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おしえて、平門サン!

「與儀が夢精したぁ?」
「声が大きい!」

 貳號艇の爽やかな朝に、ばしん、と頭を本で殴る音が響く。続いて、それに負けないくらいに大きな平門の声が。

「ばっか、お前のが大きいっつーの! 起きるって」

 いつもは冷静沈着、滅多に感情を表に出すことはない平門に大きな声を出させた張本人である朔は、慌てて自分を殴った彼の口を塞いだ。言われてはっとした平門と共に部屋の端のベッドで眠っている與儀を見やる。彼が変わらず寝息をたてているのを確認し、二人してほっと息をついた。

「與儀に聞こえたらどうするんだ。昨日それで泣いて大変だったんだぞ」
「えぇ? なんで? 夢精なんてめずらしくねぇだろ」
「いや……、射精自体が初めてだったみたいなんだ。驚いたみたいで」
「あーなるほど……いや、でも泣くほどびっくりするとはアイツらしいねぇ」

 言いながら朔は再度與儀に目をやり、その寝顔に目を細める。平門ほどではないが、朔は朔なりに保護した與儀のことを気にかけているのだ。今日だって、非番の日とはいえこんな朝早くにここにいるのは『與儀のことで相談がある』と平門から連絡を受けたからであった。

「で、相談って何よ?」
「それが……何と言えばいいのか」
「? まぁ、詳しく話してみろよ」

 めずらしく言い淀む平門の様子に、朔はソファに深く掛けなおし続きを促す。それでようやく、平門は重い口を開いた。



****

 昨夜、いや、もう今日の明け方だったろうか。深い眠りに落ちていた平門は、隣で眠る與儀が身じろぐ気配で目を醒ました。最近は夢に魘されることも少なくなり朝まで穏やかに眠っていたのに久しぶりだな、そう思いながら彼を撫でるために伸ばた手が空を切る。まだまだ眠気を欲している目を無理やりこじ開ければ、ベッドに起き上がっている小さな背中が目に入った。

『與儀? どうし……』
『平門、さ、ん』

 名前を呼べば、びくんと大げさな程に揺れる與儀のからだ。そのまま彼は小さな手で自らの股間を隠すように覆い平門から見えないようにと身を引いた。直後にふわりと漂う、覚えのある香り。

『っ、平門さ、俺……っ』

 與儀が精通を迎えたのだということは直ぐにわかった。兆候は、既にあったのだ。彼は最近少し背が伸びたし、変声期を迎えているのか声も少し掠れている。時期を同じくして精通を迎えるのも何もおかしなことではない。
 けれどまだ幼い與儀は、これが何かなんて知らなかったようだ。加えて、彼は自分の体の変化にひどく敏感だった。記憶は失ってしまっていても、心の奥底に刻まれたあの事件の恐怖がそうさせてしまっているのだろう。

『與儀』

 窓から差し込む微かな月明かりの中、それでもわかる鮮やかなアメジスト色が、涙に潤んでいる。よく見れば手も肩も小さく震えていて……平門は思わず、そのちいさなからだを抱き寄せた。

『こうなったのは、初めてか?』

 大丈夫だ、泣かなくていい、そんな気持ちを込めてそっと声を掛ければ、與儀はこくんとちいさく頷いた。

『そうか、驚いたな。病気じゃないし能力者化でもない。大丈夫だよ』
『ほ、んと?』
『ああ。お前は能力者にはならない。これは……大人になったら、みんなこうなるんだ』
『……平門サンも?』
『そうだな。俺もだ』

 平門の優しい眼差しと言葉に、きっと安心したのだろう。與儀は堰を切ったようにぼろぼろと涙を零しながら平門にぎゅうっと抱きついた。



****

「早い話が、お前の隣で眠ってたのに気付いたら勝手にイって泣いてた、と」
「……まぁ、そうだ」
「與儀もオトナになったなぁ。で、相談って?」
「…………」
「もうここまできたら腹括れよー」

 ここにきてもなおはっきりしない平門に、朔がもう一度続きを促す。

「実は、」

 それでようやく口を開いた平門の説明は、聡明な彼にしてはめずらしく要領を得ないものだった。しかし、長い付き合いだ。朔には彼の言いたいことがなんとなく伝わった。

 昨日、平門の努力の甲斐あってようやく落ち着いた與儀は、自分の身に起きたことを理解しようとした。自分が出してしまったのは何だったのか、と。そうして素直な彼は、あろうことか平門に『これは何?』と大きな目を潤ませたまま尋ねてきたというのだ。
 平門の相談というのは、このことであった。とりあえずはごまかしたものの、何と答えればいいかわからない、と。

「まぁ不思議かもなぁ、初めてだったら」
「朔教えてくれ、何と説明すればいいんだ」
「んー…、その場では何て言ったんだ?」
「『調べておく』、と」
「おま……ハードル上げたなぁ……」

 ようやく判明した平門の相談内容に、朔はひとつほっと息をつく。とりあえず、よかった。平門は真剣に悩んでいるようだが、内容的にはそこまで深刻なものではない。こんなことを言ってしまえばきっと彼は怒るか拗ねてしまうかだから、とても口にはできないけれど。

「『大人になった証拠』とか?」
「それじゃ説明にならなかったから改めて聞かれたんだろう」
「そっか。じゃあ精子だって言う? こどもができるやつだって」
「いや、それは早くないか? 與儀はまだ12だぞ」
「じゃあ何て言うんだよー」
「それを悩んでるんだ」
「大丈夫だ! 放っておけばそのうち與儀もまぁ、なんとなくわかんだろ!」
「放っておけるか。俺以外に聞いたらどうするんだ」
「聞くかぁ? そんなこと」
「本当に困っているんだ……」
「まぁ、俺だってできるなら解決してやりてぇけど」

 ふりだしに戻った所で、うーん、と二人で考え込む。男二人で真剣に悩む内容でもないだろうと頭の片隅で思いつつ、それでも平門に付き合ってやるあたり朔は気のいい男だった。
 どれくらいそうしていただろう、二人の案が出尽くしてしまったところで、コンコンとドアを叩く音が響いた。

「平門、入るぞ」

 続いて聞こえる声に、二人の表情がぱぁっと明るくなる。

「適任者がいるじゃん!」


「燭さん!」
「燭ちゃん!」

 平門と朔が縋るような目で突如現れた救世主の名を呼んだのと、迎え入れられた燭がびくんと肩を跳ねさせ一歩後ずさるのは同時だった。



****

「つまり、與儀に性教育をしろと言いたいのか」
「さっすが燭ちゃん、身もフタもねぇな」
「お願いします!」
「断る。お前が教えてやればいいだろう」

 與儀を起こしてしまうから、と連れ出された客間で大体の話を聞いた燭は平門の必死の願いをにべもなく切り捨てた。

「私は忙しいんだ。大体ここに来たのは仕事で――」
「燭さん、そういえばお渡ししたいものがあったんです」
「必要ない」
「まぁそう言わず」
「必要ないと――、」
「これ、お好きでしょう? 折角手に入ったので、ぜひ」

 だがそんなのは、最早予想の範疇だ。平門は部屋を出るときにポケットに忍ばせてきた小さな包みを取り出し、燭の手のひらに乗せた。何だ、と言いながら燭がそれに目を落とす。その目に映ったのは、彼が唯一好む嗜好品――黒砂糖の珊瑚だった。

「……今日の14時からであれば少し空けてやる。迎えにまでは来ないから、お前が連れてこい。療師の研究室だ」
「ありがとうございます、燭さん」

 真面目でお堅いこの恩師は、それでいて案外扱いやすいものだと平門は下げた頭の下で口角をあげた。



「燭さんという存在を忘れていたな。なんとかなりそうだ。お前も朝早くからすまなかったな」
「気にすんなって。ところでさぁ平門」

 包みを受け取った燭と彼の本来の目的であった仕事の話をして、その背を見送り平門は大きく息をつく。その顔からはほんの数十分前からは考えられないほど晴れ晴れとしていて、朔もほっと胸をなでおろした。そこで先程から気になっていたことを訊いてみることにした。

「何だ」
「お前と與儀って一緒に寝てんの?」
「潜り込んでくるんだ」
「勝手に?」
「いや、いつでも来ていいとは言ったが。よし朔、仕事に戻るぞ」
「……はいはい」

 そこで返ってきた答えは自分にも他人にも厳しい筈だった親友の新たな一面で――、朔はなんとも言えない笑顔を返すことになるのだった。



****

「――以上だ。分からなかった所はないか?」
「大丈夫です。ありがとうございます、燭先生」
「それはよかった」

 初めはこわばっていた與儀の表情がほっとしたように緩んだのを見届けて、燭はひと仕事終えたように息をついた。
 教師でもあり医師でもある燭の性教育の講義は流石の一言だった。まだ幼い與儀にもわかりやすい言葉を選び、過不足なく語られる言葉はすとんと與儀の中に落ち、彼が抱いていた不安は跡形もなく解けてゆく。
 それに、與儀の理解力も高かった。今はもう亡き彼の祖国で、王子として受けていた教育の質の高さが伺えた。

「で、君が一番知りたいのは、寝てる間に出てしまわないように、だったな」

 講義の冒頭に與儀から受けた質問を復唱すると、與儀は真面目な顔でこくんと頷いた。

「ハイ、平門サンと一緒に眠れなくなっちゃうの、嫌です」
「……君たちは、一緒に寝ているのか?」
「? はい、平門サンがいつでもおいでって」
「…………そうか」

 與儀の不安を全て解消してやる過程で、今何か元生徒の不必要な情報が耳に入ったような気がするが、それは聞かなかったことにした。

「話を元に戻そう。ええと、早い話が精子が溜まるから夢精してしまうんだ。溜まってしまう前に定期的に自分で処理しなさい」
「は、い……?」
「? 何だ」
「――燭先生、あの」

 それまで、多少のひっかかりがあっても燭の言葉をするすると理解できていた與儀が、ここにきて初めて全く分からないというように戸惑いを見せる。これが、例えば相手が平門や朔であれば「こんなこともわからないのか」と突き放していた場面ではあったが、燭もまだ幼い與儀が一生懸命理解しようとする姿勢に多少なりとも絆されていたので、ぐっと我慢して後に続く言葉を待った。

「処理、って、どうやるんですか……?」

 随分長い間悩んだ後、ようやく與儀が尋ねたその内容に、今度は燭が黙り込む。

 ――何と、答えるべきだろうか。自分でペニスを握って、扱いて、射精しなさいと言ってしまえばそれまでだけれど、こんな年端のいかない少年にそれを言ってしまっていいのか? いや、何もおかしいことではない。おかしいことはないのだけれど、なぜかこう、……良心の呵責を感じる。

「やり方は、平門に聞きなさい」

 結局、與儀と同じくらいにたっぷり悩んだ後、なんとか燭が口にできたのは、こんな言葉だった。



****

「なんてこともあったなぁ」
「うわあああ何てこと思い出してるんですかぁ!」
「いや、お前が可愛かったなと思って」

 貳號艇長室の大きなベッドの上、自らの足の間に座らせた恋人を後ろから抱きしめ、てのひらでそのからだを愛でながら紡ぐ平門の想い出話に、與儀の慌てたような声が重なる。
 後ろから與儀の顔を覗き込んでみるが、顔が熱くなるのが解ったのだろう、彼は両手で顔を覆って隠してしまった。

「ううもうやめてくださいよぉ……大体何年前の話なんですか忘れましょうよ」
「もう5年……いや、6年になるかな」

 平門と與儀が出会って、今年で8年。その間に、保護するものとされるものという関係に過ぎなかった二人の関係は大きく変わった。
 自分の事をまっすぐに信頼し頼ってくれる與儀のことを護りたいと願いそれを行動に移す平門に、與儀の素直な心はどんどん惹かれていった。
 彼らは散々悩んだ末に性別も年齢も乗り越え、体の繋がりをも持つようになった。今ではもう、お互いにかけがえのない唯一無二の存在だ。
 今だって、與儀は顔を真っ赤にしながらも平門の腕から逃げ出すようなことはない。あの頃から変わらず大好きな腕に包まれる感覚を自分から手放す選択肢なんて、彼にはないのだ。

「拗ねるな、可愛いだけだ」
「俺男です。可愛いって嬉しくないです」

 頬に負けず赤くそまった可愛らしい耳たぶにそう囁いて、平門は腕の中の恋人の機嫌が治るのを待つ。彼が自分に甘えるのを我慢できなくなるまでのほんの少しの待ち時間など、お気に入りの金の髪を撫でていればあっという間だった。

「でも、平門サン結局教えてくれませんでしたよね」
「ん?」
「だからその、〜〜、ひとりで処理する方法」
「あぁ」
「すごい気になったんですよ!」

 髪を撫でられる心地よさに絆されたのだろう、與儀はしばらくの後に、拗ねたように背後の恋人を睨んでみた。しかし、赤くなった顔と潤んだ目では効果などしれたものだ。平門は與儀の抗議などまったく気にしない様子で、くすくすと笑いながらその目元にキスをした。

「まぁいいだろう? いつの間にか覚えていたようだし」
「っえ、あ、……お、覚えてない! 覚えてないです!!」
「ふふ、お前の虚勢は可愛くて好きだけどな。でも、しているんだろう? こうやって」
「あっ!」

 それまで髪を撫でていた大きな手が迷いのない動きでするりと與儀のからだを伝い、與儀の下腹部に潜り込む。手早く前を寛げると、與儀の手をとって半分勃ち上がっていた彼自身の性器を握らせた。途端に零れる可愛らしい喘ぎに目を細め、與儀の手ごとその熱を二、三度扱いてやる。

「ッあ、ん、や、平門サ、」

 ぱっと手を離すと、與儀が熱っぽい目で平門を見上げた。赤く染まったその頬に、キスをひとつ。視線でねだられるままにもう一度口づけて舌を絡ませてやると、目の端にそろそろと動く與儀の手が目に入った。

「ほら、もう勝手に手が動いてる。どこで覚えてきたんだ? 與儀」
「あ……う……、平門サン、が」
「うん?」
「平門サン、が! 教えたんでしょ。やらしいことは全部」

 恥ずかしさが限界に達し、ある種のスイッチが入ったのだろう。與儀は迷いなく衣服を脱ぎ捨てると、くるりと向き直り平門の腰に正面から跨った。首筋に両手を回し、平門の目を正面から捉える。

「ねぇ、平門サン。手じゃ足りないです。……続き、して下さい」
「急には無理だろう? 慣らしてやるから待て」
「平気です、自分で慣らしてきましたもん。だから、ね?」
「――こんな誘い方は、教えた覚えはないんだがな……」
「そんなことないです。全部、平門サンが教えてくれたんです」

 だからコレ、はやくください、と。あかいくちびるから囁くように紡がれるその誘い文句に平門の腰がぞくりと疼いた。育て方を間違ったかなと零すと、間違ってないですと返される。
 焦れた與儀のひくつく後孔に己の先端が飲み込まれて感じる痺れるような甘い感覚に誘われて、平門は愛しいからだをぐっと引き寄せその奥深くまで熱を埋め込むのだった。






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