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俺のものになって

 眼下で乱れる金の髪に、時々思う事がある。

 この光景を目にするのは、本当に自分で良かったのか。彼は後悔していないだろうか。
 ――堅く瞑られた彼の瞼の裏に映っているのは、ちゃんと自分なのだろうか、と。



****

 瓦礫の散乱した地下室で泣いていた與儀を、朔と平門が見つけてからもうすぐ5年。
 貳號艇の平門に預けられた彼はすくすくと成長した。身長が伸び、声変わりを迎え、闘員になってからは体もしっかり鍛えているようで、体力ならば他の同年代のこどもたちより頭ひとつ抜きん出ているように見えた。泣きながら震えていたあの頃が、今ではもう遠い昔のことのようだ。

 與儀の成長は身体的なものだけに留まらなかった。思春期らしく彼も初恋を迎えたのだ。
 それが少し他人と違ったのは、相手が同性の保護者代わりだったということ。

 もちろん、與儀から直接そう聞いたわけではない。けれど平門と一緒にいる與儀の様子はとてもわかりやすくて、何も朔でなくても少し注意してみれば與儀の恋心はすぐに気付けた。
 二人と接する機会の多い燭やイヴァも、與儀の拙くも純粋な想いにきっと気付いていたことだろう。ただみんな大人だったから、それを口に出す者は居なかったが。

 朔だって、初めは雛鳥が親を慕うような與儀の恋心を可愛らしく思い見守っていたのだ。
 けれどいつからか、その視線の先にいる平門のことを羨ましいと思うようになった。與儀の純粋な視線を見る度、自分だって平門と一緒に與儀を見つけたのに、彼があんなに慕うのはなぜ自分ではないのだろうか、と。

 ちくりと胸に刺さった刺は、けして消えることはなかった。それどころか、與儀が平門の傍で笑っているのを見るとずきんと深く傷むようになった。
 心底幸せそうに笑う與儀と、その笑顔に応えて他の誰にも見せないやわらかな表情で金の髪を撫でる平門。與儀をあんな風にしあわせそうな表情にさせたことは、自分にはない。
 次に会う時はもしかしたら二人は付き合っているのかもしれない、貳號艇を後にする度そう思っていた。

 けれど、平門は與儀に一切手を出さなかった。
 それどころか、與儀を手ひどく振ったのだという。二人で出かけた出張先のホテルで、與儀を置いて一人で出かけたまま朝まで戻ってこなかったのだと。

 與儀は、平門にどうしようもなく惹かれながらもその気持ちを必死で隠そうとしていた。男同士である以上、絶対にバレてはいけないと泣いていたようだと燭が零していた。そうしないと、もう貳號艇に居られなくなってしまうとまで思い詰めて、ちゃんと眠ることすらも出来なくなっていたようだ。
 相談相手の燭のフォローもありどうにか気持ちの整理をつけていたのに、この平門の行動で與儀はとうとう心のバランスを崩してしまった。


 銀色に染まった與儀に初めて出会ったのは、この数日後だ。
 彼は『平門の為に自分ができること』を必死で探して、戦うことしかできないと結論づけてしまった。加減も自分の体力も忘れて能力を使い過ぎ、倒れた彼を生かす為に銀與儀の自我が目覚めたのだ。

 幸い、燭の適切な処置で大事には至らなかったものの、與儀はひどく憔悴していてしばらく研案塔に預けられることとなった。
 平門が與儀の想いに気付きながらも、それに応えなかったのはきっと彼なりに考え抜いた結果なのだろう。頭のいい彼は與儀の将来を考えて、一番いい方向に向かうようにと身を引いたのだろう。解っていたけれど、でももう任せておけないと思った。


 ようやく仕事の都合をつけて訪れた與儀の病室はしんとしていて、彼の静かな泣き声が廊下にまで響いていた。朔はひとつ深呼吸をして、入るぞと声を掛ける。思ってもみなかった物音に、一時はぴたりと泣くのをやめた與儀だったが、相手が平門でなく朔だとわかるとほっとしたようにまたひとつ涙を零した。ベッドの隣の椅子に腰掛け、與儀の金の髪を撫でてやる。

 平門のことが好きすぎて、平門の傍にいることがつらい。
 泣きながら小さな声でそう零す與儀を、朔は、ならば自分の所へ来るといいと誑かした。
 平門への気持ちが落ち着くまで壱號艇にいればいい、眠れないまま任務へ出て怪我なんてすることない、俺だってお前の事が心配だよ。
 そうこどもに言い含めるようにゆっくりと言い聞かせ、弱っている與儀の思考力を奪った。

 二、三日の猶予の後、戸惑いながらも頷いた與儀の気が変わらないうちに、彼を壱號艇で預かる許可をもぎ取った。燭はすんなりと認めたし、平門も、……平門は、與儀が決めたことならばと言葉少なに返すだけだったが、朔は了承の言葉と受け取った。
 與儀の回復を待って壱號艇へと連れ帰り、その日のうちに唇を奪った。目を瞑ることも忘れて焦るばかりの與儀の純粋さが、どうしようもなく愛しくなったことを覚えている。
 壱號艇長室のベッドの上で、何も知らなかった與儀のからだを自分のものにするまで、そう日にちはかからなかった。



****

 一ヶ月後、與儀が貳號艇に戻るまで朔は毎晩のように與儀を抱いて眠った。挿入自体はあったりなかったり半々だったけれど、必ずぎゅうっと抱きしめてキスをして、それからおやすみの挨拶をして目を閉じた。
 初めは戸惑っていた與儀も、そのうちに自分から朔の背に腕をまわすようになった。はじめてそうされた時にはさすがに我慢できず、朔は盛った獣のようにがっついてしまい翌日與儀が起き上がれなくなった。

 関係はその後も続き、仕事が忙しくて会えないことも多いけれどその分会えた時にはどちらからともなく求め合う。自分からだけではない。ちゃんと與儀も朔を求めてくれる。好きだと伝えると、俺もですと笑ってくれる。平門に見せていた笑顔とは違う、少し恥ずかしそうな笑顔だけれどそれで十分だった。

 ――だから、間違っていたとは思わないのだ。思わない、のだけれど。

「與儀」

 やっぱり與儀が平門の元にいることが、気にならないというと嘘になる。
 與儀があれだけ好きだと泣いていた相手だ。セックスの時に與儀はいつもとろけるような顔を見せるから、きっと行為は好きなのだろう。そんな気持ちよさを与える相手が自分でなく泣くほど好きな平門だったら、與儀は今よりずっと幸せなのではないだろうか。
 與儀はいつも堅く目を瞑って揺さぶられているけれど、その瞼の裏にいるのはちゃんと自分なのだろうか。――もしかして、目を瞑って平門に抱かれる想像をしているのではないだろうか。

 確かめたいけれど、恋人を失ってしまうような気がして、結局いつも言葉にはできない。

「朔サン……? どうか、しました?」

 與儀が目を開け、繋がったまま動きを止めている朔を不思議そうに見上げてくる。
 今日は久々に会えた日なのだ。與儀は朔のノックの音を聞いてぱたぱたとドアまで迎えに来て、その勢いでぎゅっと抱きついてきた。あの時見せた嬉しそうな瞳に嘘があるなんて信じたくないし、考えたくもない。

「――いや、何でも。気持ちいー?」
「ハ、イ……んっ」

 体だって、久々に繋げる時特有のキツさがあって慣らすのにたっぷり時間がかかった。大丈夫だ。
 過去がどうであれ今與儀が好きなのは自分で、こういうことをするのも自分だけ。今組み敷いているのは間違いなく自分のものなのだと自分自身に言い聞かせるように、朔はぐっと体勢を前傾させて赤いくちびるへとキスをした。

「ん、ん……ッ、ぁ、あっ」

 ちゅっと音をさせるだけの可愛らしいキスのすぐ後に、今度は噛み付くようなキスをする。與儀の瞼を彩る長い睫毛がしっとりと濡れ、息継ぎが思うように出来なくなるまで角度を変えて幾度も幾度も繰り返した。
 去り際にぺろりとくちびるを舐め、細腰を掴んで引き寄せ繋がりを深くする。しつこいくらいのキスで足りなくなった酸素を取り込むように必死で呼吸をしていた與儀は、急に奥までを貫かれてびくんと身体を震わせた。
 驚いたように見開かれた瞳に、自分の髪色である赤が映っているのが見えた。

「……ッ、與儀」
「え、ぁ、ぁアっ!」

 それを見た瞬間、ぞくんと腰が疼いて一気に体温が上がったような気がした。抜ける寸前まで腰を引き、衝動のまま一気に根元まで突き入れる。

「ぁ、やっ、ッ、んっぁ、ぁあっ」

 ぱんぱんと肉のぶつかる音に共鳴するように與儀の口から嬌声が零れ、きゅうっと締まる内側に熱い息が漏れる。
 自分だけ気持ちよくなるのは意味がないから、そのまま何も考えず抜き差ししたいのをぐっとこらえて入り口近くの腹部側、與儀が好きな箇所を抉るように腰を動かす。そうすれば、いくらもしないうちに與儀は涙混じりの声で朔の名を呼んだ。

 もうむり、朔サン、イかせてください。

 言葉にすればたったこれだけのセリフを、與儀は喘ぎながらたっぷり時間をかけて伝えてくる。

「いいけど、お前イったら俺も我慢できねぇかも」
「ん、いいですから……っ、も……」
「でもまだ終わりたくねぇし」

 とろけきった紫の瞳から溢れた涙の痕と口の端から零れた涎で顔はぐちゃぐちゃ、でもそんな姿すらも堪らなく愛しい。こんなの、一度の射精で終われるはずがないのだ。

「終わらなくて、いい、からっ、あ! あっ、んぁっ」
「マジ? じゃあ、ちょっと休憩してから後でもっかいな」

 幾分速度をゆるめて腰を動かしながら要望をそのまま口にすると、與儀は聞こえているのか聞こえていないのか、顔をまっかにして泣きながらこくこくと頷いた。

「お願いイかせて、朔サンっ、おねがいぃ……」

 朔サン、と與儀がとろけた甘い声で自分の名を呼ぶ。ただそれだけで、腰の辺りが疼いていた感覚が一層強くなって、あ、出る。と思った。ゴムを付けずに行為を始めたことを思い出し、何処に出そうかと一瞬考えたのは朔の精一杯の良心だ。しかしペニスに絡みついてくる與儀の内側がひどく気持ち良くて、抜くなんて選択肢は一瞬で消え去ってしまった。

 朔の意思を無視するかのように、先走った少量の精液が、どくんと與儀の中に出ていく。そうするともう我慢などできる訳も時間もなくて、朔はがっしり掴んだ與儀の腰に自分の腰を思い切り打ち付けた。

「あっあっ、あぅ、やぁ、――っ、ひ……」
「っく、……う」

 どくんどくんと何度かに分けてしゃくりあげるペニスに反応して、與儀のからだが跳ねるように痙攣する。精液を注ぎ込んだ薄っぺらい腹をさすってやっていると與儀が仔犬のように甘えた声を漏らした。可愛くて可愛くて、金の髪でぎりぎり隠れる首筋にキスの痕をつけた。
 そんなことをしているうちに、一度は力を失くしたペニスがまた芯を持ち始めていくのがわかる。ゆるゆると腰を動かすと、自分が中に出した精液がこぷりと溢れたのだろう、與儀が顔を赤く染め結合部に手を伸ばした。まるでそれを合図にするように、朔は二度目のセックスを開始した。休憩なんて、ほんの十数秒だった。

「え……っ、あ、朔さ、まって、休憩は?」
「ん、今したろ?」
「早いですっ」
「そうか? でももう俺待てねぇ、なぁ與儀、いい?」
「待って、あッ、」

 予想通りの與儀の抗議をキスで受け流して、そのまま行為を続ける。
 あーやべえ俺サカった動物みてえ、なんて思いながらもまぁ実際そんなもんだなと朔はそっと笑いを零した。
 これは自分の所有物だというかのように、押し倒して押さえつけて、匂い付けみたいなセックスをする。本当に動物にでもなった気分だ。

 けれどこれでいいのだ。こうして何度も何度もからだを重ねれば、與儀はもう自分のことしか考えられなくなるだろう。ベッドの上で乱れるこの金の髪を見るのは、自分だけでいい。





end

改定履歴*
20140718 新規作成



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