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だって溜まっていたんです -1-

『ニャンペローナ! ニャンペローナ!』

 浴室のドアを隔てた向こう側から、聴きなれたメロディとニャンペローナの声が聴こえる。ちょうど入浴を終え最後にシャワーを浴びていた與儀は、どうかすると水音にかき消されてしまいそうな微かなそれにぴくんと反応し、慌ててドアを開けた。真っ白でふわふわのタオルで手を拭うと、濡れたからだはそのままに携帯をそっと手にとり画面を開く。
 與儀の心境を表すかのように、ぱぁっと画面が輝いた。

『風呂は今入った。今日のメシはハンバーグ。うまかった』

 届いていたのは、予想通り、一時間程前に自分が送ったメールへの返信だった。第三者から見れば素っ気ない文字列だけれど、それでも與儀は心底嬉しそうにふにゃりと目を細める。それはそうだ、メールの相手は、一時はもう二度と会えなくなる、連絡も取れなくなるかもしれないと覚悟した想い人なのだから。
 尤も、二度と会えなくなるかもしれないというのは與儀の勘違いで(平門のちょっとしたいたずらだった)、今はただ彼が正式に貳號艇の一員となれるように専門の学校に通うため一時的に離れ離れになっているだけ。連絡だって、平門が手配した携帯でいつでも好きな時に取れるようになった。

「何て返そうかなぁ、んー……。『俺も、今お風呂上がった、ばっかりだよ』……っと」

 離れていると伝えたいことも知りたいことも多くて、ついつい長くなってしまうメール。けれどあまり長くなると、慣れない学生生活で疲れているであろう彼の負担になってしまうから。あまり長くならないように、そしてできれば、また返事をくれるように。片手でがしがしと髪と体から水滴を拭い、お気に入りのニャンペローナパンツとニャンペローナパジャマの下だけを手早く身に付けながら、少しの不安と期待が入り混じる気持ちで慎重に文面を考える。こんな些細な時間が、今の與儀にとってとても大切なひと時だった。

「『ツクモちゃんがくれた入浴剤を使ったから、今体がすごくぽかぽかだよ。今日はちょっと寒いよね。花礫くん、風邪ひかないようにね!』 ……うん。よし、送信っ!」

 送信ボタンを押せば、ちいさな液晶の中、想いをぎゅっと詰め込んだメールがきらきらの星屑を連れて飛んでいく。できることなら自分だって花礫の元に飛んでいきたい、なんて馬鹿げたことを思いながら、與儀は携帯を畳んでそっと枕元に置き、そのままころんとベッドに転がった。

「……読んで、くれたかなぁ」

 まだメールを送ったばかりだし、そもそも絶対に返してくれるなんて確証なんてないけれど、携帯から目が離せない。もしかしたら、という淡い期待を捨てられないのだ。手のひらにすっぽりと収まるくらいの小さな筐体にこんなにも夢中になる日がくるなんて、ほんの少し前には思いもしなかった。
 うつぶせに寝転がったまま、手を伸ばして携帯を手にとる。画面を開いても、当然ながら新着メールはない。そのまま閉じて、また開いて。ぱちん、ぱちんと音が鳴る。

「いやいや! 俺待ちすぎ、花礫くんだってそんな暇じゃないって!」

 何度目かで自分の行動にはっとした與儀は、思わず自分で自分につっこんだ。鍵を掛けた自室の中なのだから誰に見られている訳でもないけれど、なんだか恥ずかしくなって勢いよく身を起こす。肩に掛けたままだったタオルが濡れているのに気付いて、そういえばまだ髪も乾かしてなかったと思い出した。ドライヤーをかけようとベッドを降りバスルームに向かって一歩踏み出して――、またニャンペローナの声に引き止められ、ベッドに逆戻りする。

『へえ。なんかいー匂いしそう。つうか、いいよなお前の部屋、ひとりでゆっくりできて、なんかお前が長風呂なのわかる気がする』

 花礫からのメールにしてはめずらしく、今は知らないやつと二人部屋だから案外気を遣うとか、少し長さがある。その一文字一文字が彼からの贈り物のようで、早く全部読みたいような、全部読んでしまうのが、勿体無いような。
 ああ可愛いなぁ、今日は時間あるのかな? でも『いい匂い』がするのは、俺じゃなくて花礫くんだよ。あ、そういう意味じゃないかな、入浴剤のことかな。でも花礫くんってほんとなんかいい匂いするんだよね、抱き締める時にいつも思ってた。シャンプーの匂いかな、うん、そうかもしれない。夜お風呂の後に話す時が、いちばんわかりやすい気がするし。花礫くんが艇を降りる前日、俺に会いに来てくれた時だって――…

「〜〜っ、」

 そこまで思い出して、與儀は思わず片手で口を覆った。顔が、かぁっと熱くなったのが解ったからだ。
 あの夜、花礫がクロノメイに行くため艇を降りる前の晩。
 その事を直接伝えに来てくれた花礫に、與儀は自分の想いを伝えた。『花礫くんの事が好きだよ』と、短い言葉にありったけの想いを込めると、花礫は少し戸惑いながらも受け入れてくれた。

 初めてのキスは、唇と唇が触れるだけの本当に幼いものだった。触れた瞬間に湧き上がったあまりの愛しさに心臓がきゅうっと悲鳴をあげたことを、まるで昨日のことのように思い出すことができる。思わずその細いからだを抱き寄せ、二度、三度と繰り返しキスを重ねた。
 どんどん深くなってゆくそれを、拙いながらも一生懸命に受け入れてくれる彼のことがとても愛しくて――キスだけだと決めていた筈なのに我慢できず、彼自身に触れ、自分のものと擦り合わせて扱いて、一緒に欲を吐き出したのだ。

 射精の瞬間、花礫が見せた表情を思い出す。とても6つも年下の少年だとは思えない、色気を孕んだそれ。瞼も頬もほんのり赤く上気していて、濡れたくちびるは舐めたくなるようにおいしそうな色をしていた。花礫から一拍遅れて自分も欲を吐き出す時、思わず出てしまいそうな声を誤魔化すように、その唇にかみつくようにキスをした。






改定履歴*
20130615 新規作成
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