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蒼に溶ける恋 -1-

それは、花咲き誇る春のあたたかな夜のこと。ファントムハイヴ家当主の寝室、
ふたりきりのこの空間では半刻程前から延々と甘い嬌声が響いていた。
上等なベッドの上には睦み合うふたつの影。
当主であるシエル・ファントムハイヴと、その執事セバスチャン・ミカエリスのものだ。

主人と執事、それから恋人同士の関係を持つこのふたりは、
それ自体の行為は終わったというのに、じゃれあうように肌を離せずにいた。

「ん…っ、や、セバスチャン、そこ…」

ほっそりとした幼いからだに覆いかぶさっていた影が、戯れに首筋にちゅうっと吸い付く。
雪のように白いその肌には簡単に赤い跡がつき、シエルは慌てたような声をあげて、
悪戯をした恋人の肩をぺちぺちと叩いた。

「おや、私の跡を付けられるのはお嫌ですか?」
「そうじゃない、…だって、こんなとこ…明日は――」
「そうですね、明日は出航の日です。こんな所に付けていたら、たくさんの人に見られますね?」
「!分かっててやったのか?」
「ええ、貴方は私のものですから、そのしるしを…と思いまして」

セバスチャンがこうやってシエルの肌にキスマークを付けるのはいつものことだが、
主人に咎められてもまるで反省の色など見られず、それどころか
それの何が駄目なのかと開き直る態度に些かの違和感を覚えて首を捻るシエルの肌を、
またセバスチャンの唇が滑る。今度は鎖骨に寄り添うように、赤い花が咲いた。

「んっ!擽ったい、バカ犬…」
「その犬に腰を振られて悦んでいたのはどなたです?」
「や、も…なんでそんなに意地悪なんだ、今日は」

てっきり嫌味で返してくると思ったのに、主人の口から出てきたのは可愛らしい疑問で、
そのちいさなてのひらはセバスチャンの両頬に添えられていた。
まっかに頬を染めながらもきっと自分の目を見据えて質問をするその姿に、苦笑いをひとつ。

「全く…貴方には敵いませんね」
「何のことだ」
「可愛すぎて毒気を抜かれてしまいました」
「…?だから、何のこと」

悪戯をやめて、自分の隣に寝ころがり、そっと自分の頬に手を添えるセバスチャンに、
今度はシエルが覆いかぶさる番だった。
尤も、それは一瞬のことで、すぐに契約印の入った手で引き寄せられて抱きしめられたのだが。

ぎゅうっと自分を抱きしめて髪や額に次々とキスを落とすセバスチャンの紅茶色の瞳を
見上げたまま、答えを待つ。彼は随分長いこと理由を言うか迷っていたようだが、
じっと自分を見つめる瞳にとうとう観念したかのように口を開いた。


「…明日からの3週間、坊ちゃんはエリザベス様の『婚約者』ですね」


そう言って寂しそうに細められた悪魔の瞳。それは、いつも自信たっぷりで、
どんな困難な命令でも涼しい顔をしてこなしてしまう執事が、シエルの前で初めて見せた表情だった。






改定履歴*
20110308 新規作成
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