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苺、ひとつぶ -2-

そんなことを考えながら、自分に抱きついたままのかわいい恋人の艶やかな髪にひとつキスをおとす。
目の前数センチにあったそれは、陽の光でとても暖かく、ふわりといいにおいがした。
まるでひなたぼっこが好きな猫のようだと思いながら、ちいさな背をぽんぽんとあやすように
叩いてみれば、不意に深い蒼の大きな瞳がじっと自分を見上げる。

「どうしました?…嗚呼、今日のおやつが気になりますか?」
「いちご…」
「おや、ご名答です。苺を使用したスイーツですよ。キッチンが見えましたか?」
「いや…おまえから、いちごの甘いにおいがするから」

ふにゃりと笑ってそう言う恋人に、セバスチャンの鼓動がどくんと音をたてた。
この笑顔は単純に、好物の苺に向けられたものだと思ってみても可愛いものは可愛いし、
その笑顔を今独り占めできているということがひどく嬉しい。
思わず自身も頬が緩むのを抑えきれなかったけれど、
隠す必要もないかと思いなおしてそのまま言葉を紡いだ。

「貴方からは、薔薇の香りがしますね?マイロード」
「…そうか?自分じゃ分からないな」
「ええ。とてもいい香りですよ。このままずっと抱きしめていたいくらいです」

恋人を抱えていた腕にきゅっと力を込めて耳の傍でそう言えば、
シエルはかぁっと頬を赤く染めて目線を逸らす。
けれどその間もちいさな手はセバスチャンの燕尾服の襟を握ったままで、
隠し切れない可愛さにまた笑顔が零れた。

「部屋に着いたら、降りるからな」
「そうなのですか?私の膝の上でおやつを食べていただいても構いませんのに。
 そうだ、ついでにいつかに言っていたのをやってあげましょうか」
「いつかに言っていたこと…?」
「苺をあーんして食べさせてあげます、って言ったでしょう?」
「あ…あれはそんな…ベッドの中での会話だろう!」
「ええ、あれは確か、貴方が初めて自分からキスをしてくださった日の事で…」
「わぁああもういい!わかった!わかったから」
「では、私の膝の上で苺を食べてくださるということでよろしいですか?」
「うぅ…今日だけだからな」
「承知いたしました、マイロード」

セバスチャンと、その腕に収まったままのシエルがじゃれあうようにしながら後にした庭園では、
主人のためだけに綺麗に手入れされた白い薔薇が、屋敷の廊下から聞こえてくる
ふたりの元気そうな声をきいて、うれしそうにふわりと揺れた。






改定履歴*
201103014 新規作成
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