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蒼に溶ける恋 -3-

世界一豪華と銘打っているだけあって、カンパニア号の華やかさは類をみないものだった。
とりわけ一等旅客用のデッキは広くて開放的な造りで、一瞬でシエルのお気に入りになったようだ。
進行方向のデッキへ行ってみたり、後方のデッキで船の軌跡に残る白い泡を眺めてみたりと忙しく、
年相応の好奇心を隠し切れない姿が可愛らしい。

「坊ちゃん、お風邪を召されますよ」
「セバスチャン」
「陽があるとはいえ、海風にあまりあたっているとお体が冷えてしまいます」
「ん…もう少しだけ。いいだろう?」
「…仕方のないご主人様ですねぇ。では、午後の紅茶のお時間まで」
「分かった」

心ここに在らずといった風に返事をして、そのまままた海へと戻ってしまう主人の目線を追ってみれば、
水平線の彼方に先程まで華々しい出航セレモニーが行われていた港を見て取ることができた。

「お寂しいのですか?」
「え?」
「港の方をじっと見ていらっしゃったので」
「ああ…いや、違う。船というのは案外速いな、と思ってな」
「そうですね、馬車よりもずっと」
「この速さで一週間強も掛かるとは、ニューヨークは遠いな」
「ええ。私もニューヨークは初めてですので、楽しみです」
「…おまえも、初めてなのか」

他愛無い会話の中のひとことに余程驚いたのか、シエルはそう驚きの声を上げると、
今まで海に向けていた目線を見慣れた執事の紅茶色の瞳へと動かした。
そうかと思うと、すっと逸らして口元を手で隠して顔を赤くする。
一瞬何事かと思ったが、その恥ずかしいような嬉しいような様子に
それが何を意味するのか、すぐに理解してしまった。全く、解りやすいご主人様だ。

「坊ちゃん、はじめての場所に船で向かうなんて、まるでただの恋人同士の旅行みたいですね?」

わざと耳元で囁くようにそう声を掛けてみれば、シエルは耳までをかぁっと赤く染めて
そのまま固まってしまった。その予想以上の反応に、思わず頬が緩んでしまう。
今すぐこの恋人を甘やかしてあげたくて、船室へ戻りましょうと目線で促すと、
シエルも今度は素直にこくんと頷いて手すりから手を離すのだった。






改定履歴*
20110313 新規作成
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