苺、ひとつぶ -8-
「…坊ちゃん?」
全てを注ぎ込んだ後、中から自身を引き抜いて頬の涙を舐め取っていたセバスチャンは
指先を絡めたままだった手にきゅっと力が篭めらるのに気付いて驚いた。
今までシエルは、セックスが終わった後は気を失うようにすぅっと寝付いてしまっていたから。
「大丈夫ですか?寒いですか?…あ、お体が痛みますか?
申し訳ありません、やはりちゃんと慣らしてからがよかったですね…」
「…ううん、セバスチャン」
「はい」
「ケーキ。おいしかった。ありがとう」
やはり無理をさせてしまったのかと心配していた執事にかけられたのは、
スイーツが好きなシエルらしい可愛らしいお礼の言葉だった。
すこし照れくさそうにふにゃりと笑うその笑顔に、思わず悪魔の顔が赤くなる。
シエルがセバスチャンの声に弱いのと同様に、セバスチャンはシエルの笑顔に弱いのだ。
しかも、情事の後特有のあかく色づいた頬ととろんとした目で見つめられては、
もう言葉なんて出てこない。
今日はバレンタインデーに可愛らしいチョコとご褒美をくださった主人に
ホワイトデーのお返しをしたつもりだったのに、まるで自分の方がプレゼントをもらったような気分だ。
「セバスチャン…?くるしいぞ」
「申し訳ありません、マイロード。ですが、もうすこしこのまま」
「ん…仕方ないな」
くすくす笑いながらそう返すご主人様の声に、
執事は今だけと決めてきゅっと愛しい恋人を抱きしめるのだった。
今夜の晩餐時にはもっとちゃんとお返しをしよう。パフェがいいだろうか、それとも
主人の好きな苺をたっぷり使ったムースがいいだろうか。そんなことを考えながら。
end
改定履歴*
201103027 新規作成
- 8/8 -
[前] | [次]
←main
←INDEX