拝啓、ストーカー様 -2-
あれから一週間、俺とトキヤは毎日のように連絡を取り合った。昼間にトキヤからメールが来ることもあれば、夜中俺から電話をすることもある。そうして、朝は決まって俺からこうやってメールを送るんだ。
『トキヤおはよ。今朝は平気だった?』
別に毎朝のメールを約束をしたわけじゃない。ただ、明らかなストーカー被害に遭っているくせに危機感のないトキヤのことが心配で、そうしてしまうだけ。
悔しいことにトキヤは俺よりずっと仕事があるから、毎朝忙しい時間帯にメールなんて迷惑かなって思わない訳じゃなかったんだけど、今朝は本当にその習慣を続けてきてよかったって思えたんだ。
『おはようございます。はい、無言電話が一件だけありましたけど、平気です』
いつもどおり、何もないですよ大丈夫ですっていう文面だけが返ってくるって思い込んでた俺は、意外な返信にすっかり慌ててしまった。
『え、無言って、トキヤ出たの!?』
手早くそれだけを入力して送信するも、いつものことながらすぐには反応がない。普段あまりメールをしないというトキヤのメール作成に掛かる時間は俺よりずっと長い。そんなの今に始まったことじゃないし、気にしたこともなかった。けど、今この瞬間に限ってはすごくもどかしく感じる。
メールじゃなくて電話にすればよかった、ていうかやっぱりもう掛けてしまおうか、そんなことを思いながら発信履歴を開き、一番上にあるトキヤの名前をタップする寸前に、ようやくメール受信の音が鳴る。
『寝惚けていて、あなたからの電話かと思ったんです。けれどすぐに切れてしまいました』
――いやいやいや、そんなストーカーからの電話に出ちゃだめでしょ。いくら寝惚けてたっていっても『はい』くらいは返事したんだよね? 無防備なお前の声を聴けた相手が味を占めて、もっと電話してくるようになったらどうするの?
相変わらず危機感のないメールの内容に一通り頭の中で抗議した後、波立つ気持ちを落ち着けるようにふうっと大きな息をつく。
本当はこれをこのまま言えればいいんだけど、でも、……それは躊躇われた。だって悪いのはストーカーであってトキヤじゃないんだ。危機感が足りてないのは心配だけど、それは俺がフォローすればいいだけの話。
どうやら単純な俺は、『あなたからの電話かと思って』の一言だけですっかり毒気を抜かれてしまっているようだ。
『そっか。でももしそれで何か言われてお前が嫌な思いすんの嫌だからさ、俺の着信音だけ別のに変えときなよ。それなら間違えないでしょ』
被害者であるトキヤを責めるような文面にならないように、絶対に一ミリも傷つけることのないように。
そう思いながらいつもより時間を掛けて作ったメールに、トキヤが『そうします』と返してくれる。たったそれだけのことがとってもうれしくて、俺は朝から携帯片手に顔がにやけてしまうのを抑えられなかった。
改定履歴*
20120916 新規作成
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