ふたりの、はじまり -1-
あいつは、あの日からいつも僕の傍にいた。執事として、ずっと僕の傍に。
執事としてのあいつは完璧すぎるほど完璧だった。僕の代で立ち上げたファントム社が成功を重ねるのも、女王の番犬としての業務を毎回きっちりこなせるのも、あいつの協力無しではありえなかっただろう。
一度は失った屋敷も『家族』も、あいつがまた僕にくれた。騒がしい使用人とお説教の多い執事に囲まれた生活は、表社会と裏社会を行ったりきたり忙しい僕の癒しそのものだ。もちろん、本人たちにはとても言えないけれど。
だからこれ以上、多くを望むなんてことは考えちゃいけないんだ。そんなことわかってる、わかってるけど。
あの声が僕を呼ぶ度、あの手が僕に触れる度に、高鳴る鼓動を抑えることができない。
ただ一度でいい。
あの僕の好きな声で、『シエル』と名前を呼んで貰えたなら。
……こんなの、馬鹿げた考えだな。あいつは悪魔で執事で、僕はその主人。その関係は最初から今まで、そしてこれからもずっと変わらないものなのに。
さぁもうすぐ朝だ。あいつが紅茶を持って僕の部屋に来る。それまでに、寝たフリをしておかないと。
更新履歴*
20110125 新規作成
- 1/5 -
[前] | [次]
←main
←INDEX