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きみが目覚めた時には -3-

 いくつかの昼といくつかの夜が過ぎて、いよいよ新しい戦場への出陣となった。
 前回に引き続き隊長を務める歌仙の元、この日のために鍛錬を積んだ刀剣たちが戦支度を整える。

「歌仙さん! 今日はよろしくお願いします」
「うん、こちらこそよろしくね」

 国広も日々の努力の甲斐あって、めでたく出陣することとなった。ぴかぴかに磨き上げた愛用の脇差を腰に差し、嬉しそうに挨拶をする彼の笑顔につられて歌仙の顔も綻ぶ。
 国広はぺこりと頭を下げると、今度は同じく出陣の準備をしている一期一振の元へと挨拶をしに行った。

「おーい……、戦の前になぁに締りのない顔しちょるがか」
「ごめんごめん、なんだか成長が眩しくてね」

 近くにいた陸奥守の小言に、歌仙は笑って応える。

「おんしゃ楽観的じゃのー。わしゃ心配ぜよ。怪我せんといいんじゃが」
「うーん、僕たちもいるし大丈夫なんじゃないか。それにほら、多少はあれだよ。『男の子の向かい傷』ってね」
「詳しいのう……」
「ははは、僕は文系だからね」

 今日の馬番を務めていた五虎退と骨喰が、二人の愛馬を連れてくる。いよいよ出立だ。

「見つかるとええのぅ」
「そうだねぇ」

 ありがとうと礼をいって馬にひらりと跨がり、最後まで可愛い弟分の心配をしながら二人は正門へと向かっていった。



****

 土埃と砂煙にまみれた戦場で、国広は力の限り剣を振るった。
 もしかしたら、このままずっと会えないのかもしれない。いやそれならまだしも、敵対勢力の元で既に現れていたら……、そんな嫌な妄想が脳裏をよぎり、それを振り払うように敵を討つ。

「遅いよっ!」

 ざん、と敵の腕を落とし、返す刀で背後の敵を。刀にどろりと纏わりつく血を払い次へ行こうとしたところで――不覚にも、足元をとられてしまった。転ぶ寸でのところで体勢は立て直したものの、戦場では一瞬の隙が命取りとなる。
 迫る敵の刀が目に入り、背筋をひやりとした嫌なものが伝った。振り落とされる刃の模様までもがはっきり見えるような錯覚に囚われながらも、横に構えた刀でどうにかそれを受けようと身構える。衝撃に備えようとぐっと足腰に力を入れた、まさにその時だった、目の前が藍でいっぱいになり、翻った羽織の裏にちらりと艶やかな花が見える。一瞬の間の後に、先程の敵兵が真っ二つになって崩れ落ちるのが見えた。

「大丈夫か?」
「は、はい! すみません、不覚をとりました」
「いや、よくやってくれているよ。もうちょっとだ、がんばろうね」
「はい!」

 自分を助けてくれた歌仙に礼を言い息を整えようとして、国広は周りを見渡す。そこは文字通り戦場だった。混沌とした灰色の世界の中、羽織をなびかせ敵隊長に向かっていく歌仙が、次々に敵を倒していく陸奥守や一期一振が、やけに眩しく目に映る。愛用の脇差を握りしめる右手に、知らず力が篭った。

 僕も歌仙さん達みたいにもっと大きな刀だったらよかったのかな。そうしたらもっと敵を討って、今頃もっと沢山の新しい仲間がいて、兼さんにも……
 ぎり、と奥歯を噛み締める。力を入れすぎたのか、それとも先程の交戦での衝撃で傷を負っていたのか、口の中に鉄の味が広がった。その不味さに、はっと我に返る。

 ――弱気になるな!
 僕はこの形だから、兼さんと一緒に居られたんだ。兼さんと過ごした時間を、一秒だって後悔したりなんかしない。

 国広はそう自分に言い聞かせて額の汗をぐっと拭うと、仲間たちの後を追い敵兵へと向かっていった。



****

 ほどなくして、自軍が勝利を収めたと伝令があった。湧き上がる歓声の中、国広はいるかいないかわからない刀剣を探してきょろきょろと辺りを見回す。

「……あ、」

 遠くに、ちらりと見慣れぬ長身の人影が見えた。長い髪に、きれいな空色の羽織、赤の着物。彼の刀の姿を彷彿とさせる姿形に、どくんと心臓が高鳴る。

「すみません、ちょっと……! ごめん、通してください!」

 人混みをかき分けて、その人物に近づく。時間にしてほんの十数秒、それでも国広には、その何倍にも思えた。ようやく顔が見える距離まで辿り着いて、そこでぴたりと足が止まる。
 最期に一緒にいたのは、お互い刀の身だ。新しく得た人間の姿形なんて知る由もない。着物の色が似ているからといってもそこにいるのが探し求めていたその人である証拠なんてないのに、迷うことはなかった。

 だって本当に、ずっとずっと探していたのだ。
 夢にまで見た愛しいその人が纏う空気を、間違える訳なんてない。

「兼さん!!」

 目覚めたばかりで状況が掴めず周りを見回していた刀剣は、文字通り胸に飛び込みぎゅっと抱きついてきた少年に驚きながらも、数回瞬きをしてはっとしたように目を丸くした。
 国広か? と躊躇いがちに訊ねられて、彼の目の奥が熱くなる。まるで言葉が全て涙に変わってしまったかのように、国広はこくこくと頷くことしかできなかった。

「なに泣いてんだよお前は」
「〜〜っ、だって兼さん、兼さん遅いよ、ずっと探してたんだよ!!」
「探してたって言われてもなぁ……」
「もう、もしかしたら会えないのかもって思って、僕……」
「げっ、解った解った悪かった泣くなって」
「兼さん〜〜…」

 兼さん、と呼ばれた刀剣は、未だに状況が掴めないようではあったが古くの相棒のことは覚えていたようだ。そっけない言葉を口にしながらも、自分にしっかりと抱きついて離れない少年の背をぽんぽんとあやすように叩いてやる彼の表情からは、どこかほっとした感情が見て取れた。
 ったくしょーがねぇな、そう言って着物の端で後から後から零れ落ちる国広の涙を拭ってやり、しまいには手持ち無沙汰だと言うように腕の中の体をぎゅっと抱きしめその頭に顎を乗せてあやしはじめる。けれど初めて感じるぬくもりに驚いたのか、それとも安心したのか、国広の涙は止むことはなく、兼定は目覚めたばかりの頭で必死に宥める手立てを考えては試しの繰り返しとなった。



「――あれが、『兼さん』か?」
「そうだろうね。よかったね」

 目覚めたばかりの兼さんの補佐をしたい、例え右も左も分からない世界であっても、絶対に不自由な思いはさせたくない。
 そう願っていた国広の願いが叶うことを確信した歌仙と陸奥守は顔を見合わせて笑いを零す。帰ったら待たされた分ふたりに色々と話を聞かせてもらおう、そんな軽口をたたきながら戦の後処理に向かうのだった。





end

改定履歴*
20150129 新規作成
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