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いちばん近くに -2-

「――コレ、さ」

 あの日、與儀がカラスナで見つけたこの腕輪。夜店の軒下に掛かっている白熱灯の柔らかい灯りに照らされたこの紫色が、ほんの少しだけ、與儀の目の色に似ていると思った。
 輪のくせに下手くそな射撃の腕前にひとつため息をついて、その手からオモチャの銃をとり撃ち落としてやると、與儀はただでさえ綺麗な目をよりキラキラと輝かせて喜んだことを覚えている。
 余程気に入ったのか、與儀はそれ以降どこに行くにもその腕輪をつけていて、それは任務の時でも変わらない。煙の館へ突入するような時だってつけていたし、もうそれこそ肌身離さずと言ってもいいくらいだ。
 現に今日だって、約束もなしに自分の部屋に訪れた俺を嬉しそうに出迎えた時だって、左手にはこの紫色があった。

「そんなに気に入ってんの?」
「え、うん! だってこれは大事な――、」
「へぇ」
「? 花礫くん、やっぱり怒ってる?」
「怒ってねぇよ。ただ、俺よりその腕輪のがお前のいちばん近くにいるんだなって、そう思ったらなんかおもしろくなかっただけ」
「へ、それって」

 自分では、声音を変えたつもりはなかった。けれどどうやら、ほんの少しだけ感情が篭ってしまっていたらしい。

「花礫くん、もしかして、嫉妬、してくれたの……?」
「はぁ!?」

 しまった、と思った時にはもう遅かった。
 與儀の顔からみるみるうちにそれまでの心配そうな表情は消えて、代わりに嬉しそうなものにかわってゆく。

「〜〜っ、かわい……、もーそういうの反則だってばー!」
「ばっ……、何がだよ!」
「だってだって、俺のいちばん近くに居たいって思ってくれたってことでしょ!? しかも嫉妬の相手がこの腕輪なんて……」
「うるっせぇ! 違うっつーの、そんな嫉妬なんてしてねぇ!」
「大丈夫、心配しなくても俺は全部全部花礫くんのものだよ」
「お前ひとの話聞いてっか!?」

 いくら否定の言葉を口にしても、こんな真っ赤になった顔じゃ何言っても無駄だって解ってんだ。そしてこうなった與儀は、満足するまで俺を離してくれなくなるってことも。

「……っぁ、ばか、挿れたままくっつくなって、んんっ、ちょ、待てって」
「ごめん、我慢できない……休憩おわり、動くね」
「え、あ、與儀……ひゃあぅっ!」

 しつこいくらいに慣らされる前戯の最中、與儀の長い指でも届かなかった奥の気持ちいいところを容赦なく抉られる。その予想していなかった強い快感に、自分の口から聞いたことないような高い声が出た。
 それが恥ずかしくて手の甲で口を塞ぐと、だぁめ、なんて甘ったるい声で窘められて手を取られる。

「なんだか花礫くん、いろんな所噛んで、今日は猫みたいだね」

 発情しきった與儀がふわりと笑うその笑顔があまりに艶っぽくて、ぞくんと背筋が震えた。うっすらついた歯型を慰めるように手の甲を舐められるだけでイきそうになる。なんだよ、ひとの手も指も舐めて、お前の方が猫みたいじゃねぇか。そう言いたいけれど言えない。下手に口を開いたら、きっとなし崩し的に喘いでしまう。そんなの恥ずかしすぎるだろ。

「ね、指じゃなくて、俺の肩噛んでて? いくらだって痕付けてくれていいよ」

 だって俺は全部花礫くんのものなんだから、と。甘ったるい声とキスが星屑のように降ってきて、その眩しい程のきらめきに目眩を覚える。
 本当にお前は、いう事やる事いちいちこっぱずかしいんだよ。まあ、それをまんざらでもなく受け入れてしまう俺も、大概色ボケしてるとは思うけど。

「あ、っぁ、はぁっ、んあっ」

 間を置かず与えられる律動に翻弄されてしまう寸前、與儀の首に腕を回してしがみついた。肩を噛んでいろ、なんて無理だ。きっと次は、血が出るまで歯を立ててしまう。力の加減なんてできなくなるくらいに気持ちよくなるってこと、こいつはきっと解ってないんだろうな。

「はぁっ、花礫くん……」
「よ、ぎ、與儀、ぁ、やだもう、待っ、て、ひぅ!」

 今だって、セックスが再開されてからいくらも経っていないというのに何度目かの射精に向けてどんどん追い詰められていく。與儀の好みにすっかり慣らされてしまっていた俺のからだは、休憩の間の緩慢とした腰の動きに思いのほか焦らされていたらしい。奥で疼いていたところを突かれると、その度に視界がちかちかする。與儀にしがみつく手にも足にもちからが篭って、これじゃあの綺麗な肌に傷をつけてしまうかもしれないと思っても力が抜けない。

「ね、ぐちゅぐちゅって音、きこえる? ローションつけすぎちゃったかな」
「!! はぁ!?」
「花礫くんの中、すごいあったかいから……溶けちゃったのかなぁ」
「知らね……つか、あんま恥ずかしーこと、言うなって、あ、っ、」
「ふふ、ごめん、ね、気持ちいー、ね?」

 ちゅ、と額にキスをされる感覚すら気持ちよくて、イってしまいそうで、俺は思わずぐっと腹に力を入れた。中で、與儀のものが一段と大きくなる。

「っア、花礫くんあんま締め付けないで……イっちゃいそうになる、から」
「いい、も、いいから、與儀、」
「ん? なぁに?」
「〜〜っ、」

 俺が言いたい事なんてひとつだって解ってるくせに、わざとわからないふりをして目を合わせられてかぁっと顔が赤くなった。こいつは俺に、イかせてほしい、って言わせたいのだ。今までに一度だって言えたことのないその言葉は、やっぱり今回も口にはできなかったから、俺はその代わりに思い切り肩に噛み付いた。

「痛ッ、っは、ぁ、〜〜っ!!」

 同時に俺の中で與儀が一際大きく膨張して、そのまま熱を注ぎ込まれるのがわかった。熱くて、気持ちよくて、胸がいっぱいに満たされる。そのしあわせな感覚に身を任せてまま射精するとろけるような快感に、うっかり意識を手放しそうになるのを堪えるので精一杯だった。



「が、花礫くん〜……痛いよ〜」
「いくらでも噛んでいいって言ったろ」
「言った! けど、不意打ち……」
「ふん」
「もういじめっこなんだから」
「どっちがだよ、俺もう限界、オヤスミ」
「へへ、あ、あのね花礫くん!」
「……何だよ」
「あの腕輪ね、大事にしてるのは花礫くんがくれたものだからだよ。でもこんな風に嫉妬してくれるなんて、俺ってすごいしあわせものだなぁって思って、それだけ伝えようと思って。おやすみ」

 熱が冷めないままのからだをくっつけて、息が触れるくらい近くで囁かれる言葉が、快感でうまく働かない頭に届いてすうっと溶けていく。
 與儀は自分の事を幸せ者だってそう言うけれど、それなら俺だって負けてないのかも。だってこの心底嬉しそうな笑顔も、苦しいくらいに抱きしめられて感じる暖かさも、與儀のことは俺が全部全部独り占めできるのだから。
 俺はそんなことを思って、思い切って自分から與儀にキスをした。






改定履歴*
20130630 新規作成
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