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セカンドバージン -2-

「あなたがコーヒーを淹れてくれるなんて、どういう風の吹き回しですか?」

ソファに座った風呂上りのトキヤが急に振り向き、俺がいるキッチンを覗き込んでくる。しまった、ドア閉めとけばよかった。俺はポケットにつっこむ直前だった手をぶんぶんと顔の前でふって、なんでもないよ、という風を装った。

「俺だって、たまにはトキヤにゆっくりしてほしいって思ってるんだよ。いいからほら、テレビ見てて、ねっ」
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて」

ちょっと強引だったかな、声裏返ってなかったかな。どきどき高鳴る鼓動を落ち着けるように、深く深く深呼吸をする。ご機嫌なトキヤがまたテレビに目をやったのを確認して、俺は改めてポケットからあの小瓶を取り出した。迷っている時間は、ない。マグに注いだ淹れたてのコーヒーを左手に持ったティースプーンでかき混ぜながら、震える右手で小瓶を傾ける。蜂蜜のようにとろりとしたそれは、とぷん、とあの音を立てて真っ黒な渦の中に吸い込まれていった。

「おいしい?」
「はい、とっても。コーヒー淹れるの、上手になりましたね。ちょうどいい濃さでおいしいです」
「……あたりまえだよ、トキヤのことなら何だって知りたいもん」
「――また、そんな可愛いことを言う……」
「俺男だよ、可愛いってうれしくないよ」
「ふふ、そうですか」

差し出したコーヒーを笑顔で受け取りこくんと一口飲んだトキヤの言葉は、味はどうだろう、変に甘ったるくなったりしてないかな、って俺の不安を消し去ってくれた。それから、いいこ、って撫でてくれる手のひらの体温も。
それにしても、薬はどれくらいで効いてくるんだろう。あの小瓶が届いた日、興味本位でほんのひとさじ舐めた時には30分くらいでもう体が火照ってどうしようもなかった。効き方には個人差があるって書いてあったから30分後とは限らないだろうけど、たっぷり飲んだらもっと早くなるのかな?そういえばトキヤは媚薬飲んだらどうなるんだろう。ここがソファでも構わずに押し倒してくれるんだろうか。それとも、ひょいって俺のこと抱えてベッドに連れてってくれる?

「――ごちそうさまでした」

けれどそれから30分後、期待にどきどきと高鳴る鼓動を隠すのに必死な俺をよそに、トキヤは、そろそろ寝ましょうかとソファからすっと立ち上がってマグを片付けに行ってしまった。戻ってきたトキヤの顔色も声音も、普段となんにも変わらない。あれ、俺ちゃんと薬入れたよね。トキヤ全部飲んでたよね。どうして何も効かないの?俺は慌ててトキヤの後を追いかけ、トキヤのベッドに潜り込んだ。いつものようにぴったりくっついて、キスをねだる。

「ねぇトキヤ、今日一緒に寝ていい?」

ちゅ、と額に落とされたいつもより軽いキスに焦れてそういうと、トキヤは困ったように眉尻を下げてしまう。え、え、何で?どうして?どんな男でもその気にさせるんじゃなかったの?それともトキヤの理性が強すぎるだけ?

「だめ、です」
「どうして……? 〜〜、セックスだけじゃなくて、俺と一緒に寝るのまで、嫌になった?」
「違うんです、なんだか、からだ、熱くて……今一緒のベッドで一晩中一緒に、だなんて、私は自分を抑える自信がありません」
「それは――…」

今まで避けていた、セックスって直接的な言葉を口にしてしまうほど、俺は余裕がなかった。けれどそれはトキヤも同じだったようだ。困ったような表情のトキヤが苦しそうな声で返してくれた答えに、俺は内心ほっと安堵のため息をついた。よかった。嫌われたわけじゃなかったんだ。
間近でよくよく恋人の様子を観察してみると、普段となんにも変わらないなんて俺の気のせいだった。くっついた体温はいつもより高いし、白い頬はほんのり上気してる。うすい胸にそっと手を当てると、とくとくと早めの鼓動が伝わってきた。よかった、薬効いたんだ。俺にドキドキしてくれてる。

「あのねトキヤ、ごめん。それ、俺のせいだよ」
「え……?」

不思議そうに俺の目を見るトキヤになんと打ち明けていいかわからず黙り込んでしまうと、トキヤの手が、迷ったように俺の髪をそっと撫でた。触れるか触れないかの力加減で、ゆっくりゆっくり、急かさないように。それがそのうちに俺の耳たぶに触れたものだから、もう俺は何も考えることができなくなった。俺は耳が弱いんだよ、トキヤずるい、そのこと知ってるくせに。

「俺が、トキヤにえっちな気分になる薬、飲ませたんだ」
「はい?」
「さっきの、コーヒー」
「……あ、」

ごめんトキヤ、何も考えることができないから、ばか正直に全部を口にしてしまう俺を許してね。お前が仕事で忙しくしてるときに、お前といちゃつくことばかり考えてた俺を嫌いにならないで。本当に本当に、すきなんだよ。こんなばかなこと考えて、実行しちゃうくらいに。

「だから、我慢なんてしないで。俺、トキヤとえっちなことしたい」
「音……、だめです、またあなたを傷つけてしまう。もうあんなふうに痛い思いは……」
「大丈夫だよ。俺、ちゃんとトキヤとできるように準備したんだ」
「準備?」
「えっとね…、アナルプラグって、知ってる?」

実物を見せるか迷ったけど、それはさすがにやめておいた。というか、それを隠してる自分の机に行くためにトキヤから離れるのが嫌だった。トキヤは、多分どういうものかは知ってたみたいだ。かぁっと赤くなった頬が、そのことを教えてくれた。

「そんなものまで」
「だって! 俺、トキヤとふたりで抱き合って、しあわせになりたいんだ。でもお前が俺の体気遣ってくれてるの、すごいわかったから…。そのためなら何でもするよ」

だからお願い。我慢しないで。俺のこと抱いてよ。

「ね……俺のここ、触って。男同士でもちゃんとセックスができる体だってこと、確かめてよ…」

ありったけの勇気を振り絞って、俺の耳たぶを撫でていたトキヤの手をとり、それをそのままお尻の方へと導く。いつもは冷たいトキヤの指は、ほんのりあったかい。それが俺の入り口に触れて、思わずはぁっと息が漏れた。

「〜〜おとや、」

その瞬間、切羽詰ったような声が聞こえて俺の視界は一転した。横向きに寝転んでいた俺の体は、ころんと仰向けに転がされた。目の前には、俺に覆いかぶさったトキヤの白い喉。それがこくんと唾を飲み込むのを、俺は夢のように見ていた。



****
俺は一体どうして、あんなオモチャとトキヤの太さが一緒だなんて思ってしまったんだろう。実に二ヶ月ぶりに受け入れるトキヤのものは、あんな作り物よりずっと大きく太くて、そして熱かった。繋がったところから伝わる熱で、溶けてしまいそう。

「あ、あぁ…っ!」
「音也、…いたく、ないですか?」
「あ、っう、へいき、きもちい…よっ。ね、トキヤは…?」
「わたしも、です。気持ちよすぎて、おかしくなる」

媚薬が効いているはずなのに、それでもトキヤは俺を気遣ってゆっくり動いてくれた。いつもは涼しい顔をしている彼の表情はほんのすこしつらそうで、こめかみから、首筋から、汗が流れ落ちてくる。はぁはぁと押し殺したような色っぽい吐息に、あたまがくらりと揺らめいた。
きっと本当は、もっとたくさん動きたいんだと思う。けれど優しいトキヤはそれをできないから――俺が、がんばろうって思ったんだ。

「うっあ、音也だめです、」
「んん……っ、トキヤ」
「そんなに、動かれたら、自制が効かなくなる…っ」

トキヤの腰に合わせて、俺も一生懸命に腰を動かす。トキヤのが、もっともっと奥に来てくれるように。でもなかなか上手くはできなくて、焦れた俺はトキヤの細腰に脚を回して、おもいっきりぎゅうっと抱きついた。

「だからっ、そんなのしなくていいから、おく、きもちいからぁっ」
「〜〜っおと、や」
「お願い、もっとしてぇ…トキヤ、すき…」

トキヤの息が一瞬とまって、次の瞬間今までのセックスが嘘のように激しく揺さぶられる。腰骨同士がぶつかって、すこしいたい。けどそんなの関係ないくらいに気持ちよかった。トキヤが、俺のこと、抱いてくれてる。俺だけを見て、俺のことだけ考えて、今この瞬間トキヤの全部をおれにくれてるんだ。そう思うと、胸がきゅうっと苦しくなった。目の奥がじんわり熱くて、声が濡れる。体位を変える合間にトキヤが目尻にキスをしてくれて、それでようやく、俺は自分が泣いていることに気付いた。

「ふぁ…っ! んっ、あ!!」
「音也、愛してます。あなたとこうできて、すごくうれしい」
「――俺も、あいしてる。トキヤ、ときや、もうずっとこうしてて」

向かい合わせに膝の上に座らせられた体位で突き上げられながら、幾度も幾度も、息が続く限界までのキスをした。いつもはとろけるように甘いキスは、涙がまじってしょっぱくなった。耳たぶを食まれた瞬間にイってしまった俺の体内に、トキヤの熱い精液が注ぎこまれる。はぁはぁと息をととのえ、小休憩……と思ったところで、俺は自分の過ちにようやく気づいたんだ。

「音也、ごめんなさい」
「はあ、はぅ、ときや……?」

薬、多分ひと瓶全部入れたのは間違いだった。トキヤのものは、射精したはずなのにまだまだ堅さと熱さを保ったままだった。俺を見る目線だって、欲に濡れた雄そのもの。

――彼は俺のことを欲しがってくれますか?

そう望んだのは紛れもなく自分なのに、恋人のその表情を目の当たりにするのはこんなにも嬉しく照れくさいものなのだろうか。かぁっと顔が熱くなった気がした。

「舌をかまないように、していてくださいね」
「え……ひゃぁっ」

何もいえずにいると、また目の前の景色が変わる。仰向けにされ、脚が胸につくくらいに体を折り曲げられて。がつがつと斜め上から腰を打ち付けるように雄丸出しでがっつくトキヤに、俺の胸はまたきゅうっと音をたてた。こんな風にされてもかっこいいと思うだなんて、二ヶ月焦らされてる間に俺はおかしくなっちゃったのかも。



結局、俺はもう何度射精したのかなんてわからないままに眠りに落ちてしまい――また翌日、授業を休むはめになった。ただ、初めてのセックスの時と違うのは、トキヤも隣にいてくれてるってこと。そう、今日はトキヤも腰がいたくなってしまったのだ。

ひとつのベッドにふたりで大人しく横になって、「一緒だね」と笑う俺に、トキヤが「こんなの、今日だけですよ」って笑って返す。「トキヤが抱いてくれるなら、もう薬なんて使わないから大丈夫だよ」ってちいさな声で言うと、「わたしだって、ずっとあなたのことを抱きたかったんです。努力してくれて、ありがとう」ってちいさな声で言われた。

二ヶ月ぶり二回目のセックスの後のキスは、これ以上ないくらいにしあわせの味がした。





end

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20120802 新規作成
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