top * 1st * karneval * 刀剣 * utapri * BlackButler * OP * memo * Records

苺、ひとつぶ -1-

午後の柔らかい日差しが、ファントムハイヴ家の美しく咲き誇った白薔薇の庭園を包む。
そこにひっそりと置かれているひとつのベンチには、転寝をしているこの屋敷の主人の姿があった。
午後の紅茶の前にその日の分の仕事を片付け、このベンチで少しばかりの昼寝をする。
これがシエルの日課となったのはつい先日のこと。

春の暖かい日差しと心地よい薔薇のにおい、それに包まれるのが余程気に入ったのだろう。
シエルは一度そこでの転寝を経験してからというもの、自身の執事からいくら窘められようとも
その目を盗んではこのベンチに通い続けた。

昨日からはそのベンチに、クッションとブランケットが置かれるようになった。
きっと、説得を諦めた執事なりの心遣いなのだろう。大切な主人が、風邪を引かないようにと。
とにかく、そういうわけでシエルは今日も格好のベッドと化したこの場所で、
仕事を終えてから紅茶の準備を終えた執事が迎えにくるまでの幸せな時間を過ごしていたのだ。



「坊ちゃん」
「……ん」
「坊ちゃん、起きてください」

今日もいつもどおり、紅茶の準備を終えたセバスチャンは自分が用意していたブランケットに包まって
静かな寝息を立てているシエルにそっと声を掛けた。

まだあどけなさを残す顔立ち、白くきめ細やかな美しい肌とほんのり赤みを帯びた柔らかな頬。
伏せた目元には長い睫毛が影をつくり、潤った艶やかな唇からはしずかな寝息が聞こえてくる。
穏やかなその寝顔はとても可愛らしいもので、セバスチャンはそれを見るのが好きだった。
このときばかりは、『ファントム社社長』でも『女王の番犬』でもない、
ただの『シエル』というちいさな恋人の素顔を見ることができるから。

「おはようございます。紅茶のご用意ができましたよ?」
「んぅ…まだ、寝る…」

できることならそのまま寝かせてあげたいとも思うのだが――そこはぐっと我慢。
いくら自分がいるからとは言え庭で寝るのは無用心にも程があるし、
主人に立派な英国紳士となっていただくためにも、ここは甘やかしてはいけないのだ。

「だめです、さぁ坊ちゃん、お部屋に戻りましょう?」
「…やだ」
「仕方ありませんね。では私が抱きかかえてお連れ致しましょうか」

くすくす笑いながら、まるでこどものようにぐずるシエルをひょいと抱きかかえてみれば、
腕の中の恋人は満足そうにセバスチャンの肩へ頬をすりよせた。これも、いつものことだ。
きっと上手な甘え方を知らないシエルが、唯一自分からできる甘え方なのだろう。

実のところ、それが手に取るようにわかるから、ここで転寝をするなと強く言えない面もあった。
迎えに来れば大人しく抱き上げられ、こうやって自分に全体重をすっかり預けて甘えてくれるという
この上ないご褒美をいただけるのなら、自分がスイーツと紅茶を用意するそのほんの少しの時間だけ、
ここで眠る主人の気配に気を配っておくのも悪くない。

――それに、今日は、トクベツな日なのだから。






改定履歴*
201103014 新規作成
- 1/8 -
[前] | []



←main
←INDEX

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -