに、よりによってその瞬間、
ローはおれの手の届かない所にいて…おれは初めて、喪失の恐怖を味わったんだ。

心臓がぎゅうっと痛いくらいに締め付けられて、息の仕方を忘れた。
言葉が出なくなりそうな程の恐怖感からようやく解放されて得たものは、
――安心という名の吐き気。

船が海に潜って追跡を振り切った後、おれはローをすぐにでも抱き締めてしまいたかったのに、
ローは満身創痍だった麦わらのルフィへ救命治療を施して、
そのままふらつく足でシャワー室に入っていった。
優先順位の問題だと解っている。麦わらは生きているのが不思議なくらいの傷だったんだ。
きっとおれがローの立場だったら、同じようにしただろう。

けれど、そのせいでおれはローに触れなくて、
…ローが足りなくて、ローが生きているという実感が持てないまま。
頭がおかしくなりそうだ。

「…くそ、」

自室に篭ってベッドに座る。俯いた目線の先には、小刻みに震える自分の手があった。
こんなのは覚えている限り、ずっとずっと昔、それこそ航海を始めたばかりの頃以来だ。
もう全て終わったんだ。海軍の追跡だってないし、船はアマゾン・リリーに向けて進路をとった。
クルーたちも、いつもの静けさを取り戻そうとし始めている。
それなのに震えは止まるどころか、ますます強くなっていくようでー…

もう限界だ、早くローをこの手に抱いて、彼が生きてるって実感したい。
そう思って立ち上がり、内扉を開けて船長室に入ってみれば、
そこには風呂上りでバスタオルだけを纏ったローの姿があった。

「…ペンギン、どうした?」

ローお気に入りの大きな薬品棚の前で、片手には薬の瓶。
どうせ麦わらの治療に使うんだろう。体がまだ濡れているところを見ると、
シャワー中に思い出して忘れないうちにと慌てて戻ってきた、という所だろうか。

――気に入らない。

気に入らない、気に入らない。いつまでおれ以外のことを考えれば気が済むんだ。
そう思ったときには、もう手の届くところまで歩み寄っていた。

「ペンギン、…手、痛い」

薬を持っていた細い手首を無言で掴んだおれの様子がおかしいことに気付いたのか、
ローは不安そうな声を上げた。でも、もう後には引けない。

「おれの優先順位はいつだってローが一番なのに、あなたは違うのか」
「は?何言って…んっ」

質問するように問いかけてはみたものの、答えが聞きたいわけじゃないんだ。
言葉を紡ぎかけたローの腰を半ば強引に引き寄せてキスをする。
途端に漏れる、くぐもった声すらも全て飲みこむように、深く、深く。

酸素が足りず弛緩したローの手からすべり落ちた薬の瓶が床に落ち、
がしゃん、と派手な音を立てた。もしかしたら割れたかもしれないな。
でも、そんなことはどうだっていい。木の床に零れて、すいこまれて消える薬と一緒に、
ローの頭の中からおれに関すること以外は全て流れて消えてしまえばいいんだ。

「ん…っ、っは、ペンギン…」

とろん、と蕩けたような目線に少し満足したおれは、唇を胸元へと滑らせて、
ゆるやかに勃ち上がりかけた乳首を口に含む。
舌で押しつぶすようにして愛撫すれば、それはすぐに堅くなった。
ベッドまでの少しの距離すらももどかしくて、強く抱き締めてその場で後ろの孔に触れた。

「え、あ、…ちょ、ちょっと待て、おい…っ」

耳元で、ローの焦った声が聞こえる。無理もない、ベッドとソファ、
それに風呂場以外の場所で行為に及んだことなど、数える程しかないのだから。
それでも止める気はなかった。
指を動かすたびにびくびくと震える腰を掴んで、逃がさないように壁に押し付けて。

ぐちょぐちょと湿った水音が聞こえるようになる頃には、ローは抵抗を諦めたのか、
…それとも力が抜けたのか、ある一点だけを除いて全身からくたりと力が抜けていた。
すらりと伸びたローの片足を抱えて、細腰を引き寄せる。
そのまま抱きかかえて入り口に熱を宛がうと、慌てたローが声を上げた。

「や、待って…まって、ぺんぎん!なんでこんな、急に…」
「黙って。じっとしてて」

制止の言葉は聞き入れてあげない。大体、急なんかじゃない。
おれはずっとローを抱きたくて仕方なかったのに、それを放っておくローがいけないんだ。

そのまま腕の力を抜くと、重力に逆らえないローのからだは一気におれを飲み込んだ。
いつもよりもずっとキツイ入り口の締め付けに、背筋をぞくりと快感が駆け上る。

「!!あ、ああ!」
「…く」

気を抜くとそのまま達してしまいそうな快感に抗って、ローのからだを2、3回上下に揺すると、
細身の体をかろうじて包んでいたバスタオルが肌を伝ってぱさりと床に落ちた。

「やっ、あっ、あ、ひぁ、あ!」

片方のつま先がかろうじて床につくだけのローは、
力の入らない腕で必死におれにしがみついてくる。
断続的に耳の傍で上がる喘ぎ声が、堪らなく心地いい。
おれは先端が抜けるぎりぎりまでローの体を抱え上げて、
最奥まで飲み込ませる、という行為を何度も繰り返した。

「ぺん、も、…奥、いっぱい、苦し…っ」
「…気持ちいいって言って」
「んっ、はぁ、きもち、いい、キモチいいからぁ…っ」

こんなこと、無理矢理言わせたからって、何になるんだろう。
それでも、涙声のローの言葉はこの胸に潜んでいる独占欲を満たすのに十分だった。

「!!――ぁ!」

一際奥までを貫くと、声にならない喘ぎと一緒に吐き出されたローのあたたかい精液が
おれの腹を汚して、その強い締め付けに抗えず、ローの内側にすべてを注ぎこんだ。
それに反応してびくびくと痙攣する体が、ひどく愛しい。

「…ロー」

無意識に噛み付いていた細い首筋をひと舐めし、息の整わないまま名を呼ぶと、
腕の中のからだがぴくりと震えるのが解った。
続いて伝わってくるのは、押し殺した感情。
それは、確かに不安を含んでいて――おれはようやく、我に帰ることができた。

「ぅ、ひ…っく」
「…っ」

嗚咽混じりの声に驚いて、お互いの顔の位置が見える位置まで距離をとってみれば、
目の前に居たのは『船長』としてのローではなく、
おれの性急な行為に怯えているだけの恋人だった。

深い藍の瞳にうっすらと涙の膜を張り、それでも、目を逸らさずに
おれの瞳をじっと見つめてくるその様子が痛々しくて、
おれは先程までの自分の行為を後悔した。
ローに触れたくて仕方なかっただけなのに、泣かせて怖がらせてしまった。
おれは、何やってるんだ。

「ぺんぎん…?」

遠慮がちにゆっくりと、おれの頬に伸ばされてくる、しなやかな腕。
その手のひらがおれの頬を包んで、あたたかな指が目尻をそっと拭う。

「ペンギン、ごめん、ごめんなさい」
「ロー」
「わがまま言って、心配かけて、ごめんな」

無理矢理突っ込まれて痛いはずなのに。
…ローに、嫌われても仕方ないことをしてしまったおれを、
怒るどころか気遣う姿に、頭の中が真っ白になった。

「ペンを怒らすようなこと、もうしないから…、」
「違う、怒ってなんか…」
「おれの中のいちばんも、ちゃんとペンギンだから、」
「…っ」
「――だから、きらいにならないで」

おねがい、と言いながらきゅっと抱きついてくるローの姿に、眩暈を覚える。
同時に、まだ繋がったままだった体の一部に、また熱が集まりだす。
でもその前に、ローにちゃんと伝えないと。
嫌いになるわけない、好きすぎておかしくなりそうだったんだって、どう言ったら伝わるだろうか。

「え、ペンギン…?」
「…ごめん、もうちょっとじっとしてて。話はそれから」

ベッドまでの距離は、ほんの数歩。
こんな無理な体勢じゃなくて、いつものベッドでいつものように、
抱き合って話せばきっと誤解はすぐに解けるだろう。
ふかふかのベッドに辿り着いて、手荒に扱ってしまったからだをそっと降ろすと、
ローは嬉しそうな表情でおれの首を引き寄せて抱きついてきた。

「…あのな、ロー」
「うん」
「怒ってたのは、無理して戦場に行った結果、あなたがほんとに危険だったから。
そしておれがそれを守れなかったから。それが7割」
「残りは?」
「あなたが、…麦わらのことばかり考えていたから」
「――嫉妬ってことか?」

何も答えられないおれの顔は、きっと真っ赤に染まっているんだろう。ローの笑顔がそれを物語っていた。
これ以上顔を見ているのはとても無理で、おれはローと繋がったまま、ぎゅっともう一度抱き締めた。

「なんだ、嫉妬してくれてたのか」
「ロー、恥ずかしいからもう黙って」
「何で、いいだろ?いっつもおれしか好きとか言わないし、
たまにはお前が言ってくれても」

他愛のない話をしている間中、おれの腕の中に大人しく納まっているローのからだ。
あたたかい。鼓動が脈打ってる。生きてる。
それを実感した途端に、情けないけれどすこし涙が出た。

――ロー、おかえり。






改定履歴*
20100712 新規作成
ペンギンはローに対してものすごい独占欲があると…いいなって…そういう妄想です。
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