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蒼に溶ける恋 -8-

カンパニア号の豪華なスイートルーム、その大きなベッドの上には、
顔をほんのりと上気させたままくったりと執事に背を預けているシエルと、
そのからだを真新しいタオルで丁寧に清めている上機嫌な執事の姿があった。

シエルの成長途中のほっそりとしたからだのあちこちには
先程までの情事の名残である赤いキスマークが咲いていて、
指の一本一本までを丁寧に清めていく途中でそれが目に入る度、
セバスチャンは嬉しそうな表情を見せる。それがなんだか、とてもくすぐったく感じられた。

「…あんなところでは、嫌って言ったのに」
「申し訳ありません。つい」
「ばか、へんたい、あくま」
「はい、まぁ…悪魔なのですが」
「…」
「大丈夫、誰にも気付かれていませんよ。私としては残念な気もしますが」

――悪魔とはこんなにも、獲物に対して独占欲があるのだろうか。
少しだけ残念そうににこりと笑う執事の笑顔にそんなことを思いながら、
シエルは拗ねたように俯いて自分を抱きかかえている腕にせめてもの意思表示でかぷりと歯をたてた。
けれど、その仔猫のような仕草が愛しく感じられたのだろう、
セバスチャンは少しだけ笑うとそのまま穏やかな笑みでシエルに服を着せてゆく。

「どうしたら許してくださいますか?マイロード」

新しいシャツとベスト、それからハーフパンツを着せられて、首元にリボンを結われた後に、
きゅっと腕の中に抱きしめられて許しを請われては、シエルはそれ以上恋人を責めることができなかった。
ただ、窓の傍であんなにも乱れさせられたことを思うと簡単に許すこともできない。
まだ半ば蕩けている頭で一生懸命に答えを探して出てきたのは、
自分を犯した執事への罰というにはあまりに可愛らしい我侭だった。

「…うみ」
「はい?」
「海が見たい。窓辺に連れていけ」

くすりと笑った執事に抱きかかえられて、ガラス越しにお気に入りの青を見る。
それは朝の出航のまぶしいくらいの輝きとも、昼間のあたたかな輝きともまた違う、
やわらかな午後の陽そのもののように穏やかな輝きだった。

「綺麗なものだな」
「え…?」
「海は、見る度にちがうのに、いつ見てもきれいだ」
「…そうですね、ですが」

セバスチャンはシエルを片方の手で抱えなおして、その細い顎に手を添えると、
くいと上向かせて吐息が触れそうなくらいの至近距離で言葉を紡ぐ。

「貴方のその左の瞳。この深い蒼より綺麗なものを、私は見たことがありません。
 貴方がご機嫌なときも、ご機嫌斜めでいらっしゃるときも。…いつ見てもきれいですよ」

シエルの蒼を、セバスチャンの紅茶色がまっすぐに見つめる。
そのきれいな紅茶色に吸い寄せられるように目を逸らせずにいる主人の唇へ、
執事の緩く弧を描いたそれが重なろうとした瞬間、
ふと正気に返った主人はぷいと顔を逸らしてしまった。

「な…なに言ってるんだ、からかうな」
「おや、私は本気ですよ?信じてはいただけませんか?」
「わ、わかった!わかったからっ…〜〜っどうしたんだ、お前」
「どうした、とは?」
「何だか、いつもよりすごく甘い…気がする」
「そうですね、いつもとは違いますから。ここは貴方の船室で、貴方以外には私しか入れません。
 仕事も、騒がしい使用人も、女王も、婚約者だって…私から貴方を奪うことはできないのです」


「だから、今くらい、私が貴方を独り占めしてもいいでしょう?マイロード」


ほんの少しの間のあと、シエルのちいさな頭が戸惑いがちにこくりと頷くのを合図に、
セバスチャンはちいさな手をとってゆっくりとその甲へ口付けを落としてみる。
まるで、神聖な誓いにも似たその仕草に、主人の頬にぱぁっと赤みがさした。



広い海原を、目的地へと向かってまっすぐに進む、一隻の豪華客船。
そのてっぺんにある一等のスイートルームの中で紡がれる、だれにも内緒のものがたり。

執事が主人を『シエル』と呼ぶあまい声も、
耳元でひくく囁く『あいしてます』の言葉も、
それから、主人と執事の淡い恋心も。

すべては、深い深い、きれいな蒼に溶けていった。






改定履歴*
20110403 新規作成
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