top * 1st * karneval * 刀剣 * utapri * BlackButler * OP * memo * Records

蒼に溶ける恋 -2-

セバスチャンが言った言葉の意味が、分からないわけではなかった。

明日からの仕事場は豪華客船カンパニア号。その3週間に渡るニューヨークへの処女航海へ乗船し、
今回のターゲットであるカルンスタイン病院が開催する『暁学会』と称した会合への潜入調査だ。
一度出航すればそこは海の上、例え仕事が終わったからといって、途中で降りることなど叶わない。

そしてその船には、シエルの婚約者であるエリザベスが家族で乗船していて――…
きっと、アフタヌーンティや晩餐会、たくさんの誘いがあるだろう。その誘いを無碍にはできない。
必然的に、シエルはエリザベスの『婚約者』としてたくさんの時間を過ごすことになる。

シエルが婚約者をエスコートし、その家族と楽しげに笑いあう姿。
自分とシエルとでは絶対に実現できやしないその幸せそうな様子を、
目の前でずっと見守っていなければならないのかと思うと、
いくらセバスチャンでも全く平気というわけではなかったのだ、――驚いたことに。

「悪魔でも、嫉妬するのか」
「…どうやら、そのようです」
「あれに付き合うのは僕の義務みたいなものなのに」
「承知しております、坊ちゃん。主人の義務を快く思えないなんて、私は執事失格ですね」

こんなとき、気の利いた言葉のひとつもでてこない自分の幼さを悔しく思いながらも、
シエルは自分にできる精一杯の愛情表現で目の前の執事の肩口に肩を埋める。
そうして、ひとつ深呼吸をすると思い切って自分からセバスチャンの頬に口付けた。

「――それなら僕だって主人失格だ。おまえの仕事を快く思えないことだってある」
「え…」
「…『口を割ったナースによれば』って何だ」
「気付いてらっしゃったのですか」
「当たり前だろう」
「全く気にも留めていらっしゃらないのかと思っておりました」
「…嫉妬、みたいなことするのが恥ずかしくて、気付かないフリをしてただけだ」

思いもよらなかった主人の告白に、セバスチャンの思考が一瞬止まる。
確かに自分はシエルの心を乱そうとしてそのような戯言を言ったけれど、反応がなかったから、
気付かないか、気付いていても気にしないかのどちらかだと思っていたのに。
それが主人の頑張りで隠されていたとは露ほども思わなかった。
言われなければ、気付くことはなかっただろう。言ってくれたのはきっと、自分を元気付けるため。

シエルが自分のできる範囲で一生懸命に自分を気遣ってくれているのが微笑ましくて、
少し欠けてしまったかのように沈んでいた気持ちが上向いてゆくのがわかった。
きっと彼は想像もしていないのだろう、自分の一挙一動がこんなにも、悪魔の気持ちを振り回しているなど。

「自分だけかっこつけるなんてずるいですよ、坊ちゃん」
「そうだな。本来かっこつけるのはお前の得意分野だろう?」

こんなこどもに振り回されているなんて、自分は一体どうしてしまったのだろう。
年端のいかない令嬢に嫉妬して、それを見破られて、その上優しく気遣われて。
きまりが悪いどころの話ではない。今日という今日は僅か13歳の少年に完敗してしまった。
気恥ずかしさに苦笑いを零してみれば、シエルはそれを察したかのように
目の前の恋人のほっぺたをむにむにと摘んで悪戯っぽく笑ってみせた。

「なぁセバスチャン」
「はい」
「おまえは僕だけの悪魔だ」
「…?はい、その通りです。」
「そして、僕は魂も身体も、全部おまえだけのものだ」
「坊ちゃん」
「だから、変なこと考えずに僕の傍にいろ」
「――イエス、マイロード」

どちらからともなく、唇が重なる。一度だけふわりと触れて、次第に深くなってゆくキスに、
これ以上すると明日起きれなくなるから、と顔を赤くするシエルの頬や髪をそっと撫でると、
ここちよい石鹸の香りがふわりとふたりを包む。
不思議なほど落ち着くその香りに誘われるように目を瞑れば、
いくらもたたないうちにふたりはここちよい眠りに堕ちていった。






改定履歴*
20110309 新規作成
- 2/8 -
[] | []



←main
←INDEX

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -