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寵愛を受ける -1-

雲が流れて、障子越しのやわらかな月の光が兼さんの目元に長い睫毛の影をつくる。
 飽きることなく彼の寝顔を眺め続けて、もうどれくらい時間が経っただろう。
 行為が終わって気を失うように寝てしまったらしい僕が束の間の睡眠から目覚めるまで気を張りっぱなしで見守ってくれていた兼さんが、「死んじまったかと思ったぜ」と冗談めかして笑ってそのまま入れ違いで寝てから今まで、向かい合わせで抱かれた体勢のまま、ぼんやりとその寝顔を眺めていた。
 行為の後にひとつ褥で眠る時、兼さんはいつもこうやって僕をぎゅうっと抱き締めて熟睡する。僕はその兼さんの癖が大好きだった。本当は、早く身を清めて明日に備えて寝なきゃとは思うんだけど、なかなかこの大好きな腕から抜け出すことができない。
 寝顔がきれいだなとか、どんな夢見てるのかなとか、いろんな思考が入れ替わり立ちかわり僕の頭の中を巡る。しまいには、もしかしたら僕はこうやって兼さんの寝顔を眺めるためにひとの身体を得たんじゃないのかな、なんてそんな馬鹿げたことを真剣に思ってしまう始末だ。

「んん……」

 ふと兼さんがうなって、僕の背に回されていた右手にぐっと力が籠もる。そのちからに逆らわず兼さんにぴったりくっつく。とくんとくんと規則正い鼓動が聴こえてきて、あったかくて、なんだかいい匂いもして、眠くなってくる。
 どうしよう、このまま寝てしまおうかな……。
 そう思ってもっと収まりのいい体勢になろうと身じろいだその瞬間、下半身になんとも言えない違和感が走った。
 なんと表現していいかわからなくて言葉を選んでしまうけれど、その……あの液体が、というか、はっきりと言ってしまうと僕の中に出された兼さんの精液が溢れて出てきてしまったんだ。
 きっと今のは太腿を伝って敷布を濡らしてしまっている。ああやってしまった、明日きちんと洗わなきゃ。
 このまま兼さんの腕の中で寝てしまいたいけれどそういう訳にはいかない。きっとまだまだ中に留まっているものを処理してしまわないと。
 改めて兼さんを見る。すうすうと規則正しい寝息をたてて、一見すると子供みたいにも見える寝顔。その気持ちよさそうな寝顔がなんだか可愛い。
 起こしてしまわないように細心の注意を払いながら自分を抱きとめている腕から抜けだして、中途半端に纏っていた浴衣をかき寄せた。全て脱がされ抱かれてから自分で着直した覚えはないから、きっと兼さんが着せてくれたんだろう。帯もしていなければ袖も片方しか通されてはいないけれど、そんな不器用な優しさがとても兼さんらしくて胸がほわりと温かくなる。

「……ありがと、兼さん」

 寝ている兼さんには聞こえないぎりぎりの声でお礼を言って、僕はそっと部屋を抜けだした。



****

 季節は冬。吐く息は白く、思わず無意識に指先を擦り合わせて暖をとってしまう。兼さんの部屋から湯殿まではそう遠くもない距離だけど、辿り着いた頃にはすっかり身体が冷えてしまっていた。
 手早く浴衣を脱ぎ、内風呂へと続く引き戸を開ける。ふわんと檜の香り漂う暖かな湯気に満ちたこのお風呂は掛け流しの温泉で、しかもいつでも入れるよう今のような夜中でもぽつぽつと灯りが置いてある。外の景色を眺められるよう大きな硝子がはめ込まれているその下には一部隊全員で入っても余裕があるくらいゆったりとした檜の浴槽、その隣には少し熱めの岩風呂、さらにその隣の戸を開ければ、見事な日本庭園と屋根付きの露天風呂まで備わっているのだ。本当に、贅沢な造りだと思う。
 他の刀剣たちに漏れず兼さんと僕もこの温泉が大好きで、時間のある時にはのんびりとお湯を楽しむことも多い。そんな大好きな場所に来て思わず冷えた身体を温めたくなったけれど、今は、早く処理して布団に戻ろうと思い直した。そうだよ、明日も早起きして兼さん達に朝餉を作ってあげたいし。
 僕は、他に人がいないのを確認して洗い場で膝立ちになった。この時くらいしか触れることのないそこに、そっと中指を差し入れる。次いで、人さし指も。

「ん、っ」

 当然ながら、自分でやっても快感どころか違和感しかない。なのに兼さんに触れられると何も考えられなくなるくらい気持ちよくなるのは何故なんだろう。そんなことを考えて気を逸らしながら二本の指をひらくと、中に留まっていた液体がつうっと垂れていくのがわかった。指を奥まで突っ込んで、残りも掻きだす。ぶるっと、わざとではなく背筋が震える。何度やっても、これには慣れない。
 精液も汗も全てをお湯で洗い流してしまって、ふと露天風呂の方へ目を向ける。
 硝子戸のむこうの星々がきらめく空に、ひときわ明るい月が浮かんでいた。早く寝なきゃって何度も思った筈なのに、脚が勝手にそちらへ向かう。引き戸を開けてしまうとぴゅうと冷たい風に身体が縮こまって、もうだめだった。お湯の誘惑に負けてしまった僕は、寒くて冷えた身体を温めるほんの少しの間だけと決めてそうっとお湯に片足ずつ浸していった。

「――ふう」

 肩まで全部をお湯に沈めると、さっきまでの寒さがどこかに飛んでいく。縮こまっていた身体が解けていくのがわかる。角のとれた大きな岩に背を預け手のひらで湯を掬って肩へ掛けると、とろりとした湯が肩から腕を伝い落ちてゆく。その気持ちよさに思わずため息が漏れた。視線を上げれば、夜空に輝くきれいな月。

「きれいだなぁ……」

 そういえばそろそろ満月かなぁ、今度ちゃんと調べて、そうだ月見団子の準備もしよう、兼さんそういうの好きそうだし……そんなことを思いながら、何度目かのため息をついた時だった。
 からりと引き戸の開く音がして、誰かがこちらにきた気配に気付いたのは。

「え?」

 見上げればそこにいたのは、今のいままで頭の中にいた兼さんその人だった。
 えっ、何で、だってさっきすごく寝てたのに。
 突然で慌てる僕に対して兼さんは普通そのもので、月を見ながら僕の隣に座ろうとする。

「おー、綺麗なもんだな」
「あっ、待って待って兼さん」

 そこで兼さんの髪が結われていないことに気付いて、慌てて立ち上がった。だって今はもう夜中で、いま兼さんの長い髪が濡れたら眠るのがすごく遅くなってしまう。
 でも結い紐なんて持ってきてないしどうしよう、あっ僕が持ってればいいのかな? そう思ったと同時に、兼さんがいつもの赤い紐を僕に差し出した。もしかしたら兼さんは、僕の考えていることが解るのかもしれない。

「あ……ありがとう」
「ん、頼む」

 兼さん、僕がここにいるって知ってて、それで僕に結ってもらうこと前提で紐を持って来たのかな。些細なことだけど僕を頼ってくれたのかな。それってなんだかすごく嬉しい。
 ふふっとにやけてしまうのを抑えながら、僕に背を向けて座った兼さんが濡れないように片手でひとつに纏めていた髪を受け取った。そのまま高い位置でひとつに結って、仕上げに紐をきゅっと蝶結びにする。
 いつもと同じように「できたよっ」と声を掛けると、兼さんもいつもと同じように「おう」と返事をしてくれた。

 大丈夫かな、崩れないかな、そう思ってもう一度結び目を確認しながら、また湯に浸かるべくゆっくりとしゃがむ。僕に背を向けていた兼さんも、90度向きを変えてさっき僕がしていたのと同じように、岩に背を預けていた。
 僕もその隣に落ち着こうとしたんだけど、座るやいなや腕を引かれてそうさせて貰えない。え、と思って兼さんの顔を見ると、兼さんは「こっち」とだけ言った。まるで、そうじゃねぇだろ、と言いたげな顔で。
 あぁ、はいはいそういうことですね。
 その顔をひと目みて理解した僕は、立膝でよいしょと湯の中を移動して兼さんの正面に向かう。開かれた脚の間に、兼さんに背を預けるかたちですとんと収まった。

「これでいいですかー」
「おう」

 ほらね、正解。兼さんはさっきとはうってかわってご機嫌で、後ろから僕の両肩に腕を回してきた。どうも兼さんはこの体勢で僕の肩に顎を乗っけるのがお気に入りみたいで、こうなると暫く離して貰えない。でもいいんだ。この体勢、初めはすこし戸惑ったけど、回数を重ねるうちに僕まで好きになってしまったから。だって兼さんの腕の中だ。すっぽり収まっているとなんだか安心して、ずっとこのまま、何時間でもこうやっていられるような気分になってしまう。勿論今はお湯の中だから、そんなことしたら逆上せてしまうんだけど。







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20150215 新規作成
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