いちばん近くに -1-
耳元で俺の名を呼ぶ與儀の声が、脳に直接響く。
膝の裏に手を当てられて、抱えられて揺さぶられて。容赦なく与えられる快感の中、あまくゆらめく視界に與儀の首筋を伝う汗が映った。
「っ、與儀……」
近くて遠いそこへ、ぐっと手を伸ばしたつもりだった。だけど随分長い時間抱かれ続けているせいか思ったように力が入らなくて、俺の右手は愛しい金まで届かずだらしなく空を切る。シーツに落ちる寸前で大きな手に掬われてそのままするりと指を絡められると、繋がった部分から與儀の体温が伝わってくる。熱い。
「花礫くん?」
俺が何か言おうとしているのが伝わったのだろう。與儀はそれまでの息もつけないようなセックスを一旦休憩してくれることにしたようだ。
どうしたの、と殊更甘い声で俺の名前を呼び、律動がそれまでの力強いものから、少しゆったりとしたものに変わった。
「なぁ、……んっ、ぁ、」
「ん、なぁに?」
「……耳、貸して」
それでも気持ちいいことには変わりなくて、むしろゆっくり動かされる分自分の中にある與儀の性器の形がリアルに感じられてたまらない。そんな中絞り出した声は途切れ途切れで聞き取りづらいだろうに、與儀はそんな俺の声にもちゃんと耳を傾けて、笑顔で望みを聞いてくれた。耳を寄せるためにぐっと前傾する與儀の屹立に奥の気持ちイイところを抉られて、腰がびくつく。
「んあ、――お前、ちょっとじっとしてろ」
「? はぁい」
はぁ、とひとつ息をついて、今度こそ與儀の首に腕を回して抱きつく。ふわりと頬に掛かる、柔らかくて擽ったい金の髪。愛しいその感触に鼻先をつっこみ、埋もれている耳たぶを探す。程なくして見つかった熱いそれを、唇で食むように捕まえた。
「が、花礫くん?」
慌てた声を出す癖に俺を振り払うどころか体勢を変えようともしない與儀から、オトナの余裕みたいなものを感じて少しだけむっとする。
こいつ、なんで耳平気なんだよ。俺は舐められるどころか触られるだけでぞくぞく腰が疼いて、どうかすると声まで出るのに。
「お前ってホントずるい」
「えぇ? 何のこと……」
「動くな、って」
「っ、はい!」
あまりにこの場に似つかわしくない與儀の返事に、笑い声代わりの頬へのキスをひとつ。そのまま、與儀の耳たぶから首筋をつうっと舌でなぞる。舌先にさっきの汗が触れたのか、すこしだけしょっぱかった。
首筋にそっと歯を立てると、気のせいだろうか、俺の中にある與儀の性器がぴくんと動いた。つられて思わず吐息が漏れる。
「ン、はぁ、」
「花礫く……、ッア!」
俺の名前を呼ぶ與儀の喉仏に誘われるように、そこに唇を寄せた。そうして、いつも自分がされているときの力加減を思い出しながらちゅうっと吸い付く。たっぷり数秒の後に唇を離せば、そこには見事な赤い痕がついていた。
與儀とこうするようになってから初めてつけた、自分の証。いつもつけられるばかりだったこれを、今日は俺が與儀に付けられたことがなんだか嬉しい。
「あは、擽ったいよ花礫くん」
「もーちょっと、じっとしてろよ」
「うん」
くすくす笑う與儀の事を可愛いだなんて思ってしまった事を隠すように、今度は與儀の肩へとキスをする。いつも俺の事を悠々と抱き上げる、しっかりした大人のオトコの肩だ。
ちょっと吸ってみてもここには痕はつかなかったから、俺はちょっとだけ考えて、そうだとばかりに思い切って歯を立てた。
「痛ッ! 痛い花礫くん痛いって、ちょ、〜〜ッ!」
さっきまで笑ってた與儀の涙声を無視して、ちゃんと痕がつくようにとしっかり噛み付く。もういいかな、と思うまで5秒くらい掛かっただろうか。最後にちょっとだけ謝罪の意味を込めて、そこをぺろりと舐めて解放してやると、與儀は目いっぱいに涙を浮かべて、俺の事を見ていた。それに少しだけ溜飲が下がる。
「ひ、ひどいよ花礫くーん! 何なに、どうしたの」
「あ、ちゃんとついた」
「そりゃあれだけ噛めばね!? あー、歯型くっきり……」
「暫く消えねぇな、コレ」
喉元と肩、與儀の白くなめらかな肌に残る俺の痕。それをひとさし指でつうっとなぞると、擽ったいのか與儀が身を捩った。同時に俺の中に入ったままの與儀の性器がまたひくんと動く。痛い痛いと騒ぎながらもなお萎えることのないソレに、きっとほんとは、そんなに痛くないんだろうなとわかってしまう。こいつは唐突に与えられたほんのちょっとの痛みを理由に、俺に甘えたいだけなのだ。
「なんだよ、俺の痕がつくの嫌?」
「ちっ、違うよ!? 嬉しいよ、ただ、花礫くんがこんなのするの初めてでショ? だからさ、何か気になっちゃって」
「何か、って?」
「俺何かしたかなって。……えっと、気持ちよくない、とか、何か気に入らないとか」
「そういう、訳じゃないけど」
俺の心を見透かしたような與儀の言葉に、一瞬ドキリとした。
そうなのだ、今日眠れなくてこいつの部屋に来た時から、ちくりと胸にささったままの小さな刺。自分でもよくわからないけれど、それがずっと気になって心からセックスを楽しめずにいる。気持ちいいのに、その気持ちよさに身を委ねきることができない。
言葉に迷って、與儀の肩に置いたままだった右手を、そのまま與儀の左手首まで滑らせた。そこには当然のように、淡紫の腕輪が巻きついている。
改定履歴*
20130630 新規作成
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