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ずっとこのまま -2-

――その指が、ただ一度でもおれの髪に触れたなら、おれはオマエに好きって言えたのに。

キスをしながら、ローが一つだけ強く願った想い。
しかしそれは、叶うことはなかった。


長い長い無言の告白の後、ローはゆっくりと冷たい唇を離すと
「ごめん、おやすみ」と一言だけ呟き副船長室との連絡用扉へとペンギンを促す。
俯いたままの表情は今にも泣き出してしまいそうなもので、
ペンギンはそんなローを思わず抱き締めて、
自分も好きだと伝えてしまいそうになるのを必死で堪えた。

ペンギンもまた、ローに想いを寄せていた。
そして、ローが自分のことをどう思っているかにも気付いていた。

それでも、気持ちを一生秘めておく覚悟だったのは、自身の強すぎる愛情のせいで
一度抱いてしまったらもう手離せないのが目に見えていて、
そのことがローにとって良い事である訳がない、と思っていたから。
なにもかもがローのことを大切に思うが故のことだった。

だけど、こんな夜は決心が揺らぐ。
閉じられた扉の向こう、まだそこにあるローの気配。
いっそ何も考えず、この扉を開けて抱いてしまおうか。
扉に手を掛けて想いを巡らす。1分、2分。

――自分のせいで道を踏み外させるようなことはしたくない。

「…くそっ」

思わず漏れた小さな呟きは、涙を堪えるのに必死なローの耳には届かなかった。



****
時間の流れは時に残酷なもので、今日もまた日課の打ち合わせの時間がやってきた。

昨夜のローの顔を思い出すとひどく心が痛む。
それでも、それがローの為だと自分に言い聞かせて今日一日を過ごした。
他の船員が回りにいて、あまりローの顔を見なかったからできたことだ。
部屋にふたりきりだと思うと必要以上に距離を置いてしまい、
知らず知らずのうちに早口になっているのが自分でも解る。

「――以上が、今日の報告です。」
「…ん」

一通り報告を終えると、気まずい沈黙が訪れる。
目の前には愛しい人。ふたりきりの船室。そして、ふいに蘇る唇の感覚。
まずい、理性が持たない。そう思い立ち上がろうとした瞬間、目線の先にぽたりと水滴が落ちる。
それがローの涙だと理解するのに、時間はかからなかった。

慌てて顔を上げる。今日、初めて真正面から見たローの表情は、
悲しいと苦しいが一緒にやってきたような悲痛なもので…
今までに見たことのないそれは、ペンギンの胸をぎゅうっと締め付けた。

ローはペンギンの視線で自分の瞳から零れる涙に気付くと、
これ以上見られないようにと立ち上がり後ろを向く。

「報告サンキュ。今日はもう疲れたからおれ―…」
「ロー」
「…昨日はごめんな。もう、忘れて」

こんな表情をさせたかった訳じゃない。泣かせたかった訳でもない。
ローの幸せを願って突き放したんだ。でも――。

気付けば、ローの背中を、抱き締めていた。


好きだよ、愛してる。
あなたのことを思うと、言葉には出せないけど。


驚いて振り向くローの頬と腰にそっと手を添えると、唇を掠めるように、反対側の頬へとキスをした。







改定履歴*
20090929 新規作成
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