カラダだけじゃなくて
「なぁーに拗ねてんだ?」
斜め後ろからでもわかるくらいに膨れて見える頬へ、氷水から取り出したばかりの瓶をぴとりとくっつける。
「――ッ、わ、何……」
考え事をしていたのか、背後に迫った朔の存在にも気付いていなかった與儀は、突然襲われた感覚にびくんと肩を跳ねさせその勢いのまま後ろを振り向いた。
「朔サン……」
自分に子供のようないたずらをした犯人の名前を呼ぶと、それまで彼が纏っていたぴりぴりした空気が少しだけ和らぐ。朔は瓶をそのまま與儀に手渡しながら、ごく自然にその隣に座った。
既に栓が取り去られ、代わりにライムが挿してあるその酒は、あまり酒に強くない與儀の為に朔が選んだものだった。その心遣いに絆されたように、與儀はこくんとひとくち、少しだけ濁りのある液体を飲み込む。するりと喉を通り抜けていくミントと柑橘の爽やかな風味に、心なしかまた少し與儀の表情が緩んだ。ほう、と小さく息をつく彼の横顔をみて、朔も同じものを口にする。強い酒を飲み慣れている彼には甘すぎる代物だが、まぁこれはこれでいいもんだなとどうでもいいことを思った。
「……拗ねてません」
朔が二口目を飲み込むところで、與儀が先程の質問への答えを呟いた。答えとは全く逆の顔をしているのが面白くて、朔は笑ってしまいそうになるのを慌てて我慢した。
「んじゃご機嫌ナナメ」
「違います〜」
けれどそんな朔の心の内を察したらしい與儀は拗ねたようにそう言って、再び瓶に口をつける。味を見るような一口目とは違って、今度はごくんと音がしそうなくらいの勢いだ。先程與儀がひとりでここに座っているのを見つけ、それから手近な店で買い求めたありあわせのものだったけれど、どうやら気に入って貰えたらしい。
「……平門のこと?」
「何のことですか〜?」
「誤魔化すなよー、わっかりやすく嫉妬してたくせに」
周りくどい言い回しを好まない朔がさらっと口にした本題を、與儀は酒の勢いを借りて誤魔化そうとする。けれどその口調は全くの逆効果で、気にしていますと言っているようなものだった。
朔がとうとう我慢できずに笑ってしまうと、與儀も負けずにむぅと膨れる。ほんの数分前まで彼が纏っていた、誰も寄せ付けないようなぴりぴりとした空気はもう欠片も残ってなかった。
无や花礫、ツクモ達が集まっている部屋にも行かずひとりでいた與儀の心をこんなにもあっさりと溶かしてしまえるのは、きっと、平門と同じくずっと昔から與儀のことを知っていて、尚且つ二人の関係も知っている朔だけだろう。
「浮気だって言ってみれば?」
不満があるなら、ひとりで悩むより相手に直接言えばいい、というのが朔の考え方だ。
昼間から、気になってはいたのだ。平門と、無自覚とはいえ彼に想いを寄せるツクモがふたりきりで洞窟に閉じ込められたと聞いて、またその姿を実際に目の当たりにして、與儀の様子が少しおかしかったこと。
いつもは平門サン平門サンとうるさい彼が、あれから一切その名を口にしなかった。夕食だって花礫や无とは話していたけれど、その後の談笑は避けて外に出ていた。いつもは先頭に立って皆を盛り上げるムードメーカーの與儀がこれでは、気にするなという方が無理な話だ。最も、当の本人は、そのことには気付いていないようだが。
だから朔は、いつもならば燭や平門を誘って飲む場面でそれを後回しにして與儀の姿を探した。このメンバーで彼の話を聞いてやるのは自分しかいないだろうという自負があったからだ。いつもは飄々としていて何も考えていないように見えるが、こういった内面のケアも含めて朔は誰よりも優れた輪闘員の頂点に立つ男なのだ。
恋人が他の女といちゃついて(るように見えて)ご機嫌ななめの與儀の愚痴を聞いてやって、まぁ必要なら後から平門に釘をさして、それで一件落着だと軽く考えていた。
「浮気とか……俺別に平門サンとは、そんなの言えるような仲じゃないですし」
「は?」
けれど、與儀が口にしたのは朔の予想の範疇から外れたものだった。
浮気だと言えるような仲じゃない、とはどういうことだ。
「お前らって付き合って……」
「ません」
自分が把握している與儀と平門の関係を一から再確認しようとして、その一段階目で躓いた。
朔は、わざとではないが平門が與儀に触れているところも、與儀が肌蹴た格好で平門のベッドで寝ているところも見てしまったことがある。もちろん、状況証拠だけではなくて二人をとりまく空気からもそういう関係だと思っていたのに。
「いやいや、待て、この期に及んでごまかさなくていいって」
「ごまかしてません」
「だってやることやってんじゃん」
「な、なんでも知ってるんですね……でもアレは、たまに抜いてるだけです、お互いに」
「はぁー?」
待て待て、落ち着け。朔は頭を抱えて、そう自分に言い聞かせる。けれどなかなか頭の中が整理できない。
だってこれが落ち着ける話だろうか、まさかそんな、ほんの子供の頃から知っていて、そのイメージがまだ抜けないこの與儀が、『身体だけの関係です』なんてことを言ってのけるなんて。
「〜〜、アイツ何やってんだよ……」
混乱は苛立ちへと代わり、それは與儀ではなく彼をこう育てた張本人である自身の親友へと向かった。
付き合っているのだと思っていた。
男同士だとか、上司と部下とか、年齢とか、いくつもある壁を全部ふたりで乗り越えて、それで一緒にいるのだろうと思っていた。
まさかそれが全部自分の勘違いで、平門は好き勝手に與儀を扱い、與儀はひとりで平門との関係に悩んでいたなんて。
「――いつからなんだ? その、身体だけって関係は。初めは違ったんだよな?」
「え、うーん、年齢とか正確には覚えてないですけど、はじめからですよ」
せめて初めてのセックスくらいは、お互いのことを好きでお互い我慢できなくてやったのであってくれ、という切なる願いすらも、與儀の返答で崩れ去る。
「じゃあお前らの関係って」
「……単純に、性欲処理、とかですかね……」
街に降りると輪だから目立っちゃうし、艇の女の子相手だと色々あって大変なのかな、俺だとそういうのないし、と與儀は残っていた酒を飲み干しながら言う。それを黙って聞いていた朔がふと與儀の横顔を見ると、その目元が月の灯りを受けてきらりと光った。
「――でもお前は違うじゃん」
「っ、え、」
「違うからこんな、泣きそうな顔になってんじゃねぇの」
與儀の顔に手を伸ばし、親指でぐっと目元を拭う。そのまま紫の目を見据えると、與儀の大きな瞳にはあっという間に涙の膜が張った。
「いや、俺、えっ……と、〜〜っ」
與儀が返す言葉を見つけるより先に、その目からぽろりと一粒涙が零れ落ちる。こうなるともう止まらなくて、堰を切ったようにいくつもいくつもその痕を涙が伝った。
「……好きなんだよな、ちゃんと」
「好きじゃありません、全然……俺、そういうんじゃ……」
「はいはい」
「だって男同士だし、好きとかおかしいし」
ぼろぼろ溢れる涙を拭う與儀の肩も、声も、小さく震えている。朔は、胸の奥がきゅうっと苦しくなる初めての感覚に戸惑った。
今までも、こんな風に泣くようなことがあったのだろうか。もっと早くに話を聞いてやればよかった。もっと、ふたりの関係に気付いた時に、ちゃんと確かめておけばよかった。そうしたら、今さらこんな風に與儀が泣くことはなかったのに。
與儀の涙のように後から後から自責の念が溢れだし、たまらなくなった。息苦しさから逃れるように、朔は與儀の金の髪へ手を伸ばす。泣き止んでくれ、との想いを込めて撫でるつもりだったその手は、朔の意思を無視して與儀の背に添えられ、そしてそのまま彼のからだを抱き寄せた。腕の中の與儀が、驚いて俯いていた顔をあげる。
「朔さん……?」
「俺はいいと思うぜ? 誰を好きでもおかしくねぇだろ、つーか好きでもないヤツとやってるよりよっぽど健全で安心した」
「ほんと、ですか?」
「ひっでーなぁ。俺こんな時まで嘘つかねぇよ」
朔の腕に、ぽたぽたと熱い雫が落ちる。たった一言の肯定でこんなにも泣いてしまうなんて、與儀はいったいいつからこうやってひとりで悩んで、思い詰めていたのだろう。
「……泣かせた、悪い」
「いえ、すみません、なんかほっとしちゃいました」
ぐす、と鼻をならして、與儀は言葉を続ける。ちいさくて、消え入りそうな声だった。
「……なんか、わかってるんですよ、今日のも。何もなかったって。たとえ何かあったとしても、俺には関係ないし」
「強がんなくていーって。関係なくはないだろ、好きなんだから」
「〜〜っ、朔サン。また泣くからだめです、そーいう優しいの」
「もう今日は泣けばいいじゃん。ずっと溜めてるよりマシだろ」
俺が優しいのは、多分お前にだけなんだけど。
そう言いかけた言葉をぐっと飲み込み、與儀の背に回していた手に力を込める。今度は無意識じゃなく、間違いなく朔自身の意思だった。その腕に縋るように掴まった與儀の手から伝わる体温が、温かい。泣くと体温上がんのかな、なんてことを考えて気を逸しながら、朔は自分の腕の中で声を殺して泣く與儀が落ち着くのを待った。
****
『平門のこと考えて一晩中眠れないのと、俺と一緒に全部忘れるの、どっちがいい?』
艇に戻り部屋まで送ってくれた朔に礼を言うと、返ってきたのはそんな言葉だった。
このままおやすみを言ってひとりになりたくない。もう少しだけ一緒にいたい。
いつの間にかそう思っていたことを見透かされたようで、與儀は弾かれたように顔を上げる。
視線の先には、少し背の高い朔のくすんだ金の瞳が優しく弧を描いて與儀を見つめていた。
「――つ、きたち、さん……」
どちらを選んだつもりもなかった。
けれど半ば無意識のうちに、與儀は朔の名前を呼んでいた。
與儀の声で紡がれる自分の名を聞いた朔が嬉しそうに微笑んで、大きな手を差し伸べる。その手をとろうとしたところで、湯が溜まったことを知らせるアラーム音が静かな部屋に響いた。
そういえば先程朔が、與儀に涙でどろどろになった顔を洗わせるついでにせっかくだからとバスルームに湯を張ってくれていたことを思い出す。
「一緒に入るか?」
「――っ、え?」
「準備とかあんだろ。手伝ってやるよ」
にかっと、朔がいつものいたずらっぽい笑顔を見せる。『準備』とはつまりそういうことなのだと、與儀はひとり心の中で反芻してようやく理解した。
「い……、いいですいいです! ひとりでやれますよ!」
「なぁんだ、残念」
「もう……あ、朔さん先にどうぞ、俺その、多分時間掛かっちゃうし」
そう勧めると、朔は笑いながら自分の部屋で入ってくるよと一旦與儀の部屋を後にした。すぐ戻るから泣くんじゃねーぞ、なんて言葉を残して。
***
朔が調節してくれた湯はいつもより少し熱くて、でも我慢して身を沈めるとすぐに馴染んだ。心地いい温度にひとつ息をついて、そのままずるずると口元まで湯に浸かる。ゆっくり吐き出した息が、ぶくぶくと心地良い音を立てた。
(ほんとに、するのかな)
先程からそのことを考えると、なんだかむず痒い気持ちになる。何しろ平門以外に抱かれるのは初めてで、しかも相手は小さな頃から知っている朔だ。
(でも、)
ああやって誘われて、断る理由も見つからない。今まで朔のことを恋愛対象として意識したことはなかったけれど、改めて聞かれれば勿論好きだ。それに――平門だって、他の人と一緒にいた。
ずきん、胸の奥が鋭く痛む。考えたくなくて目を瞑っても、昼間のあの光景が瞼の裏に焼き付いている。慣れないアルコールが熱い湯で全身に回って、與儀の鼓動が大きく乱れた。
(――もういいや、だって朔サンが全部忘れさせてくれるって言った)
意を決して、バスタブから立ち上がる。何を着るか悩んで、結局バスタオルを腰に巻いただけの格好でバスルームのドアを開けた。
宣言通りゲストルームでシャワーを浴びてきたらしい朔は與儀のベッドにリラックスして寝転んでいたが、與儀の立てた物音に反応して身を起こし、その姿を見てわざとらしくヒュウと口笛をならした。
「なんですか朔サン、その反応」
「いやだって、お前もヤル気満々だなと思うと」
「もうっ変な言い方しないでください!」
「違ぇの?」
「………………」
ほぼ裸の與儀とは違って、きっちりシャツを着た朔が、甘やかすように両手を伸ばして與儀をベッドへ迎え入れる。與儀も素直にその腕に身を任せて片足をベッドへ乗り上げ、そうしてこれから自分を抱く男の首にきゅっと抱きついた。
「……違いません」
「上等」
いつもとは違う体温、香り、自分を呼ぶ声、肌を滑る唇の感覚。
それら全てに鼓動がどきどきと高鳴って、はやく自分のすべてを埋めてほしい、とまで思った。
****
「こーいうのは?」
ベッドの上で向かい合わせに座り、勃たせたモノ同士をぴたりとくっつける。亀頭をまとめて握りこんでいた手をゆっくり上下させると、たっぷりとかけたローションがくちくちと濡れた音をたてた。
「んっ……、して、ました」
「そか。じゃあここは」
「ぁっ! そ、こは……」
少し腰を離して、與儀の奥まったところへ指を滑らす。きゅっとしまった後孔をつつくと、與儀は大げさな程にびくんとからだを震えさせた。きれいな桃色をした乳首が、朔を誘うようにぴんと尖っている。
「慣れてねぇの?」
「……はい、たまにするくらいで……」
「なんだ、じゃあやっぱり準備手伝ってやればよかったな」
「も、もう朔サンっ!」
「はは、うそうそ。したことはあんだな」
「はい……、ンっ、」
「力抜いてな」
指を動かす度にぴくりと震えるしなやかなからだを腕に閉じ込めて、朔は先程與儀を貳號艇に連れ帰ってきた時のことを思い返す。
初めは、涙でどろどろになった顔を洗わせるためだけのつもりだったのだ。けれどありがとうございますと健気に笑顔を作る彼の涙の痕の残る頬に、勝手に口が言葉を紡いでいた。
このまま平門のことで落ち着かない夜を過ごすのと、自分と一緒に全部忘れるのとどっちがいいかを選ばせた。
我ながら、ひどい選択肢だと思う。あんなに泣かせておいて、さらに泣かせる気かと自分で自分を責めたくなる気分だった。けれどそれ以上に、もう與儀に触れたくて仕方なくなっていた。
たくさん触れて、たくさん慰めて、嫌なことは忘れさせてやりたい。自己満足だと言われるのは承知の上、それでもこれ以上平門のことで與儀が泣くのは嫌だったし、なによりもこのままの與儀をひとりにしておきたくなかった。こんなにも誰かの傍にいたいと思ったのは、初めてだった。
與儀を押し倒し、先程から気になっていた乳首にキスをする。ぺろりと舐め、それからちゅうと吸った。そのたびにびくびく跳ねる身体が愛しくもあり、すっかり調教されているようで悔しくもある。
「――っ、あ、あ……っ」
「息吸って、與儀」
そのまま後孔に、ゆっくり指を押し込める。とんでもなくきつい締め付けに、思わず息をのんだ。これは時間をかけないととても入りそうにない。
「ん……ッ、」
「ちから抜けるか?」
「わか、な……、っぅ、」
「痛くないようにするからな」
ふう、と息をつき逸る気持ちを無理やり落ち着けて、指をすこしずつ抜き差しする。本来挿れる器官ではないそこへ異物が入る違和感が拭えないのだろう、與儀は苦しそうに眉を寄せた。後孔だけでなく腹筋にもちからが入り、きれいに筋が浮かび上がる。しなやかに成長したからだに無性に興奮して、乳首から臍までを舌先で辿った。自分が男に欲情する性癖があるとは思わなかった。けれど現に性器は痛いくらいに張り詰めている。與儀のものも同じようで、透明の雫が先端に留まっている。ごくん、と生唾を飲み込んで、整った臍の窪みに舌を差し入れる。與儀がくすぐったそうに身を捩った。
「あ……、ふふ、擽ったいです、朔さん」
「んー? ここ好きかぁ?」
「わかんないです、くすぐったい、あはは」
「上手上手。そのまま笑ってな」
與儀が笑うと、なんだか嬉しい。指を締め付けていた直腸の締りもすこし緩んだので、朔はそのままゆっくりと後ろを解していった。空いていた右手で、また乳首をいじる。すると與儀は笑いながら朔の手に自分の手を重ね、そのまま指を絡ませてきた。甘えるようなその仕草に、ずくんと下腹が疼く。早く繋がりたい、そう思った。
「なぁ」
「はい?」
「こーやって、指絡ませるのもやってた?」
「いえ、平門サンとはほんとに、手とか口でヌくだけっていうか……」
「そーなんだ」
「……ほんとは、したかったんですけど」
だんだんと小さくなる声に、甘えたかった? と訊ねてみる。
少し間が空いて、與儀は返事の代わりにこくんと頷いた。
「なんとなくできなかったんです。今以上を求めるのは、だめな気がして」
目を瞑り、後ろを弄られながら、熱に浮かされたように與儀は言葉を紡ぐ。よく見ると、頬も胸もいつになく赤くなっていて、もしかしたら予想以上に酒に酔っているのかもしれないな、と思った。
「んじゃさ、俺にその分甘えてよ。平門に比べたら会える回数は少ねぇかもしれねぇけど……その分は次にとっておいて」
「んっ!」
ぐぽり、と指を抜く。がちがちに堅くなった與儀のペニスがひくんと震え、先端に留まっていた雫が零れ落ちた。たっぷり慣らしたおかげで開いたままの縁を人差し指でなぞり、まるで当然のように、朔はそこへ自身のペニスを押し当てた。與儀に負けず溢れていた先走りを塗り込めるように上下に擦ると、ぬちぬちと濡れた音がする。
「次に……? 今日だけじゃ、なくて、……ァ、また、してくれるんですか?」
「してくれるって、お前なぁ……」
苦笑いを零しながら、ぐっと腰を進める。亀頭が與儀の中に入り、そのとろけるような熱さにぞくんと腰が疼いた。そのまま少しだけ腰をひいて、また入れて。回数を繰り返す度に、與儀の内壁の熱さを感じる部分が少しずつ多くなっていく。あと少し、となったところで我慢ができなくなって、勢いよく全てを押し込めた。ぱん、と肉がぶつかる音がして、與儀の首ががくんとのけぞる。
「ひゃ!、……ぅ、ん、あ」
「どれだけ我慢してきたんだよ」
「……だって、」
「じゃあ俺とちゃんと付き合うか?」
「え?」
「性欲処理とかじゃなくて、ちゃんとさ。お互い好きになって、してもらうとかしてあげるとかじゃなくて、お互いにしたいって思うようになるの」
「好き……」
朔にゆっくりと揺さぶられながら、與儀はアルコールと快感で回らない頭で言われた言葉を一生懸命に理解しようとする。
「多分いまよりずっと気持ちよくて、幸せになると思うぜ?」
朔は律動をそれまでのゆっくりしたものからだんだんと早めていった。シーツを握りしめる與儀の手をとり、指を絡める。彼がいままでしたくてもできなかったこと、我慢してきたこと、全部全部埋めてやりたい。もう寂しくて泣くようなことはさせたくない。そんな気持ちになっている自分に自分で少し驚く。
「ぅ、あ、っあ、んっ!」
「そーだな、とりあえず、これ終わるまでに考えといて」
あまり挿入をされたことはないと言っていた與儀の言葉通り、彼の反応はいちいち新鮮で、中も苦しいくらいに締め付けてくる。朔は男を抱くのは初めてだったから手探りだ。思わず射精してしまいたくなるのをぐっと堪え、與儀が先に達するのを待った。そのうちに、與儀が殊更いい反応をする場所を見つけ、そこをぐりぐりと抉ることを覚えた。與儀はあっさりと精液を吐き出し、はぁはぁと荒い息をつく。涙で滲んだ瞼がうっすらあいて、朔さん、と吐息まじりの甘い声で名を呼ばれた。それでぐっと体温が上がり、気付けば中に射精していた。
「……つーか、俺はもう好きだから、あとはお前が俺のこと好きになってくれたらいいんだけど」
ペニスを抜いてもいないのに寝入ってしまった與儀に覆いかぶさったまま、朔は金の髪を撫でる。思わずぽつりと零れた言葉に、與儀の瞼がぴくりと動いた。聴こえているのかいないのかわからないけれど、どちらでもよかった。
とりあえず明日の朝、今日のこと覚えててくれて、できれば付き合うってことも了承してくれたらいーなぁと思いながら、朔は目を瞑るのだった。
end
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