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HappyBirthdaySurprise!

「アンタでも、人並に驚いたりするんだな」

 背中越しに掛けられた声に、ペンを握っていた平門の指がぴくりと揺れる。
 艇長室の書架で本を物色している花礫がたてる、ぱらぱらとページを捲る音が静かな部屋に響いた。

「……何のことだ?」
「さっきの話」

 動揺を指先だけにおさめた平門は、後ろを振り返ることもせずにそう返した。花礫はそんな平門の背中にちらりと目をやって、そしてまた話を続ける。

「さっき、俺を見て驚いたアンタの顔、面白かった。いつも涼しい顔してんのが嘘みてぇ」
「随分な言われようだな」
「なぁ、」

 誰が来んの? と、確信を持って問いかけられる。

「驚いてなんかないよ」
「そーなの?」
「強いて言えば、こんな夜中にコドモがまだ起きていたことに少しだけ驚いた……くらいかな」
「やっぱびっくりしてんじゃん」

 ふっと、花礫が小さく笑い声混じりの吐息を漏らす音が聴こえた。そーいうことにしといてやるよ、と言う声は、なんだか楽しそうだ。
 一回りも大人で、精神的にも身体的にもはるか高みにいる平門が、いつもは絶対に見せない素の部分。それを垣間見たことで、彼の中では一瞬だけでも対等になれた気分なのかもしれない。
些かこどもっぽい反応ではあるが歳相応だといわれればそのとおりで、平門はどう反応していいものか迷って、結局苦笑いを零すのみに留まった。
 顔を合わせているわけではないが、その空気感でなんとなく満足したのだろう。花礫は気に入った本を片手に、続けて次の本を物色しだした。まるでこれ以上の追求をしてもはぐらかされるだけだということを解りきっているようなその態度に、本当に聡い子供だといっそ感心すらしてしまう。
 平門もまた書類に向かい、ペンを走らせた。けれどどうも捗らない。先程からずっとそうだ。気が焦るばかりなので、何も今日片付けなくてもいい仕事だということを自分に言い聞かせ、そっとペンを置いてひとつため息をついた。

 先程は誤魔化したが、花礫の訪問に少なからず驚いてしまったのは本当だった。そのこと自体も、それを言い当てられたことも、なんだか少し動揺してしまう。学生の頃からずっと優等生として過ごし、他人に隙を見せない彼らしい動揺だった。
 花礫がこの部屋に来て数冊本を借りていくのは、もういつものことだ。だから驚かずともよかったのだ。いつもどおり、ノックに入れと返事をして、好きに本を選ばせればよかっただけ。

 ただ今日は、色々なことが重なってしまった。
 貳號艇長である平門の元には、日々たくさんの人物が訪れる。だからいつもは在室中施錠はしない。鍵を掛けるのはバスルームに居る時と、就寝時だけだ。なのに先程花礫が艇長室のドアをノックしたのは、偶然にもその僅かな時間だった。

 入浴を終え、湯を張りなおして、執務机に戻るついでに鍵を開ける為ドアに向かっていた平門の耳にノックの音が聞こえた。
 平門は、ドアの向こうに居るのは與儀だと思ったのだ。ドアまでの数歩を歩き鍵に手を掛けるまでの間に平門の脳裏に浮かんだのは、任務を終え夜の空を飛んで戻ってきた恋人が自分の顔を見て嬉しそうに笑う笑顔だけだった。
 おかえりと迎え入れそうになって――そこにいたのが與儀ではなかったから、一瞬思考が止まってしまった。
 よく考えればそこにいるのが與儀である確証なんてないのに、どうしてここまで思い込んでしまったのかというと、

「……浮かれているのかもしれないな」
「あ?」
「何でもない」

 零れた言葉に反応した花礫の興味を、いつもの余裕でさらりと流す。時計に目をやると、その針は深夜12時を少し過ぎたあたりを指していた。どちらが早いだろうか、と考え始めたところで、その耳に聞き慣れた足音が届く。もう皆寝静まった深夜だというのに元気よくぱたぱたと響くその足音が艇長室まで届くのにもう、あと数秒。花礫はまだ、本を選びきれそうにはない。

「――ただいまですっ! 平門サンっ!」

 平門があることを諦めたのと、ばん、とノックもなにもなくドアが開けられたのは同時だった。足音の主である與儀はその勢いのまま部屋に入ってきて、脇目もふらず一直線に平門の元へと歩み寄る。そうして、後ろ手に隠していた花束を平門へと差し出した。

「誕生日っ! おめでとうございます、平門サン」

 両手に抱えきれない程の瑞々しい真っ赤な薔薇の花。急いで走ったせいなのか、とれてしまった数枚の花びらが舞って、そのうちの一枚が金の髪にひらりと舞い降りた。満開の薔薇に負けずきらめく與儀の笑顔に、平門も思わず目を細める。

「ありがとう、嬉しいよ」

 髪を撫でるついでに花びらを取り、ついでに任務でついたのであろう顔の汚れをやさしく拭ってやる。

「遅くなってすみません、任務なかなか終わんなくて……すっごい急いで飛んだんですけど、遅れちゃってっ」
「いや、お前ひとりに負担を掛けてしまったな。つい頼ってしまって悪かった。助かったよ」
「いえ、そんな……平門サンの役に立てるの嬉しいです」

 照れくさそうに笑う與儀が可愛くて愛しくて、平門は手をさわり心地のいい頬から離すことができなかった。夜の空を飛んだせいで冷えた頬を温めるように、そおっと撫でる。彼は猫のように大きな手にその頬をすり寄せた。

「あの、今年も俺、一番に祝えました!?」
「もちろん」
「よかった!!」

 毎年誰よりも早くおめでとうの言葉をくれる彼の頬に、いつもありがとう、の言葉と一緒にキスをしてしまったのは無意識だった。目を瞑ってそれを受け入れた與儀の、少しずつ温まっていた頬に、ぱぁっと赤みがさす。ゆっくり開いた瞼の奥、紫の大きな瞳が離れていく平門のくちびるを追った。目と目が合って、その距離が縮まっていく。
 ああ、まずいな、止まらないかもしれない。




「――あのさ、」

 與儀が平門の部屋を訪れてからほんの数分で、あっという間に部屋中を満たした甘い空気。どんどん濃度を上げていくそれにストップをかけたのは、先程からこの部屋にいるもうひとりの少年の、よく通るきれいな声だった。

「コレ、借りてくから」

 與儀の唇に触れるまであと一センチというところで水をさされた平門は、ふうとため息をついて書架の方から聞こえてきた足音の方へ視線を向ける。本を選び終えたらしい花礫は、平門へ本のタイトルが見えるようにちらりと掲げて無言の了承を得ると、そのまま出口へと足を向けた。
 一方與儀はと言うと、かわいそうに、固まったまま後ろを振り向けずにいる。

「――予想は、当っていたか?」
「まーね。予想通りすぎてつまんねぇくらい」

 余裕をもった平門の問いかけに余裕たっぷりの返答をして、花礫はぱたんとドアを締めて帰っていった。本当に、まだ15の子供だとは思えないくらいの落ち着きようだ。

「ひ、ひ、ひ、平門サンッ、今の……っ」
「うん、さすがにばれたみたいだな」
「バレたにきまってるでしょ! っていうか花礫くんがいるの知ってたなら教えてくださいよ〜!!」
「言う間もないくらいにお前が全力で来たんだろう」
「そうかもしれないですけど!」

 平門も動揺していないわけではなかった。
 けれど、うわぁどうしよう俺明日花礫くんの顔見れない、とか、俺なんか変なこと言ってませんでした? とか、花礫より6つも年上だとは思えないくらいの取り乱しっぷりで騒ぐ與儀を見ていると、なんだか逆に落ち着いてくる。
 しばらくその様子を楽しみ、ちらりと時計に目をやると、もう12時半。
 明日も仕事だからそろそろ本題に入るか、とばかりに與儀の手を引き、その体を腕に閉じ込めて唇を奪った。勿論、平門が與儀の笑顔と同じくらいに欲しかった、大人の誕生日プレゼントを貰う為に。





end

改定履歴*
20141110 新規作成



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