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perfume -3-

「ぁっ、あ、……んんっ」
「坊ちゃん……」

 僕の体調を気遣いながらのセックスはひどく気持ちのいいものだった。
 きっと長引けば長引く程僕のからだに負担になると思ったのだろう、はじめから気持ちいいところばかりを強く擦られると我慢の限界はすぐに訪れる。

「や、も、だめ、セバスチャ……セバスチャン、やぁあっ!」

 ひときわ強く突かれた瞬間目の前が真っ白になって、どくんと熱が弾けるのがわかった。

「うぁ、あ……」
「――っ、はぁ」

 次に感じるのは、僕の体内で跳ねるセバスチャンの熱の塊。
 目をきゅっと瞑ってどくどくと内側に注がれる熱を受け入れると、程なくして瞼へそっと一度だけ唇が触れる。

「ん、」

 それに誘われるように目をあければ、僕に覆いかぶさるセバスチャンの首筋をつうっと汗が落ちていくのが視界に入って、僕はそれを、まるで流れ星みたいだ、なんて思いながらぼんやりと見ていた。

「……大丈夫ですか? 申し訳ありません、熱があるのに……」
「平気だ、これくらい……、っぁ、んっ」

 気が抜けていたところで後ろから大きな熱が引き抜かれて、ぞくんと背筋が震える。それがどうしようもなく気持ちよくて、交互に絡ませていた指先にきゅっとちからをこめた。
 セバスチャンはそんな僕をぎゅっと腕の中に抱きしめて、息を整える合間にキスをしてくれる。瞼や額、頬と唇。もう触れることはないかもしれないと思っていたから、ひとつキスをされるたびにうれしくて涙が零れそうだった。



****

「ねぇ坊ちゃん」

 荒かった呼吸が少し落ち着き、背中から汗が引いた頃、セバスチャンが静かに僕を呼んだ。

「私は彼女を抱いていません」
「え……?」
「寸前であの紋章の持ち主の名前を聞きだせましたので、そこで中断を……」

 僕の目をまっすぐに見て紡がれる言葉が、とても理解できない。
 思わず起き上がろうとしたけれど、散々揺さぶられたせいか腰のあたりが鈍く痛み、途中で動けなくなった。
 そんな僕の背を撫でるセバスチャンの笑顔に、嘘は見えない。

「だって、おまえ、え、じゃあ何故否定しなかったんだ」
「坊ちゃんを傷つけたことに変わりはありませんから」
「ぅ、……でも、なぜだ? そんな、わざわざ途中でやめるなんてこと」

 何故。そうだ、本当に、何故だ。
 セバスチャンは僕の執事で、そして悪魔で、目的を達成するためになら手段を選ばない。
 今回のことだってそれを散々自分に言い聞かせて、そしてどうにか飲み込んだというのに、せっかく落ち着けたはずなのにまた心が乱れてしまう。

「貴方のお顔が浮かびまして、どうしてもそれ以上はできなかったのですよ」
「は……?」
「こんなの初めてです。貴方以外抱けなくなってしまいました」
「え、」
「ねぇ坊ちゃん? 責任、とってくださいね?」
「責任……と言っても……どうすればいいんだ?」
「簡単です、今までどおりこうやって、私を受け入れてくださればいいんですよ。ずっと、ずっとね」

 聴いているこっちが恥ずかしくなるようなセリフをさらりという恋人に、言葉がでない。元々熱があってよかった、きっと今、顔は真っ赤だ。それでも嬉しくて滲む涙はごまかしようがないからきゅっと抱きついて隠した。そうすれば今度は、耳の傍で響く、僕のだいすきな恋人の声。

『あいしてます、シエル』

 僕はその声にますます赤くなる顔を熱のせいだと思い込んで隠して、そのまま目を瞑った。
 いつかは僕も、この恋人に同じことを言って困らせてやろう、そう思いながら。






改定履歴*
20110301 新規作成
20160531 少し修正
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