初めてのキスと、與儀のわがまま -2-
ベッドに寝かされた瞬間身を固くさせた花礫を安心させるように、また頬にキスをひとつ。それで少しほっとしたような表情を見せてくれるのが可愛くて、與儀は花礫に覆いかぶさり甘えるように頬を擦り寄せた。
「花礫くん、もうひとつおねがいがあって……今日だけ可愛いって言っていい?」
「……ダメ」
「ん〜、おねがい……」
「お前今日なんかすげぇわがまま。なんだよさっきから甘えた声だしやがって」
「わがままでもいい、花礫くんに甘えたいし甘えられたい。いっぱい甘やかしたいよ。明日から暫く会えなくなるんだもん。俺のこと覚えててくれるようにいっぱい刻みつけたい、……だめ?」
與儀が動くたびに彼のふわふわの金髪が頬にあたり、擽ったい。大型犬が思い切りじゃれてくるようなその仕草と、ぐすんと鼻を鳴らしながら甘えた声を出す與儀に呆れたのか、受け入れたのか。あるいはその両方だろう、花礫がひとつちいさなため息をつく。
「〜〜っ、わかったよ、ただし今日だけだからな」
「……! うんっ!」
本当に、與儀は表情豊かだと思う。さっきまではまっすぐ見ていられないくらいに大人の色気を纏いキスで酔わせていたかと思うと甘えるように涙ぐみ、そして今度はひだまりのような笑顔を咲かせる。そうしてまた、すぐに夜の顔になるのだ。頬に手を添えられるとほら、もう動けない。
「花礫くん、大好き」
『たくさんするから、覚悟しててね』
先程與儀が言ったその言葉には、少しの嘘も脚色もなかったようだ。
舌を絡ませる深いキスの合間に、ちゅ、と可愛らしい音を立てる可愛いキスを挟み、うまく息継ぎができない花礫をリードしながら、與儀は飽きることなく行為を続ける。
「花礫くん、可愛い、顔まっかだね」
「んっ、……そんなん、お前もだろ」
「だって可愛い花礫くんが俺のベッドにいてくれて、いっぱいキスできて……嬉しいから仕方ないよ」
「可愛いって言いすぎ」
「今日だけならいいよって花礫くんが言うからね。言えるだけ言っておきたいの」
「はぁ、お前ってほんと変なやつ」
「えへへ、うん」
「ちょっとは怒れよ……、ぁ、ん」
会話の間にもそれは途切れることなく、二人を包む空気はどんどん甘ったるいものになっていった。花礫が少しだけキスに慣れた頃、下腹部に違和感を覚える。
「怒られるのが好き?」
「違……、んっ!?」
それが、すっかり熱をもった與儀のものだと気付くのに時間はかからなかった。何しろ男同士だ。自分にだって同じものがついている。
與儀の勃ちあがったものが、自分の腹に擦りつけられている――そう自覚した瞬間、花礫の心臓が跳ねた。ばくばくと大きな音を立てて全身に血液が送り出され、かぁっと顔に血が集まったのが手に取るように解る。
「おま、何勃たせて……」
「んーごめん、俺だって男なんだよ〜」
「俺だってそうだよ!」
「うん、わかってるよ? ほら、だって花礫くんもこんなに大きくなってるもんね」
鼓動が早まっているのは、花礫だけではないのだろう。さりげない動作で服の下に滑り込み腹部を撫でる大きな手が熱くなっていたからきっとそうだ。
性器を包み込むように掴まれて、思わず腰が浮いた。
「やぁ……っ、違、そうじゃなくて、男相手でも……俺でも、気持ち悪くねぇの」
「そんなの、あるわけないでしょ。花礫くんの事が大好きだからキスしたいし、触りたいって思う」
「でも……」
「――じゃあ花礫くんは? 俺に触られるの気持ち悪い?」
心のどこかでずっと不安だったことを尋ねると、與儀は花礫の目をまっすぐに捉えたまま真剣な顔で否定してくれた。好きだから触れたい、改めてそう伝えて貰った嬉しさで、声が震える。
「気持ち、いい……」
「よかった」
與儀はそんな花礫の言葉を聞くと心底嬉しそうな笑顔を見せ、また行為を再開した。
「ぁ、っ與儀、でも今日は、キスだけって」
性急なその行為に驚いた花礫が、先程ベッドに入る前にした約束を口にする。その焦ったような顔がどうにも可愛らしくて、與儀は自分の顔がかぁっと熱くなるのがわかった。
約束はもちろん、覚えている。
覚えているけれど、でも――花礫の表情が、声が、あまりに扇情的で可愛くて、手が止まらない。ごめん、と小さく呟くと、今度は服の上からではなく下着の中に手を滑り込ませて性器を扱いた。
「ひゃ……、あっ」
「〜〜っ、花礫くん、その声は反則だよ」
その直接的な刺激に花礫の口から嬌声にも似た声が零れる。
今まで聞いたことのない甘ったるいその声に、與儀は勿論、その声を出した花礫本人も戸惑いを隠しきれない。ただ間違いなくその声で、ふたりを包む空気はより一層熱を帯びたものに変わった。
「あ、あ……ッ、與儀、待っ……ひあっ」
「うん、嫌なら言って、やめるから」
「そんな……、っうぁ、んんっ」
「嫌って言わないと、やめてあげられないよ」
今は多少強引でも、嫌だやめろと一言言えば與儀はちゃんとやめてくれるだろう。
そんなことは解っていたけれど、花礫はそれを口にすることができなかった。與儀がそうであるように、花礫だって男なのだ。セックスの経験こそないものの、射精の気持ちよさには覚えがある。
キスに夢中で気付けなかったけれど與儀に指摘されたとおり自分の性器も既に立派に勃ちあがっており、このまま射精すればどんなに気持ちいいだろうと思った。それに何より、與儀に求められていることが嬉しくて、とても嫌だなんて言えない。
そうしている間に與儀は器用に花礫が身につけていたパジャマ替わりのハーフパンツと下着を一緒に取り去ってしまった。外の空気と與儀の視線に晒された性器が、ふるりと震えて一粒新たな雫を零す。
もどかしくて、もっと触って欲しくて、無意識のうちに誘うように腰が揺れる。
もう、もういいから。熱を吐き出させて欲しい。はやくイかせてほしい。
「與、儀ぃ……」
そんな気持ちはとても言葉にできず、なんとか口にできるのは與儀の名前だったけれど、それでも十分に気持ちは伝わったようだ。自分に覆いかぶさっている男がごくりと喉を鳴らす音が、聞こえた気がした。
「花礫くん、一緒にイこうか」
さっきまでより幾分低い、ぐっと感情を抑えたような声でそう呟くと、與儀は自分の前を寛げて立派に育ちきった性器を取り出した。まだまだ15歳で成長途中の花礫のものとは違う、大人のそれ。大きさも太さも比較にならないものから花礫が目を離せずにいると、與儀はその視線に気付いてふわりと笑ってみせた。
「大丈夫だよ、気持ちいいことしかしないよ」
だから力抜いててね。
そう言って、花礫の上半身を抱き起こす。腰と腰をくっつけるように抱き寄せられると、二人分の性器が與儀の大きな手に握り込まれた。
「ゃ……あっ」
その瞬間、今までにない快感が花礫の全身を包む。びくんと体が跳ねて後ろに倒れそうになったけれど、與儀は片手で悠々とその痩身を支えた。
裏筋の部分同士を擦り合わせられて、先端を與儀の親指が撫でる。カリの部分を引っ掛けるように刺激されると、思わず腰が浮いた。與儀の広い背中に腕を回してしがみついてなんとかやり過ごしたけれど、こんなの、すぐにイってしまう。早くイかせて欲しいとは思ったけれど、いざその段階になると羞恥でそんなことできないと思ってしまう。
花礫は、ぐっと下腹部に力をいれて襲い来る射精感を必死で数回やり過ごした。けれどもう、本当にそろそろ限界だ。
「うあ、や、ひぁ……っ」
「花礫くん、気持ちイイ?」
「き、もちい、……あ、待っ、やぁあ、與儀ぃっ」
余裕のない花礫は気づかなかったけれど、與儀ももう限界だった。ずっと好きで、叶う訳がないと思っていた恋の相手が、今自分の腕の中で、自分の指先ひとつでこんなに可愛く感じてくれているのだ。
「可愛い、ほんとに、可愛い……。花礫くんっ、好きだよ」
大きな手が一層激しく花礫の性器を擦り上げ、先端にぐっと爪を立てる。ただそれだけで花礫は声もなく体をがくんとのけぞらせた。花礫の先端からびゅくびゅくと断続的に吐き出される精液を手のひらで受け止めて、與儀は眼前にさらけ出された白い喉に噛み付きじゅうっと音を立てて痕を残す。そうして、まだ暖かい精液の滑りを借りて自身の性器を数回扱いて、花礫の腹に向けて欲を放った。うすい胸から腹部に掛けてどろりと垂れる白濁が、暗い部屋の中やけに鮮やかに目に映る。
ああ、次はこれでやめてあげられないかもしれない。
與儀はそんなことを思いながら、愛しいからだを抱きかかえそのままベッドに沈んだ。
改定履歴*
20130602 新規作成
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