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2/22の奇跡 -1-

それは、春の足音が聞こえてくるような、おだやかで明るい朝だった。
いつもと同じ時間に主人を起こすべく寝室へと赴いたセバスチャンが厚いカーテンを引くと、
部屋いっぱいに朝のさわやかな光が注ぐ。窓を開けてみれば小鳥の囀りも聞こえ、
それに誘われるようにベッドの上の白いシーツのかたまりがもぞもぞと動く。

「坊ちゃん、朝ですよ」

そっとシーツを捲ってみる。シエルは横向きにくるんと背中を丸めて眠っているようだった。
ああ、今日も可愛らしい。細く艶やかな髪、真っ白なきめ細かい肌、ほんのりと赤いやわらかな頬。
宝石のように大きな瞳は今は隠されているけれど、伏せた睫毛が目元に影を作ってとても美しい。
それから、左目とおなじ輝きを放つ深い蒼のピアスに、ふわふわであたたかな毛並みの耳。










………は?




がばっ、と音がしそうなくらいの勢いで残りのシーツを捲ると、
そこにはたしかにシエルがいて、その頭からは猫とおなじかたちの耳が生えていた。
何度目を擦ってみても、間違いない。ふわふわの、あたたかな猫耳。
それから、寒そうに自分のからだに巻きつけているのは耳とおなじ色のきれいな毛並みのしっぽ。

「んー…、ぅ…ん」

突然さらされた外気の冷たさに目を覚ましたのだろう、シエルはむにゃむにゃと唸りながら
ゆっくりとうつぶせになり、そのまま猫のようにぐっと伸びをした。
驚いた表情のまま固まっている執事を見上げて、にゃぁ、と挨拶のような鳴き声をあげる。
いつもはすぐに渡される紅茶が貰えないのが不思議なのだろう、その視線はすぐにワゴンに向けられた。
くんくんとにおいをかぐようにちいさく動く鼻が可愛らしい。

「セバスチャン?」
「…おはようございます、坊ちゃん」

そうだ、何をぼさっとしているのだ。たかが猫耳。猫耳ひとつで取り乱すなんてばかばかしい。
『ファントムハイヴ家の執事たるもの、主人にねこみみがはえたくらいで動揺していてどうします?』
セバスチャンは自分にそう言い聞かせ、気を取り直していつもの笑顔で挨拶をしてカップにミルクを注いだ。
今日は紅茶ではなくホットミルクにしておいてよかった、と偶然の一致に満足そうに頷きながら。

「今日ははちみつで甘みをつけたホットミルクをお持ちしましたよ」
「…僕、なんか今日はミルクがいいって思ってた気がする。なんでだろう」
「きっと猫さんだからでしょう。さぁ、どうぞ。」
「そうか猫だからか。僕としたことがうっかりしていたな、猫だから仕方ないな。…ん、熱っ」
「!――坊ちゃん!!」

『猫だから』そんな馬鹿げた理由を答えを返す自分もどうかと思ったが、
すんなり納得するシエルが不思議といえば不思議だった。だがそれを深く考える間もなく、
温度に驚いてカップを落とそうとするシエルを慌てて抱きとめると、至近距離で視線が交わる。
「あついよ、セバスチャン…」おおきな瞳に涙を一杯にたたえてそう言われてどくんと心臓が高鳴った。

「申し訳ありません、マイロード」
「僕、猫舌になったみたいだ」
「そのようですね、猫さんですから仕方ありません」
「うん…びっくりした」
「…火傷など、なさっていませんか?」

わからない、とこどものように小首を傾げる仕草に誘われるように――
いや、元からそのつもりだったのだろう、セバスチャンはベッドに乗り上げると
シエルの細い顎に片手を添えて自分の方を向かせ、そっと唇を塞いだ。
さくらんぼのように赤く色づいた唇は無防備にも緩く開いていて、その隙間から舌を進入させる。
起きぬけでまだ意識がぼんやりしているシエルがたいした抵抗もしないのをいいことに、深く深く口付けた。

舌や上顎の裏をなぞり、ちいさな舌へ自身のそれを絡ませて。
これも猫だからだろうか、いつもより尖っている犬歯をなぞってみると、シエルはふるりと背筋を震わせた。
お互いの唾液が混ざってくちゅくちゅという水音がシエルの耳に届き、顔がだんだん赤く染まる。
いつのまにかセバスチャンにすがりつくようにしていた指先には次第に力がこもっていった。

「ん、ん…っ、ぷは、」
「火傷は、大丈夫みたいでしたね」
「やけどより、息がくるしかった!」
「申し訳ありません、主人のお体の隅々までお調べするのも、大事なお仕事ですので」
「だからって、こんな…朝から」
「坊ちゃんが悪いのですよ?
 こんなにかわいい耳やしっぽだけでなく、目線や声全てで私を誘惑してくださるのですから。」

低くてあまい、悪魔の声。この声に弱いのは猫耳が生えても変わらなかったらしい。
シエルはぴくんと体を震わせそのまま固まってしまうと、唯一自由になるらしい目線で
目の前の恋人を見上げた。その目には先程のキスの快感によるものだろう、涙の薄い膜が張っていて、
それはうすくひらいたままの唇から見える赤い舌と合わさりセバスチャンの欲を煽った。

「坊ちゃん、今日はご予定を全てキャンセルいたしましょう。身体検査をしなければなりません」
「えっ、えっ、なんで、セバスチャン」
「だってほら、猫耳としっぽ。どういう仕組みではえているのか、気になりませんか?」
「あ、でも…待ってそんな急に、あっ!」
「待てません。耳はこんなに敏感で、すこし撫でただけでそんないやらしい声を出される」
「やぁ…っ、だめ、やめろセバスチャン」
「一体どうやってこんなに可愛いオプションをつけられたのです?」
「そんなの、しらな…ひぁあっ」

大きなふわふわの耳を触りながらゆっくりと言葉で追い詰めていって、
最後にそれをかぷりと甘噛みする。
ただそれだけで、シエルの口からは鈴のように可愛らしい声が漏れた。
背中に回した手をつうっと腰の方へ滑らせてしっぽの付け根に触れると、
びくびくと痙攣しながら弓なりに反る細身のからだ。
セバスチャンはその痴態にぺろりと舌なめずりをすると、大きな耳を甘噛みしたまま囁いた。

「坊ちゃん、今日はせっかく猫さんなんですから、気持ちいいときはにゃあって啼いてくださいね?」






改定履歴*
20110222 新規作成
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