top * 1st * karneval * 刀剣 * utapri * BlackButler * OP * memo * Records

ふたりの、はじまり -3-

「お早うございます、お目覚めの時間です」

 静かにカーテンの開く音とともに広い部屋中を満たす、明るい朝の光。大きなベッドの上、見るからに質のよい寝具に包まれて眠るこの部屋の主人はまだまだ睡眠を欲しているようで、気だるそうにひとつ唸るとシーツを頭の上までたくし上げた。

「坊ちゃん起きてください、ご朝食の準備も整っていますよ」
「ん……」

 ファントムハイヴ家の当主は、若干13歳の少年であった。執事であるセバスチャンに抱き起こされて、小さな欠伸をひとつ。今日の予定を聞かされながら、真っ白で肌触りのよいシャツに腕を通し、当主に相応しい上等な服へと着替えを進める。
 仕上げに、くいと顎を上げるシエルの細い首にセバスチャンは丁寧にネクタイ代わりのリボンを結う。シュルシュルという衣擦れの音がしたかと思えば、次の瞬間には綺麗な結び目が完成していた。

「セバスチャン」
「はい」
「僕は明日から着替えくらい自分でやる」
「はい?」
「靴も自分で履ける、だからおまえは先にダイニングへ向かっていろ」
「――どういうおつもりかは分かりかねますが……。いけません、主人にそのような真似はさせられません」

 毎朝微笑んでおはようの挨拶をされて、抱き起こされて、その上至近距離で着替えの手伝いをされる。優しく触れられる間中平常心を保つのは、今のシエルにとってどんな仕事よりも難しいものとなっていた。
 いくら手袋ごしとはいえ、セバスチャンの大きな手を意識してしまう度に自分の意識の底にある得体の知れない気持ちがどんどん膨らんで、まるで自分が自分で居られなくなりそうな感覚は、恐怖にも似ている。

「いい、本当に自分でできるから」
「上に立つ者は人に傅かれることにも慣れていただかないと。さぁ座ってじっとして」
「――ぁ、やっ!」

 恭しく傅いて華奢なふくらはぎに手を添え、ベッドに座ったままの自分に靴を履かせるその仕草に、シエルの頬がぱぁっと赤く染まる。同時に意識せず口から漏れた自分のものとは思えないほど甘い声が耳に届いて、シエルはすっかり慌ててしまった。

「坊ちゃん?どうなさいました、お熱でも出されましたか」
「や……っ! と、とにかく、もうおまえはあまり僕に触れるな!」

 自分の頬と腕に手を添え不思議そうに顔を覗き込んでくるセバスチャンの視線に耐えかねて、強い口調でそう言い放ってしまった。しまった、口調がきつすぎたかも、そう気付いてみてももう遅くて、すぐ近くにあるセバスチャンの顔をまっすぐ見ることすらできない。






更新履歴*
20110125 新規作成
- 3/5 -
[] | []



←main
←INDEX

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -