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だって溜まっていたんです -2-

「あー…、どうしよ、コレ」

 ずくん、と疼いた下半身に目をやると、予想通り、立派に勃ち上がりパジャマ越しにでもしっかり存在を主張している自分の性器が目に入った。そりゃあんなこと考えてたらこうなるよね、でも風呂上がったばっかりなのになあ、がしがしと頭をかきながらそんなことを思って、でも性欲には勝てずに與儀はベッドに座り自分の性器を掴んで外に出す。固くなったそれを二、三度上下に扱くと、あの日以来の気持ちよさが與儀を包んだ。

「花礫、くん」

 ぽろりと零れた、恋人の名前。自分の声なのに、名前を呼んだだけなのに、それではっきりと彼の顔と体温が思い出される。ぎゅっと目を瞑って、今自分の性器を包んでくれているのは花礫の手なのだと想像すると、ぞくんと背筋が震えて先端から雫が溢れた。
 ――花礫くん、上手だね。そのまま、もっと擦って?
 気持ちよさに抗えず、妄想はどんどんと進む。頭の中の花礫は顔をまっかにさせながらも與儀の言葉に小さく頷き、手の速度を早めてくれた。時折與儀の反応を伺うように自分を見上げる瞳とばちんと目が合うと、彼は慌てて視線を逸らしてしまう。その初々しさに、喉の奥から熱い息が漏れた。
 こんなこと想像しちゃダメだって、そう思えば思う程に背徳感が増してやめられなくなる。だんだんと速度を増す右手を、もう止められない。

『ニャンペローナ! ニャンペローナ!』
「わっ!!」
『ニャンペローナ! ニャンペローナ!』
「え、え……、花礫くん!?」

 もうあと一息でイける、その時に鳴り響いた着信音。やめておけばいいのに、液晶に表示される名前を見た與儀は反射的に通話ボタンをおしてしまった。

「――っ、花……」
『與儀?』
「はいっ!」
『? もしかしてなんか緊急の任務とかだった?』
「え、ううん? ベッドにいたよ」
『そうなんだ。なんか息切れてっから、外にいたのかと思った』
「え!」

 ちなみに與儀は今日、自らの嘘が付けない性格を今まで生きてきた中で最高に呪うこととなる。何しろ、声は裏返るし適当に誤魔化すこともできないしで、結局今自分が何をしていたか、バカ正直に花礫に報告してしまうことになったのだから。

『…………へぇ』
「うう……何か言ってよ花礫くん! 俺が悪かったから、無言やめて!」
『いや、お前でもそんなんするんだって思って』
「ごめんなさい」
『しかもオカズ俺とか』
「う、本当に、ごめんね……?」

 嫌われたらどうしよう、そう思うと、怖くて心が凍りつきそうになる。さっきまであんなにがちがちになっていたものだって、今はもうすっかりしょぼんと萎えてしまっていた。
 あんなに好きで好きで、やっと手に入れたどうしようもないくらいに愛しい恋人。自分の一時の欲に負けて失ってしまったら、泣いても泣ききれない。

「花礫く……、ごめん、もう嫌いになった?」
『馬鹿』
「え?」
『なるかよバーカ。そんくらい普通だろ。つうか俺もヤってるし』
「えっ!? 何それ見たい……っ!」
『冗談に決まってんだろ』

 だから泣くなって、そう宥めるように紡がれる電話越しの優しい声に、余計に泣けてしまう。ぐす、と鼻をならす與儀が落ち着くのを待って、花礫は先程までよりいくらか小さな声で、悪い、と呟いた。

「? どうして花礫くんが謝るの?」
『いや、だって……こないだ寸止めになったの、俺のせいだし』
「寸止め、って」
『あんな、あそこまでやっといて最後までしなかったから、今お前そんなんなってんだろ』

 どうやら花礫は、自分のせいであの日最後までできなかったのだと引け目に感じていたらしい。確かにあの日、一緒に射精した後我慢できずにそっと後ろへ触れてしまった。けれど次の瞬間びくんと体を跳ねさせてそのまま硬直した花礫の反応に、とてもそれ以上は進むことなんてできず、そのまま抱きしめて眠ったのだ。
 セックスはできなかったけれど、それを花礫のせいだなんて思っていない。むしろ性急すぎた自分の行動を反省していたところだったのに。

「違うよ! いや違わないけど、でも花礫くんのせいじゃなくって……俺、花礫くんのこと大好きなのに急ぎすぎたよね! がっついてごめん!! もうしないから……っ」
『……したくないってこと?』
「わぁ違う! 今のは、したいけど、体だけが欲しいんじゃないんだよってわかってほしくて……花礫くんが大好きだからセックスしたいけど、でも今すぐじゃなくっていつかできたらいいなって、そう、思って」
『……』
「が、花礫くん?」

 焦ってまくしたてる與儀がはっと我にかえると、花礫からの返事がない。ああもうだめかも、本当に嫌われてしまったかも、そう思ってまたじわりと涙が滲む。

「花礫くん〜……」
『ぷは、おまえ、焦りすぎ』
「へ?」
『腹いてえって……はははっ』

 そんな與儀の耳に聞こえてきたのは、花礫のたのしそうな笑い声だった。出会ったばかりの彼が見せていた不敵なものではない、自然に漏れてしまうような、楽しそうで嬉しそうなその笑い声につられて、與儀の顔に笑顔が灯る。
 よかった、嫌われてはなかったんだ。

『あのさ、與儀、お前が俺としたいのはすごいわかった』
「あ……ごめん俺つい、」
『うん、いーんだよ、俺もしたいし』
「え!? ほんと!?」
『そりゃ俺だって男だし?』
「わー……そっかぁ……」
『そっかぁって何だよ。もう笑わせんなって』
「ごめん〜……へへ」
『――あ、悪い與儀、同室のやつ帰ってきたっぽい』
「あ! うん。じゃあ……おやすみ、また明日ね」
『ん、またな』

 電話越しに聴こえる、心なしかいつもよりやわらかい花礫の声。そういえば花礫くん何の用だったんだろう、そんなことをちらりと思ったけれど、もうそれを聞く時間はない。

「――大好きだよ! 花礫くん!!」

 だから、一番伝えたいことを言葉にした。花礫はルームメイトが帰ってきたと少し焦っていたようだから、聞こえていたかは分からない。もちろん答えも貰えなかったけれど、それでも與儀の心は風呂上りの体に負けないくらいにほかほかとあったかくなっていた。




『今日は電話ありがとう。すごく嬉しかったよ〜! 最後に好きって言った時にね、そういえば花礫くんにまだ好きって言ってもらってなかったなって気付いたよ。気長に待ってるから、花礫くんが好きって言ってくれたら、しようね!』

 そんな、浮かれた気分のまま與儀が送ったメール。あまりに恥ずかしい内容のそれに対する返信が翌朝になっても昼になっても一向に届かず、今度は本当に泣くことになったのは、また別のお話。






改定履歴*
20130615 新規作成
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