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セカンドバージン -1-

『魔法の薬』なんて謳い文句を信じたわけじゃない。

けれどこの一週間というもの何をやっても効果なんてなくて途方に暮れた俺は、普段ならば絶対に信じないような小道具にすら、この現状を打破してくれるのなら……と縋り付きたくなったんだよ。

寮の宅配ボックスから荷物を受け取り、誰にも見られないように早足で部屋に戻った。ガムテープを剥がして、震える手で山盛りの緩衝材の中からお目当てのちっちゃな小瓶を取り出す。部屋の明かりに透かしてみるように頭上に掲げると、中身のうっすらピンク色の液体が、とぷん、と微かな音を立てた。

――かみさま、これがあれば、彼は俺のことを欲しがってくれますか?



****

付き合い初めて3ヶ月。ひとことで言うならば、裏切られた気分だった。

勿論、トキヤに何かされたってわけじゃない。トキヤは付き合う前も、付き合いだした頃も、今だってちゃんと優しい。HAYATOとしてのおはやっほーニュースがあるから朝は一緒にいられないけど、夜帰ってきたらそのぶんも取り戻すようにたくさん話をしてる。それに――毎朝、俺の寝顔に『行ってきます』ってこっそりキスしてくれてるの、俺はちゃんと知ってるよ。寝たふりしててごめんねトキヤ、でもお前からのキスは俺にとってその日一日を頑張るための朝ごはんみたいなものだから、どうしてもやめられないんだ。

だから裏切られたっていうのは、トキヤにじゃない。何と言っていいか難しいけど、多分、自分の中の幻想に、だ。俺は、好きな人と想いが通じあって恋人っていう関係になったら、当然のように抱き合うようになるんだと信じてた。好きが高まって、そういう雰囲気になって、どちらからともなくキスをして、そうして、心もからだもこれ以上ないくらいに近い距離で体温を分け合うんだと。

けれど実際には、そんなふうに恋人の体温を感じたのはただの一度だけ。あのくらくらするような深いくちづけも、耳元で自分の名を呼ぶとろけるような声も、からだの奥深くでいとしい恋人の熱を受け止める感覚も、全然全部一度きりだ。



俺とトキヤが最初で最後のその行為をしたのは、付き合い始めて一ヶ月の記念日。初夏を迎えようやく濃くなった木々の緑に、雨の雫を受けてきらめく紫陽花の花がよく映える季節だった。本当は、トキヤは記念日なんて覚えてないかなって思ってたんだ。だってトキヤはHAYATOの仕事もSクラスの課題も忙しいし、そもそもそんな女の子みたいなこと、覚えてないかなって。けどその日の夜、食卓には俺の大好きなカレーとサラダ、それからトキヤ手作りのプリンを生クリームとフルーツで彩ったちいさなデザートが並んでた。トキヤは細いのに体系維持にすごく拘ってるから、普段だったらこんなのありえない。だから、もしかして、って思ったよ。もしかして覚えててくれたのかなって。言葉にはできなかったけど、俺はよっぽど嬉しそうな顔をしていたのかな。トキヤはくすくす笑いながら、『今日は何の日か覚えてますか?』って頭を撫でてくれた。覚えてるよ。ていうかトキヤこそ、覚えててくれたの?嬉しい、ありがとう、大好き――俺はそんなことを早口で言って、気付いたら少しだけ身長の高い恋人に抱きついてた。

その日の夜、俺は初めてトキヤに抱かれた。ローションやコンドームが準備されていたのには驚いたけど、トキヤはすごく真面目な性格だから、きっと男同士のやり方を調べてくれてたんだと思う。そうして、長い時間を掛けてようやく成功した初めてのセックスは、やっぱりものすごく痛かったけど、それ以上に幸せだった。トキヤが俺の名前を呼ぶ声が、俺の肌に触れる手がひどく優しくて、涙と一緒に好きが溢れて止まらなかった。

ただ、どれだけ好きでも体にはそれなりのダメージがあったみたいだ。次の日、喉と腰と、それからお尻になんとも表現しようのない傷みを感じた俺は、初めて午前中の授業を欠席することになってしまった。とはいえ、別に一日くらい休んでもどうってことないんだよ。その日に重要なテストがあったわけじゃないし、だいたい初めてセックスをした次の日なんて、たとえ真面目に出席して授業を受けても大して頭に入らなかっただろうから。でもやっぱり真面目なトキヤは、俺だけを休ませてしまったことにそれはもうひどく責任を感じてしまったみたいだ。

その日から今日に至るまで、俺とトキヤはセックスしていない。気まずいとかはないよ。いつもどおりにキスやハグは普通にする。それに、お互い手で抜き合ったりもする。……けど、それでも挿入はない。そう、俺は今いわゆるセカンドバージン状態なのだ。



俺は健康な高校生だから、それなりに性欲だってあるんだよ。手で抜き合う時に、何度したいって言ってしまおうかと思ったかなんてわからない。『手だけじゃなくて、トキヤと抱き合いたいよ』って。でも、トキヤはきっと俺のからだを気遣ってくれているんだっていうのはちゃんと理解できてた。今衝動のままにトキヤを誘って、何の準備もなしにまたセックスをしても、きっとこの繰り返しだ。俺が痛がってしまえば、きっと優しいトキヤに気を遣わせてしまう。それはだめ、だめなんだ。俺はセックスがしたいんじゃなくって、ちゃんと二人で心から幸せになりたいだけなんだよ。

トキヤが俺に気を遣わなくていいように、ちゃんと痛みなく受け入れられるからだになろう。誘うのはそれからだ――二度目がないままに二ヶ月目の記念日を迎えて、この状態ってもしかしてセカンドバージンなのかもって気付た俺は、そう心に決めた。そして、そのための努力なら何だってした。こんな相談誰にもできないから、インターネットに頼った。最初は自分の指と、トキヤが準備してくれてたローションで。1本がやっとだったのが2本、3本になった頃、アナルプラグの存在を知った。
俺はまだまだ15歳で、こんなものを買っていいんだろうか、と思わずにはいられなかったけど、トキヤの引き出しからこっそり拝借していたローションも残り少なくなっていたし、トキヤとのあのしあわせな時間の為だと自分に言い聞かせてローションとアナルプラグをカートに入れて注文確定のボタンを押した。
宅配ボックスに初めて荷物が届いた時のことは、今でも忘れることができない。中身がばれないかと背中を嫌な汗が伝ったけれど、差しさわりのない差出人名と、雑貨とだけ書かれた品名欄に心底ほっとした。部屋に戻り段ボールのガムテープを剥がすと、大量の緩衝材に埋もれたアナルプラグの箱と、ローションが入っていた。隠し場所に困って、ベタだけど机の鍵がかかる引き出しにしまった。

それから、俺の『トキヤとちゃんとセックスできるからだになるための作戦』がはじまった。授業と自主練習を終えて帰宅すると、シャワーを浴びてひんやりと冷たいアナルプラグで自分の後ろを解す努力をした。夏休みになってからは、昼間からすることもある。それまではトキヤの帰宅が遅いのは寂しいと思っていたけど、このときばかりはそれを有難いと思った。
ローションをアナルプラグとアナル両方に塗って、初めて突っ込んだときの衝撃はなんともいえないものだった。正直、気持ちよくはなかったし、むしろ慣れるまではじんじんとしてどちらかというと痛かった。けれど、恋人の仕事中にこんなにいやらしいことをしている――そんな背徳感に背筋がぞくぞくと震えて、俺のものは毎回先走りを零した。その場でオナニーをしてもよかったんだけど、なんとなくそれはできなかった。だって俺の目標は、気持ちよくなりたい、じゃなくて、トキヤとセックスができるようになることだから。
生々しい話だけど、最初から大きいのは無理だったから、サイズは段階的に大きくしていった。あの怪しいサイトからの通販にも慣れた頃、それなりに太さのあるアナルプラグもどうにか飲み込めるようになった。黒光りするそれを片手にトキヤのもこれくらいの太さだったかな、って考えてしまった日には、思わず中に入れているときに快感を求めて抜き差ししてしまった。今俺の中に入っているのはトキヤのなんだ、って脳が勝手に判断してしまったのか、前を触ってもいないのに本当にイってしまったことは絶対に絶対にナイショだ。



とにかく、俺はたっぷり3週間の時間を掛けてようやく目的を達成することができたんだ。問題は、それをどうやってトキヤに伝えるかだった。これも、色々と試してみた。夜、風呂上りにトキヤのパジャマを上だけ借りてみたり、おやすみをいった後にトキヤのベッドにもぐりこんでみたり。でも、トキヤはそんな格好では風邪を引きますよと下も穿かせたし、ベッドに潜り込んだ俺を腕枕していつもどおり寝た。こんな鈍感だったっけ、ってちょっとだけ拗ねそうになったけど、俺の誘い方が遠回しすぎたかなって反省した。おととい久しぶりに抜き合った時には、イった後に「もっとして」って気持ちを込めてぎゅうっと抱きついてみた。けど、やっぱり効果はなかった。

だからコレを買ったんだ。どんな男でもその気にさせるという、『魔法の薬』。いわゆる、媚薬だった。






改定履歴*
20120802 新規作成
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