ふたりの、はじまり -5-
主人が同じ気持ちだと知っていても、顔を見ながらではとても打ち明けられなかった。らしくない顔の火照りに、きっと赤面しているであろうと予測する。
早鐘を打つ心臓が少し落ち着いた後、返事がないことに気付いてお互いの表情が見れる位置まで距離をとってみればシエルの顔は今までみたことがないくらい真っ赤に染まっていて……それを、どうしようもなく愛しいと思ってしまったのだ。
「坊ちゃん、お顔を上げて」
「セバスチャン……あの、恋、って」
そろそろと自分を見上げるきれいな紫と青碧色の瞳には緊張で薄く涙の膜が張っていた。その瞳でどうしたらいいか分からないという風にじっと自分を見上げる姿が可愛くて可愛くて、だからこんな、らしくないことを言ってしまうのだ。
セバスチャンは自分の中でそう言い訳して、思うまま言葉を紡いだ。
「好きですよ、坊ちゃん」
「――っ」
「貴方は?私のことをどう思っておいでですか?」
「そんなの、言えな……」
「聴かせて」
髪を撫でながら耳の傍で囁かれるとびきり甘い声は、シエルの理性や緊張をすべてきれいに解かしてしまった。それでも顔を見ながらでは恥ずかしいから、細い腕を大好きなひとの首に回して抱きついて、精一杯声を出す。
「……僕も、おまえのことが、すきだ」
ちいさなちいさな声で、ひとことずつ一生懸命に自分の気持ちを伝える主人が愛しくて、セバスチャンはその体をもう一度ぎゅうっと抱きしめて、そっと口付けた。
主人と執事。
人間と悪魔。
けして結ばれるはずのないふたりの、恋のはじまり。
更新履歴*
20110125 新規作成
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