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ひとりでできたもん!

「どうしよう……」

 可愛らしい雑貨やぬいぐるみで賑やかな部屋で、部屋の主はベッドに座ったまま先程からうんうんと唸っていた。彼の柔らかな金髪とのコントラストが綺麗な紫の瞳には、涙まで滲んでしまっている。

 今日は、とてもいい日になる筈だったのだ。
 だって今日は、平門の帰りがめずらしく早くて一緒に夕食を摂ることができた。メニューは與儀の大好きなオムライス、おまけにエビフライまでついていた。お子様プレートのようなそれに目を輝かせていると、平門にくすくすと笑われた気がしたけれど、なんでわらうの、と抗議の声を上げてみたら、平門は誤魔化すようにケチャップを手にリクエストを聞いてくれた。数十秒後にオムライスの上に描かれたのは、『ニャンペローナ!』と元気よく答えた與儀のリクエストに応えられたかはわからない代物だったが、それでもとっても嬉しかったのだ。
 食事を終えると、平門は仕事があるからと與儀の頭を一撫でして艇長室に向かったから、與儀はがんばってねと声援を送り大人しく待つことにした。羊と仲良く時間を潰して、お風呂に入って、ベッドですこしうたた寝をして。
 目を覚まして時計を見ると、午後9時を少しまわっていた。そろそろ平門サン仕事終わったかもしれない、もう一緒に寝れるかなとベッドを降りようとして――そこで自分の異変に気づく。うたた寝のせいか、勃起してしまっていたのだ。

「平門サンのとこに行けなくなっちゃう……」

 数日前、夢精による精通を迎える前から、こうやって大きくなったことはある。今までは、どうして大きくなるのかと不思議に思うもののそれだけだった。けれど今は違う。放っておけば、また寝ている間に勝手に射精して平門のベッドを汚してしまうかもしれないのだ。

「えと、『溜まってしまう前に定期的に自分で処理しなさい』、だっけ」

 そんな與儀の脳裏に浮かんだのは、先日受けた『燭先生の性教育』の講義だった。あの日、與儀は精通についての一通りの知識を教えてもらった。また夢精しないためには自慰をすること、それも教えてもらった。けれどやり方については燭は口を閉ざしてしまったのだ。そこで與儀は、『平門に聞きなさい』という燭の教えにしたがいあの日迎えに来てくれた平門に早速訊ねてみたのだ。

『平門サン!』
『與儀。授業はどうだった?』
『うん、わかったよ〜お礼もちゃんと言ったよ!』
『そうか、おつかれさま。えらかったな』
『えへへ、ーー平門サン、あのね』
『なんだ?』
『ひとりで処理する……って、どうやるの?』
『!? な、……え? 』
『えっとね、その……、っせーえきが! 夜勝手に出てしまわないようにするにはね? たまるまえに、自分で処理するんだって。でね、燭せんせいが、平門サンにやり方聞きなさいって』
『な、…………』
『自分でやるの、難しい? 教えて、平門サン!』

 平門はというと、與儀の質問に目を丸くしたあと、しばらく黙り込んでしまった。心配になった與儀が、平門サン? と顔を覗き込んでみれば、それではっと我に返ったように笑顔をみせる。

『そ、うだな……いや、難しくはないよ』
『ホント!? あのねじゃあ、今日……』
『でも俺はもう大人だから。溜まりそうになったら言うから、その時にしようか』
『大人は、たまるまで時間かかるの?』
『そう、だ、な。若い方がすぐ溜まるよ』
『そっかぁ……』

 與儀は、『じゃあ、約束ね』と差し出した小指とゆびきりをしてくれた平門が、自分の背後でしてやったりと口角を上げる燭に心の中で舌打ちをしていたことを知る由もない。

 けれどその約束は、とうとう果たされることはなかった。平門は毎日のように繰り返される『平門サン、今日は教えてくれる?』攻撃をなんとか躱し続けたのだ。
 だから與儀は、まだ自慰の方法を知らない。
 知らないけれど、溜まってしまったものは仕方ない。このままではきっと今日寝ている時にまた勝手に出てしまう。それだけは避けたかった。

「処理、しなきゃ」

 與儀はぐっと心を奮い立たせて、申し訳程度に生え揃ってきた下生えの中、存在を主張するように勃ちあがっているペニスにそっと触れてみた。

「ぁ……」

 自分で触っただけだというのにひとりでに零れる声に、與儀の顔がかっと赤くなる。
 けれど当然ながら、それだけでは射精できない。どうやったら射精できるのか、もっと聞いておけばよかった。そうしたらすぐにでもひとりで処理して、平門の元へ行けるのに。
 どうしよう、どうやったら出せるんだろう。

「〜〜っ、平門さぁん……」

 焦るばかりの與儀の口から、ぽろりと平門の名が零れた。これは、與儀の癖だ。何か困ったことや戸惑うことがあると、彼は甘えるように平門の名を呼ぶ。

「ひ、らとさん。平門サン……っ」

 名前を呼ぶとあの大好きな平門の顔が浮かんだ。まるでそれに呼応するようにペニスがひくんと震えて、透明の雫がこぷりと溢れ出る。それと同時に感じるのは、初めての『気持ちいい』という感覚。

「んっ、ぁ、……っ、」

 戸惑う気持ちとは裏腹に、ペニスを握っている右手は勝手に上下して、半勃ちだったものがみるみるうちに大きく、堅くなってゆく。

『與儀、上手だ。もっと擦って』

 射精のやり方なんて習ってないのに、頭の中の平門は優しくその方法を教えてくれる。なんとなく、いけない想像をしているのだという自覚はあった。大好きな兄代わりになんて事を言わせているのだと、自分で自分が恥ずかしかった。
 けれどもう気持ちよくて、やめられない。だって想像の中の平門は優しい笑顔で、自分の手ごとペニスを握って、扱いてくれているのだ。

『上手だよ。すごくかわいい、ほら、こんなにまっかになって、震えて』
「あ、あ、平門サン……」
『あと、もう少しだ』

 平門の声が耳元で自分の名を呼んだ、気がした。無意識のうちにペニスを握っている手に力がこもる。腰ががくんと揺れて、目の前がちかちかして、信じられないような快感が與儀を包んだ。

「ぅ、ぁ、〜〜ぅやぁっ、あ、――っ、あ……」

 一瞬飛んだ意識を必死にたぐりよせ、知らず瞑っていた目を空ける。先程までの快感とはうってかわって気怠さが自分の体を包んでいた。はぁはぁと肩で息をしながらふと右手に目をやると、どろりと濃い白濁がその手を汚していた。



****

「平門サンっ!!」

 いつもの数倍勢いよく入ってきた訪問者に、部屋の主である平門は目を瞬かせた。そのまま自分目掛けて駆け寄ってくる與儀に、どうした、と声を掛ける頃には、彼は平門の腕の中にすっぽりと収まっていた。

「平門サン、まだお仕事するの」
「え、いや、今日はもう終わったが……」
「ホント!? じゃあ一緒に寝よ?」
「……どうしたんだ、一体」

 なんでもない、と言いながらぐりぐりと頭をすりよせる温かな体温に、ふっとため息をひとつ。めずらしく甘えモード全開の與儀をひょいと抱え上げ、ベッドに運ぶ。その体をふわりと横たえ、自分もその隣に横たわると、與儀はぎゅっと目をつむったままますます平門に抱きつき甘えてくる。まるで、表情を見られまいとするように。

「今日は教えてって言わないのか?」
「も、もういい!」
「……そうか」
「平門サン、電気消して? ね?」
「はいはい」

 あまりにわかりやすいその様子に、平門は與儀に気付かれないようにそっと笑みを零した。ああ、與儀もまたひとつ大人の階段を上ったんだな、そう思って。
 ぱちん、と平門の指が鳴り、帽子乙女が電気のスイッチを消しに部屋を舞う。暗くなった部屋で、與儀の赤くなった頬に気づかないフリをして。その額にそっとひとつキスをして、平門はそっと目を瞑る。就寝には随分早い時間だったけれどくっついていればお互いの体温がぽかぽかとあたたかくて、ふたりはいくらもしないうちに心地よい眠りに落ちてゆくのだった。






改定履歴*
20130926 新規作成
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